第6章:明確な対決と不明な横槍ー002ー
雪南の代理人体が、腕を付け根から吹っ飛ばす。
ただ宙を舞うそれは血飛沫を上げていない。代わりに放電の跡を引いている。
白き戦斧の刃は横振りへ移った。円眞の頭上で何かが捉えられた。
小柄なセーラー服を着た少女が、白い刃に噛みついていた。破壊力凄まじい雪南の代理人体の一撃を口で受け止めている。
白き戦斧はそのまま放り投げられた。セーラー服の少女は刃に喰いついたまま、コンクリート塀へ激突していく。
もうもうと粉塵が巻き上がった。
「いったい、どういうつもりだ」
円眞と背中合わせになった雪南が問いかける相手はブレーザーを着用していた。
「失敗だったね、やっぱり一人きりになるの、待つべきだったね」
答えた片腕の真琴が、にっこり笑う。機械仕掛けとは思えない悪意を秘めた笑みだ。
コンクリート塀の瓦礫から、身を起こすセーラー服が現れた。楓と呼ばれていた少女である。
「な、なんで、こんなことを」
動揺を隠せない円眞に、楓が怒りとも悲しみともつかない表情を向けてくる。
「あんたはまずいのよ。流花がある男を思い出すから」
「な、なんですか、それ」
「流花がこの世でたった一度だけ、身を焦がす想いを抱いた男。けれどもそれを思い出すことは苦しみが甦えるだけ。流花の悲しみになるようなモノは全て排除する。それが私たちの役割りだから」
決意を秘めて見据えてくる。この楓という青白い少女が、どんな能力を持っているか解らない。異様に敏捷で、このうえなくタフではある。身体能力が普通でないことは明白だ。
彼女たちは生命を狙ってきている。でも円眞の脳裏に流花の顔が浮かべば気が退ける。
あの絶世の美女が決して幸福でないのはなんとなく予想ができる。楓に抱きつく姿や真琴へ声がけする場面に、信頼の一言では収まらない三人の絆が感じ取れた。
例え襲撃されたとしても、円眞の闘争心は高まってこない。
「や、やめてもらえませんか。これから冴闇さんとは良い関係でいたいです」
「その鈍そうなところは、ホントあの男にそっくりだわ。ますます生かしちゃおけない」
憎々しげに言い放つ楓に、雪南が深くうなずいた。
「まったくだ、円眞は二ブイ。特にオンナにおけるお人好しぶりは、そこから発しているようにワタシは考えている」
そ、そうかな、と背中越しに問う円眞に、雪南は力説した。
「そうだ。でもそれが円眞の良いところだからな、ワタシはそのまま受け入れられる。もし流花が受け入れられず苦しいなら、その当人へぶつかっていくしかないだろう」
「そんなこと、出来るわけがないでしょ」
「なんでだ。未だ思い出すだけで苦しいなら、いくしかない。前進させなければ周りがいくら気を遣っても、状況はいつまで経っても変わらないぞ」
「それが出来るくらいなら、とっくにやっているわよ」
「なんで出来ない」
雪南らしく一刀両断の切り返しだ。
楓が感情昂るまま言い放つ。
「姉のダンナだからよ!」
雪南は返答できなかったし、円眞も追従する言葉なんて浮かばない。
会話では圧倒した楓の肩へ、文字通り飛んできた真琴が残っている左腕を置いた。
「カエデ、ワタシらうまくハメられたね」