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第5章:色めく魔女ー003ー

 円眞(えんま)の声に、 はっとしたように(かえで)真琴(まこと)は目を向けた。

 雪南(せつな)が尋ねたからリアクションせずに済んだ。

 

「おい、円眞。どうした?」


 雪南の問う声は、一聴にして緊迫の度合いが高かった。

 汗をかいたようなあたふたした声が返ってきた。


「え、えっ。ボクが、どうかした?」


 普段の円眞だった。


「円眞が円眞ならば、別にいい」


 雪南が答える横で、流花(るか)がにっこり笑う。何事もなかったかのような顔だ。


「それで、黎銕(くろがね)くんからは質問したいこととかないのかな」


 円眞はここへ来る決意をさせた案件を持ち出した。

 夬斗(かいと)からの依頼についてだ。新宿御苑内の坑道で辿り着いた場所に玄関があったこと。その先に進むための鍵は魔女と呼ばれている者が持っているらしい、と聞いた。


「も、もし冴闇(さえやみ)さんさえ宜しければ貸していただけませんか」


 円眞の頼みに、流花が初めて難しい表情を見せた。


「黎銕くんたちには、あれがドアに見えているんだね」

「ち、違うんですか」

「うん、違う。あれは、ある人が身命をかけて封印した跡って感じかな。本来なら発見すらできないはずなんだけど。けれども見つけられる者には、開けられそうなドアといった体裁を取ってくるみたいだね」


 封じ込めた? いったい何を? 円眞からすれば謎が深まっていく。


 椅子の肘掛けに載せた右腕で頬杖をついた流花が続ける。


「あれは自由に開けられる代物ではないんだ。だから鍵があるなんて、誰が言い出したのかな。正体は教えられないけれど、あれは封印であり、いつまで保つか解らないのが現状なんだ。そしてそれが、流花がここにいる大きな理由でもある」


 具体的な説明はないものの、円眞へ地下道のドアには向こうすらないことを教えられた。何より訊きたい事実を答えてくれた。


「そ、そこには誰も辿り着けなそうですね」

「向こうから呑み込むことはあるみたいだよ。ただもし探している人が内側へ行ったならば、無事ではないと断言してもいいかな」


 事の全貌はともかく夬斗からの依頼に関しては一区切りを付けなければならなそうだ。


「あ、ありがとうございます。これで依頼人の気持ちが少し軽くなるかもしれません」

「こちらこそ。今後も黎銕くんには注目だよ。だから一つだけ言わせてもらっていいかな」


 円眞はメガネを押し上げ、背筋を伸ばして居住まいを正した。


「黎銕くんは聡明だし、能力も卓抜している。その人柄に多くの者たちが集まってきそうだね」

「そ、そんなことはないですよ」

「でもキミが能力を持たないヒトを保護対象でしかない弱い存在と見做し続けるならば、未来はそう長くないかもしれない」


 柔らかな口調だが、円眞へ告げている内容は痛烈だ。

 すると横から我慢ならんといった感じで声が挙がった。


「でも人間に手を出せないのは、円眞の良いところだ。数えきれないほど人殺ししてきたヤツらに較べれば、ずっと良い」


 雪南の力説に、流花は微笑を浮かべた。


「確かに無用な振る舞いはするべきじゃないね。けれども、ただ能力がないから弱いと決めつけてかかると、痛い目に遭うかもしれない。本人ではなく周囲が被害に遭うかもしれないよ」

「あ、あなたはどこまで知っているんですか」


 流花の訓告に、声を振り絞る円眞だ。一年前にこの街に来た当時のことを思い出さずにはいられない。


 血の海だった。ホテルの広間で居合わせた千人近くが、ことごとくバラバラだ。能力者や屈強な者たちより一般の人々のほうが多かった。女性や子供も少なくなかった。


 あれから円眞を支えてきたのは父が残してくれた店と、能力を発動させた逢魔街(おうまがい)という場所について知りたい一念だ。今まさに謎を解く大きな鍵となりそうな人物が目前にいる。

 けれども膨らむ期待が見透かされたかのように先んじられた。


「流花に解ることは見えるものだけ。それも色だけだよ」


 そう言って見せた笑顔は紛れもなく魔女と呼べる代物であった。



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