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第9章:対抗する者ー005ー

 紅蓮の炎が立ち昇っている。

 夜空を焦がす勢いであれば、見つめる者たちを紅く染める。

 証拠隠滅を主な理由として死体と共に廃屋ごと焼き払う。

 理由を理解できるからこそ、閻魔(エンマ)は疑念を口にした。


彩香(あやか)さん。こんな派手に燃やして誰かに見つからない?」

「その点は大丈夫。夛麿(たま)の能力は外界からの視覚を遮断できるの」


 答える彩香は、靖大(やすひろ)へ向く。

 閻魔も以前から顔馴染みの店長であるから気後れもない。

 けれども笑っていれば、「どうしたんです?」と少し不審げに訊いてしまう。


「これは失礼しました。人が変わられたと聞いていたのですが、煕海(ひろみ)と話す姿には以前のままとしか見えなかったもので」


 彩香を苗字で呼ぶ靖大の返答に、ううんとまた喉を整える閻魔だ。


「ま、まだ慣れていないだけで、これからの余は地獄の閻魔だ。邪魔者は排除してでも世の支配を企む者である」


 ここにいる全ての者が微笑んだように見えた。

 ただ柔らかい雰囲気も長くは続かない。


 そうね、と発した彩香がまず最初だった。

 閻魔の前へ片膝を付いて頭を垂れる。

 それに靖大に、庵鯢、鶤霓と続く。

 恭順の意を示すかのような姿勢の展開には、閻魔だけでなく、立てるようになった雪南(せつな)も驚きを隠せない。


「ど、どうしたの?」


 訊く閻魔は、すっかり円眞の顔で臨んでいた。

 もっとも近しいとされる彩香が顔を上げることなく畏まったまま応えた。


「私たちからお願いがあります」

「助けてくれたんだ。僕に出来ることなら何でもするよ」 


 彩香が顔を上げた。真っ直ぐ閻魔と視線を合わせてくる。私たちから頼みたいことは一つです、と前置きしてからだ。


「どうか『逢魔七人衆(おうましちにんしゅう)』の首魁となっていただけないでしょうか」


 返事はなかった。正確には出来なかった。頭を巡らす余裕ないほど閻魔は言葉を失っていた。

 雪南は横にいる立場であったから反応できた。


「なにを考えている、彩香。円眞になにをさせようとしている」

「言葉の通りよ。私たちのリーダーになってもらいたいの」


 彩香は質問してきた相手ではなく、答えを求める閻魔へ視線を向け続けている。

 しばしの後ようやく決断を迫られている者の口がおもむろに開く。


「余をリーダーとして、彩香たちはなにをする」


 すっかり円眞から閻魔へ雰囲気が変わっていた。

 彩香もまた普段とは趣きを異とする態度で応じた。


逢魔街(おうまがい)の支配、それは世界征服の足がかりとなるはずです。私たち『逢魔七人衆』はその目的のために集った者たちです」


 わかった、と返事した閻魔であるが、「だが……」と続ける。

「逢魔街を支配するとなると、邪魔は現れるだろう。かなりなチカラを持って者が」

「だから強大な能力者である地獄の閻魔を必要とします」

「しかし、余は負けた。逢魔街の神々どもとやり合った結果が、命からがらといった有り様だ」


 ふっと閻魔の表情に自嘲がすべり落ちていく。

 彩香のほうはよりいっそう畏まっては、ある事実を伝えてくる。


「閻魔さまと逢魔街の神々が対決した中央公園のその大半と周囲半径一キロ圏内は地面が抉れた状態となっています」

「余が吹き飛ばされただけの威力はあったということか」

「言い方を変えれば、閻魔さまのおかげでその程度の被害で喰い止められたと言えます」


 そんなこと……、と閻魔は口にしかけて止めた。

 知り合ってから初めてといい彩香の真摯さに黙って耳を傾けることにした。


「逢魔街の神とされる能力者がそのチカラを剣の形にして振るう時、一つの都市が跡形もなく消え去ります。四人が同時に振るえば、どれほどの壊滅をもたらすか計りしれません。閻魔さまと激突したからこそ、辺り一帯で収まりました」

「ずっと余の様子を窺っていたような口振りだな」

「はい、この煕海彩香は黎銕円眞と初めて出会った時から、そのチカラがいかほどのものか見極めることを自らの責と課しておりましたから」


 にっこり、彩香がここで表情を動かした。

 一見して含むような笑みだが、閻魔もまた意味有り気に笑い返す。 


「余を見誤っていないか。間違えると、彩香たちは身の破滅を招くぞ」

「これからの可能性に期待している部分は確かです。ただ現在でも逢魔街の神々一人づつなら対等以上のチカラを有していると考えております。実際、通常より劣っていたとはいえ、あの冴闇夕夜(さえやみ ゆうや)に勝っています」

「余の伸び代に期待したいというわけか」

「この街で逢魔街の神々と同種の能力を有し、かつ敵対する側へ回る意気を持つ者など、閻魔さま以外にはいらっしゃいません」


 次の声が挙がるまで、間が置かれた。

 ただし衝撃に打たれていた先と違い、閻魔は考え込んでいた。結論を出すために必要な時間だった。

 背後では廃屋と数多の屍体を燃料した火災が終息へ向かっている。

 燃え滓とするにはあまりに見事な灰塵に帰していれば、検証にきた公共機関の者も只事ではないと察するだろう。だがそれ以上に踏み込みはしない。時間外に起きた事象とはいえ、ここは逢魔街。他の土地に比べ圧倒的な割合で能力所有者が生息している。能力がない人間が余程の確証がなく下手に動けば、どこでどう潰されるか解らない。


 世界は今、不穏に満ちている。 


 特に能力に関する問題で緊張が高まっている。

 能力ない者が人知れずの殺戮などかまけていたら我が身を危険とする世の状況だった。


 今一度とばかり閻魔は見渡した。

 膝をつく彩香を、靖大を、庵鯢と鶤霓を。


「まったく変わり者ばかりだな」


 それを聞いて口許に笑みを閃かせた彩香が首を右へ捻る。視線の先にある大樹へ呼びかけた。


「出てらっしゃい。二人とも話しは聞いていたわよね」


 薄い茶で染めたマッシュの髪型をした青年と、ダークブロンドの長髪と瞳の女性が姿を現した。貴志とデリラである。


 なんとも複雑そうな顔つきの二人を、特に貴志を目にした雪南が反応した。

 おまえ! と喉が振り絞った怨嗟で呼ぶ。

 代理人体である白き女性を発現し戦斧(おの)を持って向かわせた。


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