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第2章:最凶らしい?ー009ー

 目的とする飲食店に着けば、奥の座敷へ通された円眞(えんま)たちだった。


 逢魔ヶ街(おうまがい)独自の法で俗称『黄昏法(たそがれほう)』が解除される午後七時。一般店舗が一斉に開けば空気が華やぐようだ。

 往来に人は溢れ、喧騒が路地まで埋め尽くしていく。無法で危険に満ちた時間帯が却って他の時間の活気を生む側面は確かにあるようだ。


 円眞の部屋が修繕されるまで、食事へ行く算段となった。お詫びと、たまには一緒にとする意趣もある。


 ただし多少の悶着はあった。

 ガラスの破片を掃き片付ける円眞へ、スマホから耳を離した夬斗(かいと)が業者の手配が付いた旨を報せてくる。窓の規格に該当する在庫があったから、すんなり修繕できそうだ。ただ運搬もあれば完了まで数時間はかかる。

 鍵の隠し場所を業者に知らせて食事にいかないか、と夬斗が提案してきた。

 気兼ねした円眞ではあるが、実のところは飛びつく申し出だ。

 雪南(せつな)は円眞に、なんだかんだ言っても従う。


「あたし、行かない」


 ようやく拘束が解かれた黛莉(まゆり)だけは憮然としていた。

 円眞と夬斗は顔を見合わせただけで、互いに思う内を確認し合えた。


「そうか、分かった」


 あっさり了承して背を向けた夬斗に、円眞と雪南も続く。


「ちょ、ちょ、ちょっと、待ってよー。なんでそんなカンタンに諦めるわけー」


 怒る黛莉に、軽く息を突いた夬斗が足を止めて振り返る。


「それは妹よ、また下手に刺激して暴れられたら面倒だからだ。なにせ逢魔街随一のサイキョウだからな」

「なにっ、このマユリという女、円眞より強いのか」


 雪南にとって黛莉は未知の相手である。

 円眞は手帳を取り出し、文字を書きだしながら説明をする。


「サイキョウでも、こっちなんだ。解るかな?」

『最強』の文字から矢印が引かれて『最凶』へ至っている。いちおう黛莉に見せないのは円眞なりの配慮だ。

 ふむふむといった調子で雪南は頷けば、黛莉へ視線を遣った。なによ、と返してくる相手にいつもの遠慮ない口調で告げた。


「なんだ、こんなかわいいのに。見かけによらないものだな」


 いくらでも解釈しようがある言い回しに、円眞は冷やりである。だが杞憂であった。

 円眞や夬斗の目に止まらぬ早さで黛莉が移動を果たしていた。雪南の目前へ立っている。


「あら、あんた、かわいいって分かるの?」

「それはワタシでもな。特になんて言う服か知らないが、よく似合っているぞ」

「なんだ、あんた、よく分かってんじゃない」


 予期せぬ最大の賛辞に、黛莉は上機嫌だ。今の今ではなんだったのか、といった態度である。


「じゃ、じゃぁ、一緒に黛莉さんも行くよね」

「ヤダ、行かない」


 ここぞとばかりに誘う円眞へ、黛莉はにべもない。


「あたしに、アンタたちがいちゃつく姿を見てろって言うの。冗談じゃないわ」


 じゃあ、なんで引き止めるのさ、と考える円眞だ。

 それでも放っては置けない円眞である。説得すべく前へ出かけたが、その肩を引き留めた夬斗だ。ついと雪南に近づいては、右手を差し出す。


「挨拶が遅れたが、和須如夬斗(あすも かいと)だ。妹が迷惑をかけて申し訳ない」

「ワタシは雪南だ、雪南で構わない」

「じゃあ、雪南。俺のことも、夬斗って呼んでくれ」

「うん、わかった夬斗。これから頼む」


 雪南は差し出された右手を握った。

 円眞の許へやってきた住居人と握手しながら夬斗は、黛莉へ顔を向ける。


「解ったか、妹よ。雪南はこういう娘なんだ」


 兄の言わんとすることを理解した黛莉は、兄と握手を終えた雪南へ向き合った。口を尖らせているのは照れ隠しか。


「いろいろ騒がして悪かったわね。あたしは……」

「黛莉だろ。ワタシは雪南って呼んでくれ」


 今度は雪南から右手を差し出してくる。

 ちょっぴりはにかんだような黛莉だ。けれど手を握る寸前で急に思い出したように、ぷいっと横を向く。握手はしたものの、敵愾心に満ちた宣言をした。


「言っとくけど、クロガネを殺すのは、あたしだから」

「それはダメだ。円眞を殺すのはワタシだ。それだけは他のヤツに譲る気はない」


 へぇー、と黛莉は正面を見た。

 雪南も真っ向から視線を受け止める。

 まさしく火花を散らす視殺戦といった様相だった。


「モテモテだな、親友は」


 からかうみたいな夬斗に、円眞はため息を吐くみたいに言う。


「やめてよ、夬斗くん。二人とも『殺す』なんだよ」


 ははは、とおかしそうに笑う夬斗であった。



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