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第1章:最強の刺客ー008ー

 真紅の円眞(えんま)の苛烈な声調に震え上がったのは、助けてもらったモヒカンだった。


 攻撃を阻まれた二人は、ほぼ同じ作りの顔である。髪も揃って白銀だ。ただ長さが違うことで両者を見分けさせた。毛先が顎に当たるボブと刈り上げたショートといった髪型が、少女と少年の風貌として判別をつかせる。

 

 少女の顔立ちをしたほうが口を開く。


「お兄さまを傷つけようとする者は、許さない」


 ふっと真紅の円眞は微かな笑みを閃かせた。


「ならば、この奇妙な頭の者とて、家族を殺されている。サミュエルが興した組織の者によって嬲り殺しにされたようではないか。だから、この場はこれで収めるがいい。これ以上の殺戮は、むしろサミュエル自身を苦しめるだけだぞ」 

     

 図星か。くっと言葉を詰まらせる少女はアイラだ。姉さん、と少年みたいなマテオが呼ぶ声は、敵の発言に一理を認めている。


「ふたりとも、もう止めて、こっちへ来てくれ」


 サミュエルに言われれば、呑むしかないようだ。悔しそうな顔を見せたアイラだったが、マテオと共に姿を消した。


 瞬時にして、サミュエルの両脇へアイラとマテオの兄妹が控えていた。


 真紅の円眞がモヒカン頭を押し退けて、前へ出る。


「それでいい、我れはスキルなどと呼ばれる程度の者と相手する気はない」


 なにを、と熱り立つアイラを腕で制するサミュエルだ。


「感謝するよ、アイラとマテオに『火』の力を奮わないでいてくれて」

「なに、気にするな。オマエが異能力なんとかという組織の上に立つのも、我れを炙り出すためだろう。元を糾せば、我れに原因があるからな」

「そう言ってもらえて助かるよ。やはり神なんて呼ばれる力を持った者同士だけで、決着をつけるべきだしね」

「ああ、我れもその点には同意しよう。だから……」


 真紅の円眞は返事を途中で止めた。条件反射のように左手に発現させていた短剣を素早く首元へ翳す。すぐ傍にまで来ていた攻撃の刃を受け止めていた。


「お兄さまを殺させやしない」


 アイラの振り絞る声に、真紅の円眞の目に憐れむような色が浮かんだ。


「おまえたち姉弟の能力が、瞬速の移動ということは判っている。最強に類するものであるかもしれないが、我らのそれとは違う。割り込む真似は止すことだ」

「そうかもしれない。けれどお兄さまの存在は、私にとって全て。私の命はお兄さまのためにある」

「それはサミュエルにとっても同様だと、なぜ解らぬ」


 えっ? となるアイラだ。思いも寄らない指摘に固まってしまう。


 真紅の閻眞円眞の短剣が一閃を描いた。


 アイラは血飛沫を挙げると同時に消えていく。

 マテオによって、引き戻されていた。


「大丈夫か、大丈夫なんだよな、アイラ」


 血相を変えてサミュエルは跪き、マテオが横たえたアイラを抱きかかる。


 そんな三人を見降ろすような真紅の円眞だ。


「しばらく歯向かってこれぬよう、右腕を傷つけただけだ。命には別段差し障りないから、安心しろ。ただ放っておけばおくほど治癒は難しくなるぞ」

「腕なんかなくなっても構わない、私は命に代えてもお兄さまに危害を加えるヤツを倒します」


 痛みに顔をしかめながらもアイラの叫びは火を噴くようだ。

 サミュエルは腕のなかでも闘志を失わないアイラに、軽く首を振って語りかける。


「今日のところは、もういい。それより早く手当にいこう。命までといかなくても、傷は深いには違いないからね」


 確かにアイラの右腕から流れる血に止まる気配はない。それでも傷を負った当人は立ち上がる。


「いけません、お兄さまがどれだけこの日を待ち望んでいたか判っています。ウォーカー家の当主を守るが、私たち姉弟の役目であり、育ててくれた養父母に報いることです。お兄さまが命を賭けようとしているこの事態を後ろでやり過ごすわけには参りません」


 サミュエルの腕を振り解いてアイラは立ち上がる。「いいわね、マテオ」と弟に声がけしつつ左手に短剣を持つ。上がらない右手の先から、赤い雫が滴り落ちていた。


「はい、姉さん」姉の覚悟を呑み込んだマテオが決意を込めて返していた。


 真紅の円眞がため息を吐くような顔をした。


「言っておくが、我れでも手負いとはいえ本気の姉弟に加減できないぞ」

「構わないわ。私たちが倒れるにしても、必ず貴方に傷を負わせる。お兄さまの勝機に少しでも繋がる成果を挙げられればいい」

「そうか、ならば我れも全力でいくしかあるまい」


 真紅の円眞は右手に火の剣を発現させた。

 それから残る左手にも、氷で刃を象った剣が現れた。


 なんてこと、とアイラが洩らせば、感情を見せてこなかったマテオにまで驚愕が認められた。


 『火の剣』それは当てがついていたことだった。だがまさか『氷の剣』まで発現させるなど想像の埒外にあった。

 複数の力を所持するなど、能力においては稀であり、神とするレベルするならば考えられない。

『火と氷』二つというだけでなく、相反するからこそ絶大な強力さを発揮しそうな双剣を手にする真紅の円眞だ。相手にするならば最悪を覚悟しなければならない。


 驚きはしたものの当初の決意は揺らがないアイラは利き腕ではない左手にある短剣を握り締めた。危険度が増せば、なおのことだ。サミュエルのために少しでも戦闘力を削っておくため、より覚悟を固めたようだ。


 いくわよ、とアイラがマテオに合図を送り瞬速の移動能力を発現しかけた。


「結婚しよう、アイラ」


 不意を突くサミュエルの声だった。

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