表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/165

第8章:決意ー001ー

 やっぱり落ち着かない。

 待合室のソファに腰かける円眞(えんま)は、膝に置いた両手へ力を込める。貧乏ゆすりしそうになったからだ。


 なにせお客として初めて訪れた業態である。


 ケバケバしい感じを予想していたから、簡素で綺麗な内装が意外だった。ビジネスビルの待合室でも通用しそうなくらいである。店長として自ら出る経営者の意向が利いた結果だろう。


 内山爺(うちやまじぃ)から聞かされた武勇伝では、どぎつい装飾がなされた店もまた沢山ありそうだ。 


 円眞としては助かる店の雰囲気である。目前のテーブルがクロガネ堂から買い上げられた代物だと気づけば、落ち着きを取り戻す大きな一助となった。

 それにしても、と少し余裕が出た円眞はちらり部屋を見渡す。


 ずいぶん、お客さんがいるものだ。

 朝一番であれば、自分しかいないかも、と考えていた。実際は自分以外に三人もいる。狭い待合室に、ずらりといった感じだ。当初ビビってしまった大きな要因である。

 こんな早朝からでも押し寄せている状況に、円眞は欲望の底知れなさを感じてしまう。


 そう他人事として捉えていたところで、名前が呼ばれた。


 迎えに来たのは、きっちり身なりを整えた細身の壮年男性である。店長自らのお出ましだ。四十歳すぎだと聞いたが、少なくとも十歳は若く見えた。

 待たせたお詫びとお楽しみください、とする型通りの挨拶を投げてくる。


 立ち上がった円眞は息を呑んで指示されるままに歩き出す。


 階段へ通じる手前に設置された黒きゲートを潜る。これが他の地域と逢魔街(おうまがい)の違いを端的に表すものだ。

 遊びに来たお客でも所持品の検査は絶対である。特に身一つで相対すシステムである。危険物に神経を尖らさなければ、やっていけない。


 空港の金属探知機に通じる役割りを持つゲートに、円眞は引っ掛からなかった。なんとなくほっとしてしまう。

 危険と判断できる所持品はもちろんのこと、能力に対しても密かに探知しているのではと噂されている。普通に考えればあり得ないが、ひょっとしてである。


 この街では何が発明されているか、わからない。


 狭い階段を昇っていくごとに、円眞の鼓動は高まっていく。

 指定されたドアの前に立てば、胸のうちは強打の早鐘だ。手のひらに汗が浮かんでくる。

 本来の目的を思えば、おたおたしている場合ではない。やはり場所が場所だけに変に意識してしまう。しっかりしろ、と自らへ言い聞かせて右の拳を胸に当てた。

 

 コンコン、と円眞はドアを叩く。


「どうぞ、お入りください」


 聞きたかった声がした。


 一気に全身の強張りがほぐれた円眞は、ドアを開けた。


 膝と両手に、額まで床に付けてのお出迎えポーズだった。こちらを確認できない体勢だ。下着が透けて見えるヒラヒラが付いた薄手のドレスが艶かしい。


「このたびはご指名いただきありがとうございます。初出勤なので上手にデキるか不明だが、よろしく頼む」


 つい吹き出しそうになった円眞だ。畏まっても結局は普段の言葉遣いに着地していれば、らしさを感じずにはいられない。


 ポンっと床へ着けた頭に手を載せて、円眞は言う。


「なにやってんの、雪南(せつな)


 あっ、と上げた碧い瞳は唖然としていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ