第6章:明確な対決と不明な横槍ー005ー
笑い主が真琴と判明した際には、辺り一帯を眩い光りが覆っていた。
思わず目を伏せた円眞たちだ。輝光はものの数瞬で止んだが、目を開ければである。
「うそ、どうやって!」
彩香が信じられないとばかり叫ぶ。
見れば刃先に捉えていた楓の頭はない。真琴の片腕の中にあった。
「どうだ、思い知ったかー。これこそまこちゃんパワー。どんなものさえ跳ね除ける怪しげなエネルギーを」
真琴のふざけている物言いだが、事実は驚異だ。特に拘束の糸を放っていた夬斗は、若干の怯みを隠せない。
ゴスロリの黛莉だけは気丈だった。
「妙な力なのはわかったけど、あたしたちのほうが、まだ優勢だからね」
「それは、どうかしら」
頭だけの楓が答えた。
頭しかないくせに、と黛莉が言い返しかけて、気づく。
びっしり取り囲まれていた。
円眞たちが揃いも揃って気づけなかった。けれど原因は誰もが直ぐに思い至れた。
大勢はいずれもが、屍人だったのだ。気配など発するはずもない。
「あんたたち、ちょっとでも噛まれたら、あいつらのお仲間入りだから」
楓の冷酷な宣言だ。
「このバケモノ!」
「知らなかったの」
彩香の悪態にも、楓は何処吹く風だ。生気の失せた気味の悪い者たちが輪を狭めてくる。
ゾンビゆえか、歩みはゆっくりだ。じりじり処刑執行を告げてくるような圧迫感で迫ってくる。ちょっとでも敵の手にかかれば、今の今まで仲間だった者を襲う立場へ入れ替わってしまう。
円眞たち四人はそれぞれ四方を向く形で背を寄せ合う。
状況が見えてくるに従い、想像以上の動員がかかっていることが知れた。ゾンビなどそうそう寄せ付けはしない。しないが、先が見えない物量作戦にどこまで持ち堪えられるかは不明だ。少しでも手にかかれば負ける、防戦しかない戦況である。
非常に危険な状況であった。
ふと黛莉が何かに気づいたように円眞の肩へ身を寄せる。誰にも聞こえないよう、そっと耳元へ囁く。
「出てくる気?」
動作どころか呼吸さえ止めたような円眞が、普段にない低い声で答える。
「黛莉に危険が迫っているようだからな」
言葉が終わるや否やだった。
突如、周囲が薄暗くなった。陽を遮るは上空まで覆う鮮やかな細かい破片だ。あっという間にゾンビを包んでいく。
桜の花びらが無数に乱舞していた。
風に巻かれるように上空へ消えていけば、跡形もない。あれほど大量にいたゾンビ全てが消滅していた。
「そう、そうだったの。あんたたち、記憶がなかったなんて嘘だったわけね」
真琴に抱えられた頭だけの楓が、諦めた調子で言い放つ。
円眞たちは顔を振り向けた。
ジィちゃんズと呼んでいる三人の年配者と、付き従う壮年の男性が、そこにいた。
「申し訳ないですが儂ら、黎銕円眞という人物に大きな借りを作っておりましてな」
「けれども楓さんたちを騙してしまい、悪かったとは思っております」
杖をつく華坂爺の毅然とした口調に続いて、多田爺が鎮痛な面持ちで謝罪を述べる。
しかし内山爺だけが、きょとんとしていた。
「えっ、お二方は覚えておったのですか」
これには華坂爺が呆れていた。
「なんじゃ、お主は本当に忘れておったのか」
「真琴殿の胸の感触は今でもはっきりですが、それ以外はぜーんぜんですわ」
そう言って内山爺は、ほっほっほぅーと例の独特な笑い声を立てる。
名を出された真琴はもちろんのこと、女性陣は一様に軽蔑な眼差しを送った。おかげで円眞だけでなく夬斗ですら表情に困っている。
本来なら出番などないはずの寛江が、仕方なしと口を挟んだ。
「それで、これからどうなさるお積もりですか」
華坂爺が気を取り直して、円眞へ顔を向ける。
「襲われたのは、エンくんじゃ。どうする? 儂らはエンくんに従うぞ」
円眞からすれば聞きたいことは山ほどある。けれどもそれらを振り払うように頭を振って、楓の頭とそれを手にする真琴を見た。
「歩部さんと、昔宮さん」
円眞は畏まって真琴と楓を苗字で呼んだ。




