01:何もかもがわからない!
長い髪を風に躍らせ葉桜並木を横目に歩き出す。
行きかう人々はすれ違う相手なんて気にも留めない、そんな街。
少し重たいスクールバッグを肩にかけなおす私も周囲なんて関係ない、そんな顔で歩き続ける。
…はずだった。
とんっと押しのけられるような小さな衝撃を感じた、ような違うような。
それが私の覚えている最後のことだった。
何も覚えていない、そこで何があったのか。
今ここで何が起きているのかさえも。
薄暗い部屋。地下室のようなひんやりした空気。
そして目の前には鉄格子。
攫われた?そんな馬鹿な。
平和な街だぞ?拉致監禁?
治安のいい国日本だろ?
だいたいなんで私が…。
私はただの…
そこで気付く。
あれ、私は…だぁれ?
いや、おかしい。
さっきまで普通に生活していたはず。
そうでしょ?花の女子高生だもの。
通学していたことは覚えているんだもの。
それ以外は?
大雑把なことはわかる。
少ない情報で地下室と推測するだけの頭はある。
目の前の鉄格子だってまるで鳥籠のようだってわかるもの。
…って鳥籠?
やっぱり攫われたのかしら。
そして頭でも打った?
…痛くないけど。
薄暗い部屋にぽつんと置かれた籠の鳥。
ああ、私に自由なんてないのね…!ぐすん。
なぁんてふざける余裕はあるみたい。
身体は…うまく動かせないかな。
縛られているのかしら。
でも苦しくはないし…。
そんな事を考えながらその場をくるくる動き回る。
怪我はない。
どこも痛くない、もちろん頭も。
そしてお腹は空いていない。
つまりそんなに時間はたっていないと思われる。
ああでもないこうでもないとうなっていると影がかかっていることに気が付いた。
薄暗い、この部屋で。
「…ん?ってでかっっ!」
変態じみた恍惚とした表情を浮かべる男の姿を確認した。
しかもでかい。常識外れにでかい。
やめてくれよ、こんなの逃げられないし怖いわ。
夢でしょ覚めてくれよ。
私手のひらサイズじゃないの悪夢だね!!
そもそも檻の中だった!私の精神状態どうなってるのかしら。
あ、でもちょっとイケメンかも。若干窶れてるけど。
顔色悪いし表情やばいけど。
あれ、総合したらただのやばい人じゃん。
私の精神状態と明晰夢についてググらせて。
白と灰のツートンカラーの髪を乱雑になでつけ草臥れた白衣を纏う男は私が見上げるほどに大きかった。
あれ、もしかしたら私が手のひらサイズに小さかったする?
不思議の国のアリス症候群的な。
いくら夢でもまだ私は私を飲んでなんて書いてあるドリンクは飲んでないから貴方がクッキーを食べたのね!
なんて現実逃避をしてみても夢は覚めないわけで。
「ふむ。私はクッキーなんて食べた記憶はないが…。」
…あれ?声に出していた?
「まぁ聞こえているならちょうどいいわ!
私をここから出してちょうだい!!」
そう叫べばその顔に歓喜の色を浮かべる、なんでだよ。
「言葉はしっかり伝わっている!受け答えもはっきりしている!
これは奇跡か?ああ、女帝の加護に感謝を…!」
微妙に伝わっていないような気もするけれど…。
私じゃなくて女帝に感謝かよ。宗教かしら。
ぶつぶつ呟きながらそいつは一心不乱に紙に文字を書きなぐっている。
その様子に声をかけていいのかわからずとりあえず紙をのぞき込む。
紙の上の文字はちょっとよくわからない。
まあ私英語嫌いだし。
手持ち無沙汰に足元に視線が行く。
別にボッチじゃなかったし…って足元…?
「ちょっと!足ないんですけど!!!」
今までなんで違和感もなかったのかわからない。
所詮夢でも気分は悪い。
うろうろしてたはずなのに!
「足が欲しいのか。せっかくだ、君の希望を叶えようじゃないか。」
狂ったマッドサイエンティストみたいに見えて来たわ。
あれ、それじゃあ一周回って普通の科学者だわ。
じゃあマッドサイエンティストで。
「他に希望はあるか?
なければこちらで見繕うが。」
「ちょっと待ってよ!意味が分からないの。
多分話が噛み合ってないわ!」
気持ち腰に手を当てふんすっと胸を張るイメージ。
気持ちだけよ気持ちだけ。
…手もないかもしれないなんて考えたくもないもの。
なるほど分かった、と男は口元へ手を持っていき一瞬考えるそぶりを見せた。
「簡単なことだ。君は魂、私は死霊使い、そういう関係だ。」
「…は。」
まさに絶句。
そんな可能性が頭にあるはずのない私にはこの状況は仕方のないことだと思う。
夢占い
薄暗い場所
運勢は下降気味。悩みやストレス疲れがあるのかも。
しばらくもやもやは続くかもしれないよ。
地下室
思い出したくない過去や知られたくない秘密があるのかも。
鳥籠
自由を求めているしるしかも。
うーん、今日の運勢はあまりよくないのかもしれないわね…。
でも諦めないで前を向いてFIGHT!