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第1章:最強の刺客ー006ー

 黒い目の普段から想像もつかない雰囲気を発する真紅の瞳の円眞(えんま)だ。


 誰もが異変に固唾を飲む中で、苦鳴が挙がった。

 エンゾからだった。身体正面から切り裂かれて血を噴き立たせている。

 エンゾっ! とミゲルは叫び傷ついた身体を抱き止める。


 円眞が意識がない黛莉(まゆり)を持ち直していた。もう片方の手には剣を発現させている。伸縮自在な刃を振るう体勢のまま、血が止まらない弟を抱えた兄へ非情な台詞を投げた。


「楽には死なさん。そやつがなぶり殺しにされるさまを、しっかり目に留めるがいい。それが貴様がこの世で見る最後の光景だ」

「なぜだ! 我々三兄弟のスキルは触れられただけでスキルを無効化できるんだ。いくら不意を突かれようとも関係なかったはずなのに」


 ミゲルの叫びに、ふっと笑う真紅の瞳の円眞だ。


「スキルなどと呼んでいるらしいが、所詮、人間が持つ少しばかりおかしな力にすぎん。我れのそれとは根本的に違うからな」

「じゃあ、今までの黎銕円眞(くろがね えんま)はなんだったんだ。僕のスキルは効いていたぞ」

「貴様は逢魔街しか知らないと認知の狭さを指摘してきたが、己れの置かれた立場でしか物事を照らせなければ、いくら広く知見を得ても無駄だということだ。なんだ、新たな能力者の誕生に賭けたいなどといった夢想話しは。それで一人の女の人生を滅茶苦茶にしようというのか。くだらん」


 真紅の瞳の円眞が黛莉を抱く腕に若干力がこもったようだ。突き出した剣は能力による発現であれば、刃は伸びる。能力無効化の能力は効かない。向けられた相手にすれば、距離はないようなものだった。


「ミゲルといったか。貴様の目は弟の死に様を灼き付けて潰される。それから口だけ残して、一族の元へ送り返してやる。さすれば貴様らは、二度と黛莉に手を出そうなどと思わないだろう」


 酷薄な内容にミゲルは震えが収まらない。逢魔街(おうまがい)で雇った三人組へ顔を向けて、叫ぶ。


「手を貸してくれ、金は払っただろう」


 すると槍を持ったモヒカン男が代表して答えた。


「悪いが、俺ら退かせてもらうわ」

「なんでだ、ここで止めたら残りは払わないぞ」

「ああ、いいぜ。金は欲しいが、命あっての物種だからな」


 くっ、とミゲルは無念そうに睨む。血が止まらないまま横たわるエンゾを抱える姿に哀れを感じたか。やり過ごすことなく槍を持つモヒカン男が言う。


「約束は、あんたらがスキルを無効化したうえでの助太刀だったはずだ。ところがどうだ、スキルがどうこうのレベルじゃない。やっぱり黎銕円眞は、あの『逢魔七人衆』を一瞬で倒すだけのヤツだった。俺らごときが、手を出しちゃいけない相手だったというわけさ」


 絶望しかない説明を聞き終えたミゲルに、真紅の円眞から声が届けられる。さぁ、覚悟するがいい、と。


 やめろっ! と絶叫してミゲルはエンゾを置いて身体を投げ出した。盾になるがごとく広げた両腕の付け根と両脚の腿へ剣の鋒が突き刺さっていく。

 円眞が片手にする柄から伸びた刃は、途中で四枚に割れた。造作もなく変形されられるだけでなく、ミゲルのスキルでは無効化できないことを改めて報せてくる。

 膝を折るミゲルの腕は上がらない。


「おとなしく弟の最後を目に焼き付けるがいい」


 真紅の円眞の慈悲ない宣告が下った。


 ミゲルは涙を飛ばして請う。


「やめろ、やめてくれ。せめて殺すなら、エンゾじゃなく僕にしてくれ。頼むから弟は助けてやってくれ」


 聞き耳は持たぬといった真紅の円眞の刃が伸びていく。

 鋒がミゲルをすり抜け、エンゾの喉へ届く、その寸前だった。


 円眞の刃は阻まれた。

 風によって。



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