02:言ってる意味がわからない!
死霊使い
死者や霊を用いた術を使う者のこと。 死霊使い、屍術師などと訳すことができる。
因みにゲームで私も使った事のある役職である。
どうやって戦ってたかって?棺桶で直殴りだよ。中盤過ぎてから死霊召喚の有用性にやっと気づいた。あれは世界が変わった。
だが今回は死霊使いは私じゃないらしい。むしろ素材って言ったぞこの男。つまり。
「え、私死んでんの?」
そんなまさか。
私の最後の感覚は本当に軽いものだった。
事故のような衝撃も、病気を発症したかのような激痛も何も感じなかった。
そんなに、呆気ないものだったのか。
かと言って悲しいわけでもなく、怒りが湧くわけもなく。
ただただ呆然としていた。
その一言に尽きるだろうか。
「そっかぁ、死んでるってこんな感じなのかぁ。」
天国や地獄に行く訳でもない。
全くの無に還ったわけでもない。
なんだろうか、この中途半端な現状は。
「それが少し違うみたいでな。」
「...は?」
曰く、魂は思考しない、だと。
生前の記憶は残るがそれ以上の思考はしない。
喋る、だなんてありえない、だと。
「な、なら私はなんなのよ...?」
「神秘、奇跡、女帝の贈り物。」
意味がわからない。
前者ふたつで超貴重な存在なのがなんとなく伝わる程度。
って最後のなんだよそれ。
「ありえないけど素晴らしい物との出会いを女帝の贈り物と言う表現を知らないのか?」
聞こえてたか。まじか。
「ふむ、この国の存在じゃない、のか?
...やはり古代...いやそれならなぜ今まで...」
男はぶつぶつ呟きながら思考の海へと沈んでいく。
こっちがデフォか。
今まで意思疎通がとれていたのは奇跡なのか?
きっとこういうやつを【残念なイケメン】と言うんだろうな。
ひとりで意味も無いことを考え頷く。
...正直にいえばそれ以外で私一人で出来ることはないのだ。
「あぁ、すまない。いつもこうなんだ。」
自覚済みか、改善しろよ。
「さて、少し話した方がいいのかもしれないな。」
失われし国、アンゲルス。
今やそこには何も残らないまっさらな土地。
そこで何があったのか、どんな存在が居たのか。
全てにおいて謎に包まれている場所。
ただひとつ、【世界の穴】と呼ばれるモノがあるという点以外では。
【世界の穴】は文字通り世界に空いた穴。
もうひとつの世界に通じているとも言われているがそこを覗いて帰ってきた者はいない。
危険地帯として知られ侵入は推奨されない。
クレーターだらけの地表しかなくどんな学者であろうとも、もうそこに興味を引く物なんてない。
そう思っていた。
「そんな危険地帯に君はいたというわけだ。」
何が面白いのかくつくつと笑いながら男は語る。
その日何故そこに向かったのか。
特に理由はない。
気が向いた時に勝手に侵入している。
それだけだった。
【世界の穴】のすぐ側に紫色に光る魂を見つけた。
まるで生者のそれのように燃えていた魂を。
ありえない、そう思った。
本来我々が扱う魂は既に死んでいるが故に弱い光しか発せない。
ランタンにも劣る程度の青白い光が一般的なのだ。
それがこの魂はいったいなんだ。
赤みの強い紫色が眩い程に輝いて。
綺麗だと、そう思った。
次に興味をそそられた。
そして
「持って帰ってみたら喋った。」
男は指を1本立てて軽く言う。
「うん、全くわからん。」
失われし国?アンゲルス?
まったく身に覚えがありません。
「アンゲルスも知らないなら...いや、記憶障害のようなものがあったか...それとも...。」
また潜るか。
夢物語の様な話をされても何一つピンとこなかった。
夢か?頬を抓る...って手がないんだった。
それ以前に死んでいるんだったか。
何一つままならない。
目を閉じてみる。
目なんてないんだろうけど。
気分だ気分。
あ、だんだん眠たくなってきたかもしれない。
眠れそうなこの瞬間の心地良さに私は身を任せた。