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第8章:決意ー005ー

(わし)ら三人は目的があって集まったんじゃ」


 店内へ入ってから続きの口火を切るは、華坂爺(はなさかじぃ)だ。


 円眞(えんま)がレジを前にする椅子に座り、ジィちゃんズが囲むように立つ。

 現在となれば、この配置もまた意図されたものではないか、と円眞は考える。足腰のために、と立ち姿勢を望んだジィちゃんズだ。けれど真実は、いざという場合に備えてではないか。

 奥に座らせた円眞を守るために。


「儂らは逢魔七人衆(おうましちにんしゅう)と名乗る者たちを消すためにやってきた。もちろんその中には、エンくんの父親である黎銕憬汰くろがね けいた も含まれる。いや他の連中を差し置いても、リーダーである黎銕憬汰の抹殺は果たさなければならなかった」


 ここで一旦言葉を置いた華坂爺だ。真実を知らされた相手の様子を窺う。

 レジ前に座る円眞へ、まじまじといった視線を送ってから意外そうに言った。


「エンくん、あまり驚いていないようじゃな」

「そ、そうですね、確かに。もしここへ来たばかりの頃だったら、ぜんぜん違ったかもしれないですけど」


 答えながら円眞の中で整理がついていく。

 父を含んだ逢魔七人衆を計らずも抹殺してしまった円眞だ。ただでさえ周囲の反対を押し切って会いへ行っただけに、帰れない。頼れる寄る辺も彩香(あやか)しかいなければ、逢魔街(おうまがい)に住むしかなかった。

 とりあえず憬汰が息子のために残したという『クロガネ堂』で生計を営むようになってから一年以上が経つ。


 噂以上の事実を伝え聞くには充分な時間だった。


 逢魔七人衆が、どれほどの強引さで街を支配しにかかっていたか。蛮行と呼ぶに相応しい行為も数えきれないほど行っていたようではないか。

 無法が許されると言っても、それは法令上での話しでしかない。

 被害を受けた者が傷つくことには変わらないのだ。

 皮肉にもクロガネ堂が逢魔街で得意先を作れたのも、円眞が父親を殺害したからとする面もある。


「と、父さんはこの街で、すごく憎まれていたみたいですから」

「エンくんは、かつて各国で世界を滅ぼせるほどの兵器を保有していたことは知っとるかの」


 はい、と円眞はうなずいた。過去に地球を滅ぼせるほどの核や生物・細菌といった殺戮兵器が存在していたことは、学校の授業でも取り上げる歴史的事実だ。


「おおっぴらにはされておらぬが、あれらの兵器を無効にする発明は、全てこの街から生まれてきておる。逢魔街の奇跡というヤツじゃな」


 逢魔ヶ刻がもたらす恩恵は、能力と呼ばれる異能力だけにではない。一般的な才能を超人的なまでに発揮させる事案もしばしばだ。

 逢魔街の奇跡、と呼称される、まさに世界をひっくり返す事象を起こしてきた。


「つまりこの街を支配すれば、世界征服が叶うやもしれぬ。笑ってすませるには、あまりにも実績を作りすぎた」

「で、でも統括を目的にやってきた人間は必ず悲惨な末路が待っていると聞きました」

「公然でなく手を回す方法があるかもしれぬ。現に逢魔七人衆はその可能性を探っていたと思われるからの。なにも手立てはない、とは言い切れぬのじゃ。そして成功は世界の掌握へ至るかもしれん」


 事の大きさが円眞の想像を上回っている。父は紛れもなく、とんでもないことを仕出かそうとしていた。


「すまんの、エンくん。嫌なことを聞かせてしまって」


 華坂爺の謝罪に、円眞は慌てて手を振った。


「そ、そんな。ボクだって、この街で過ごしてきたんです。父さんの噂くらいは聞いてますから、覚悟はデキてます」

「いや何か良からぬことを企んでいようとも、エンくんにとっては優しい父親じゃったのだろ。それを偶発的とはいえ、自ら手をかけさせる真似をさせてしまったことは、儂らの不徳じゃ」


 そ、そんなこと……、と返しかけた円眞に、華坂爺は首を横に振った。


「逢魔七人衆の実力を見誤ったせいじゃ。生還不能を覚悟した任務ゆえ、老体を揃えたことが失敗じゃった。おかげでむざむざ九人もの同志が犬死してしもうた。本来なら生き残った儂らは、エンくんが復讐を果たすべき相手でなければならなかったはずなんじゃ」


 円眞は目前の沈痛な面持ちに何と答えていいか解らない。父の殺害を企てた憎むべき相手などと到底考えられるはずもない。

 ふと円眞にある考えが浮かんだ。深刻に思い詰めてきた反動で、急に込み上げてきた笑いが止められない。


 訝しがるジィちゃんズに、円眞は誤解を招かないよう急いで口にした。


「す、すみません、急に笑い出しちゃって。でも華坂さんたち、ホント優しいな、と思ったら、なんかおかしくて」

「まったくですな、いつもエンくんを甘い甘いと言っておきながら、儂らがこのざまです」


 多田爺(ただじぃ)のもっともだという発言だ。

 すると華坂爺が、憤然と述べてきた。


「なにを言う。儂らがこうも甘々になったのも、エンくんの所に通い詰めたせいじゃ。多田など当初は黎銕の血筋なれば、次第によっては抹殺せねばならぬと息巻いておったではないか」 

「確かに、そうでしたな。華坂爺の言う通り、お人好しはエンくんに当てられた結果でした」


 あっさり降参の多田爺である。


 円眞は、ようやく気づけた気がする。ジィちゃんズがどんな想いで来てくれていたかを。茶化しながらここで生きていくために必要な事項を教えてくれていた。ここで暮らしていく知恵もまた授けてくれていた。

 どれほどの能力を備えていようとも円眞がここまで来られたのは、出会いに恵まれていたからだった。

 恥ずかしいなんて隠してもしょうがない。この人たちに仰がねば円眞は一生後悔する羽目になるかもしれない。


 円眞はつい先ほどまでいた風俗店での一件を話し出していた。



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