第4章:鋼の使者ー001ー
午睡を誘う陽の下では、あまり似つかわしくない黒服だった。
不似合いを色彩に求めるはおかしいかもしれない。着用する者たちの雰囲気にこそ原因を求めるべきだろう。
夜の徘徊が似合いそうな暗い凶暴性が隠しきれない大男と小男に、金髪の美女。近づきたくない世界へ属していることは一見で判別がつく。
ただ一人だけ、神父と名乗ってもおかしくなさそうな人物がいる。
落ち着いた態を醸し出す壮年男性は、危険な雰囲気を放つ集団の中で特別に見えた。ノウル、と呼んだ大男からも目上に対するニュアンスが感じ取れた。
なんだラウド、と呼び返された大男は焦れたように訴える。
「いつまで、こんなグダグダしてなきゃならねーんだ。さっさとやっちまわねーか」
彼らがいるのは、雪南を腕に抱いた円眞が黒き怪物たちを掃討していく様子を窺っていたと同じ場所だ。気づかれない距離を保ちつつ、クロガネ堂を睥睨できるビルの屋上からだった。服の胸に『WSA』の文字を踊らせるこの集団は、襲撃者によってダメージを負った古物店を監視していた。
「私もラウドの意見に賛成。依頼は、なぶり殺しでしょう。早くやりたいわ」
同意する金髪の美女が酷薄な笑みを口元に閃かせた。
ノウルはこれら癖の強そうな連中を束ねるだけの威厳があった。
「ダメだ。依頼もあるが、会長からの指示もある。我々がどちらに重きを置くべきか、いちいち言わなくても分かるな」
反駁を許さない圧がこもっていた。
直後に上がった声は別の件であった。
「おいっ、どうした、バウル」
これまで口を開くことがなかった小男の異変を、脇にいるラウドが察知した。
バウルと呼ばれた者は返事もせず、右手のクロスボウを掲げる。銃を撃つと同様の構えをもって、屋上に繋がる開いたドアへ照準を合わせていた。
「まちがって撃たないようにお願いしますよ。私の身に何かあったら、貴方がたのほうこそ面倒ごとになりますから」
きっちりビジネススーツに固めた人物が、ゆっくり歩を進めてくる。両手を掲げて降参のポーズを取りながらも、口調同様の高圧的な態度を強く押し出していた。いけすかないエリートといった趣きだ。
「なんだ、てめぇは。こけ脅しは却って身を滅ぼすぜ」
言われっ放しですます性分にないラウドが真っ先に噛みついた。
ビジネススーツの新参者に、僅かとはいえ怯みが走っていた。それでも気丈さを装う冷笑を広げた。
「私はセデス・メイスン氏の遺族から直接に依頼を受けた者で、壬生と申します。今回は貴方がたと共に事へ当たるよう仰せつかって参りました」
ラウドが寝耳に水といった声を上げた。
ノウルでさえ、不審げに眉を寄せている。
相手の意外な反応に気を良くしたかのように壬生が続けた。
「俄かには信じられないでしょうから、この場で貴方がたの会長に確認していただいても結構です。協力して、遺族の依頼を果たすよう言われるはずです」
ここでいったん間を置いたのは、効果を狙ってであろう。
「我々の尽力をもって、残された者の無念を晴らす死を与えてやろうではありませんか」
芝居がかった壬生の台詞だが、嘲笑で返す者はいなかった。