第3章:地下と星の下ー001ー
銃弾の雨あられとはまさにこのことだ。
公園の中心に鎮座する石碑。岩山からそのままくり抜いてきたような巨石だが、表面には地球上のどの時代にも該当しない文字が刻まれている。文字ではないかもしれない。
正体不明な石の塊が圧倒的な数の鉛玉を弾けば、耳をつんざく音響が周囲一帯を包んだ。おかげで身を潜めた円眞と雪南は肩を寄せ合わなければ声が届かない。
「ま、まったく何者なんだろ、あの人たち」
弾撃を受け止める石碑に背を預けた円眞がこぼしている。
横の雪南は息一つ乱さず落ち着き払っていた。
「あいつら、ただの人間の暗殺団だな、スキルは持っていない。ワタシと円眞で充分にやれるぞ」
「ただの人間だから、困るんだ」
円眞の返答に、雪南は合点がいった表情を見せた。
「そうか、じゃぁワタシが行くから、援護できるか」
あまりにあっさり首肯されて、むしろ円眞のほうが慌てた。
「な、なんで、そんな簡単に……」
「作業服を買いに行った時、彩香に言われた。ここに置く条件の一つに、スキルを持たない人間を殺せない円眞の代わりになれってな」
「ど、どうして、そうなったか訊いた?」
「いや、理由は聞いていない。いなくても円眞には世話になっている。この服だってそうだ」
そう言って雪南は黒生地の裾をつまんだ。タイトな黒のワンピースでスカート部分には桜模様があしらわれている。
「円眞はすごいな。ワタシが欲しがっていたのを、よく分かったな」
「そ、そんなの、誰でも解るよ」
「そうか? もしそうだとしても叶えてやるなど、何か考えがあればこそだ。円眞のようにただワタシのためにしてくれたヤツなど、今までいなかったからな。だから、行く」
白き髪の長い女性が目前に現れた。代理人体の能力を雪南が発現させた。
本気だ。
円眞は、ごくりと喉を鳴らして息を呑む。狙撃手の人数は少なく見積もっても二十人は下らないだろう。雪南の代理人体は多勢に対し有利へ働くような能力ではない。周囲を取り囲まれての攻撃には対応しきれないだろう。代理人体が負うダメージは発現者へ跳ね返ってもくる。
雪南だけに任せきりはさせられない。
円眞は両手に短剣を発現させた。
と、同時であった。
目の前が朱く染まった。床や壁どころか天井まで血みどろだ。大量のバラバラ屍体が転がっている。ほとんどが一般人で大人だけではない、子供だっている……。
「おい、円眞」
はっとした円眞に飛び込んでくるは、碧き瞳だ。鼻先まで顔を寄せた雪南がいた。
「円眞はムリしなくていい。あれくらいはワタシでやっつけられる」
で、でも……、とためらう円眞だ。
顔を離した雪南が、優しい微笑みを浮かべた。初めて見せた表情かもしれない。
「ヒトを殺したくないなんて、円眞らしいじゃないか。だからここは任せろ。だけどワタシに万が一があったら、ちゃんと独りで行くんだぞ」
円眞は歯を喰いしばった。敵の数から代理人体の能力で切り抜けられる公算は低い。一人で行かせたら、一生の悔いが残るだろう。
短剣を握る両手の震えが止まらない。襲撃者であっても能力者でなければ、もうこれ以上は殺したくはない。あの日からの誓いにも似た願いだ。
けれども訳のわからない連中によって、雪南を失うわけにはいかなかった。任せたきりで万が一となったら、それは自分が殺したも同然だ。
円眞は震えが止まらない。それでも立ち上がりかけた。