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第10章:真実の紅ー005ー

 伸ばした手を引っ込めた黎銕円眞(くろがね えんま)は、不敵に笑う。瞳の色は赤から、今や真紅で輝くようだった。


「お前が言う『円眞』だぞ」

「ウソだ、なんだかよく分からないが、ワタシが好きな円眞じゃない」


 すると黎銕円眞が胸の前で腕を組んだ。妙に考え込む素振りだ。


「状況判断ではなく、感覚で見破ったというわけか。これがオンナの勘というものだとしたら大したものではないか」


 頓珍漢な感心ぶりだが、ふざけている様子には見えない。雪南(せつな)は自分が知る円眞の姿を垣間見た気がする。だから余計に何がなんだか、となっていく。


 傍にいた雪南が困惑するくらいだ。

 敵対側に身を置く者ならばなおさらだった。


「おい、黎銕円眞は人殺しには躊躇するヤツじゃなかったのか!」


 ラウドが驚愕するまま叫んでいる。この場にいる全員の共通認識を表した声だった。


 円眞が顔を振り向けてくる。

 赤などの表現では収まらない。まさに瞳は鮮やかな真紅となった色をしている。


 敵の誰もが、得も言われぬ戦慄に見舞われた。


 同じ相手であるにも関わらず、今初めて会った気がする。別人としか思えない。しかも只者ではない。


「うるさい連中だ」


 冷たい囁きに直感を覚えた者だけだった。向かってくる刃から逃れられたのは。


 真紅の瞳の円眞は、右腕を前へ突き出した。

 手には発現させた剣が握られている。刃を伸ばしてくる。

 ここまでは敵のいずれも予想できたことだ。


 伸びてきた刃が、突然に分かれた。数切れないほどへ分離する。


 分かれた刃の数が敵の数だけと知るは襲撃の後だった。


 刃が黒づくめ装備の大半を貫いていく。

 異能力世界協会から派遣された四人と、その傍にあった壬生に、黒づくめ装備の幾人かが凌いだ。咄嗟に避けるか、己れの武器を身代わりに立てたか。壬生だけは寸前でノウルが地面へ引き倒したから逃れられた。


 何百といたはずが、たった十数名になった。しかも声が挙がることなく、一瞬で。


 凄まじい鏖殺ぶりを見せた刃を一斉に引き揚げる真紅の瞳の円眞は、傲然と言い放つ。


「我れは、この女と話しているのだ。邪魔をするな」


 圧倒的な能力と威圧さに、僅かに生き残った者たちは言葉を、その息を呑み込んだ。

 けれども世界にその名を轟かす組織から派遣された精鋭だ。うち最も大柄なラウドが息を吹き返したかのように声を張り上げる。


「ふざけるなっ。誰だろうとかまわねー、ぶっ殺してやる」


 やれやれといった表情の、真紅の瞳の円眞(えんま)だ。取り敢えずといった調子で雪南(せつな)へ顔を向けた。


「オンナ、ここを動くな。さすがに我れでも女を片手に戦おうとは思わん」

「ワタシを守るというのか」

「仕方がなかろう。我れは貴様の命など、どうでもいいが、彼奴(あやつ)の気持ちは無下にできん。それに……」


 それに? 雪南は切られた直前の言葉を鸚鵡返しする。

 真紅の瞳の円眞は、遠くを見るような目つきで言った。


黛莉(まゆり)から頼まれたからな。雪南という者を助けて欲しい、と」


 それを聞いて浮かべた雪南の表情に、真紅の瞳の円眞は、納得だと言わんばかりにうなずく。


「なるほど、いい顔だ。黛莉が助けてやってくれと言ってきた意味がわかる」

「でも、ダメだ」

「なにがだ」


 表情を曇らせる雪南に、真紅の瞳の円眞はにべもない切り返しだ。


「ワタシを助ければ、世界中から狙われてしまう。円眞にそんな……」

「くだらんな」


 真紅の瞳の円眞は雪南の訴えを一蹴した。


「我れはこの世で最も厄介な連中に狙われている。すでに世界中から標的にされている身だ。今さら何だというのだ。しかも今の相手はたかだか権勢の座にあっただけの者が一人殺されたくらいで目の色を変えてくる奴らだ。恐るるに足らん」


 ふと円眞の真紅の瞳が動いた。右手を振れば、握った短剣が飛んできた矢を捉える。

 パウルの先制攻撃だ。先ほど攻撃した矢より強力な爆薬に能力も込めている。四連射を間断なく繰り返した。

 一本の矢でも爆発すれば一帯の地面を抉る威力がある。徹底的な殲滅を意図した、逃れようない攻撃だった。 


「……バカな」


 パウルがここに来て初めて声を発した。

 斬り落とされるはずの矢が、悉く弾かれていく。真紅の瞳の円眞が振るう短剣は、まるでボールを相手しているかのように矢を叩き飛ばして宙の彼方へ運んだ。大爆発は上空のあちこちにおいて起こった。


 軽いな、と呟きつつ円眞は真紅の瞳を、ボーガンを手にするパウルへ向けた。


「物質の威力に頼らず、己れの能力をもっと込めろ。なんだ、この矢の軽さは」


 くっ、とパウルは構え直して、四連射をもって矢を放つ。今度は爆発ではない、貫通弾に通じる鏃を備えている。三十センチの厚みある鋼鉄さえ突き抜ける威力を持つ。

 それが薄ペラい鋼でしかない剣に、あっさり叩き落とされていた。

 唖然とするパウルへ、真紅の瞳の円眞が諭すように向けてきた。


「物に頼った能力者の典型的なタイプだな。ここ逢魔街(おうまがい)で最凶とされる女が放つ弾の重さには到底及ばん。今一度、能力を磨いて出直してこい」


 真紅の瞳の円眞の言葉が終わるや否やだ。


 ガキンッ、と刃と刃が激しくぶつかる音が立った。


 真紅の瞳の円眞は、短剣を頭上へかざしていた。

 上から振り降ろされた双剣を受け止めている。妖艶な美女が両手で繰り出す斬撃であった。


「あら、残念。もうちょっとで、その生意気な脳みそをぶち撒けてやったのに」


 エルズのからかいが強く滲む言葉にも、真紅の瞳の円眞は不遜のままだ。


「キサマがまだ命があるのは、我れが情けをかけてやったからだぞ。サミュエルのところの連中らしいからな」


 出された名前が、衝撃をもたらすには充分だった。

 円眞の短剣に押し返されて、エルズが宙で一回転する。着地した先には、異能力世界協会から派遣された三人と壬生がいた。



「あなたは、我々の会長を知っているのですか」

 リーダー格にあるノウルが訊いてくる。


「ああ、あいつが組織の長に立つ、ずっと以前からな」

「ならば、貴方も会長の理念は理解できるはずです。どうですか、我々と共に手を取って世界の正義を守る側へ……」


「サミュエルは、相当なペテン師になったようだな」


真紅の瞳の円眞が吐いた内容は思いもかけないものだった。



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