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第7章:神々の戦いー007ー

 だいぶ雨足は弱まっていた。


 見守る夬斗(かいと)とマテオはずぶ濡れだが、顎から雫を垂らすことはない。

 白スーツに赤ネクタイの気障男ふうの新冶(しんや)はあまり濡れた様子がない。ここまでどうやって来たかは不明だが、現在こうして雨に打たれているにも関わらずである。弱まったとはいえ、悪天候は続いている、霧雨が風景を覆っている。


 加わった三人もまた、濡れた感じはなかった。


 ぬっと聳えるような大男と、大物女優といった風格を漂わせた美女に、墨色の裳付を着る僧侶然とした者。新冶同様に、降る雨のほうが避けてしまっているかのようなオーラを放っている。

 この街に止まらず世界規模で膾炙している『逢魔街(おうまがい)の神々』がずらり顔を揃えていた。


「なぜ『ホシの根源素』とする能力者が揃っている」


 閻魔(エンマ)は剣を握る手に力を込めるほど、驚いていた。


 その威力は災害級と認定される能力を所持する者たちは、余程の理由がなければ集合してならない。人類と能力者代表とされる『神々』の間で交わされた規約だ。

 かつて共にあった『逢魔街の神々』がバラバラになった理由は『一部能力者に対する特別法』が制定されたことによる。逢魔街の神々を狙い撃ちとした法令だと噂されたほどだ。

 標的とされた者たちだったが、唯々諾々として従った。百年が経過した時点においても守られているはずだった。


「規約に少しばかり文章を足させました」


 答えた新冶の説明によれば、元の条項に『能力者自身の判断に基づく』の一文を加えたらしい。


「規制をかけるべき当人たちに判断を委ねるでは有名無実化もいいところではないか」


 厭悪が混じる閻魔の指摘に、新冶は諦念の笑みを浮かべた。


「仰る通りです。ただし長年に渡り順守してきたにも関わらず、裏切られては依然通りとこちらもいきません。実際に仲睦まじい老夫婦を無惨な最後へと追いやり、何より調和を願う彼女を死の淵へ陥れたのですから」


 淡々とした口調が沈痛さを物語っていた。

 答えた新冶が右腕を掲げた。光り輝く刃とした剣が現れ、手に握られた。


「私独りでは、閻魔さんと互角か、やや劣るかもしれない。けれども四人同時ときたら、どうでしょう? 我々よりもチカラがあるとした夕夜(ゆうや)さんだって敵わないと見ます」

「だから、余にどうしろと?」

「引いてください。以前の人物とは違うとしても、えんさんに連なる者には違いありません。出来れば、この世から跡形もなく消し去るという結末は避けたい限りなのです」


 ふっと笑う閻魔だ。


「ずいぶん甘いことを言うではないか」

「ええ、でもそれは間違いなく『クロガネ堂』に通ったせいなのですよ、えんさん」


 閻魔の形相が一変した。


「いい加減なことを言うな! 第一、寛江(かんこう)は余のことを『円眞さん』ではなかったか。この場しのぎに馴れ馴れしい真似は止せ。そんな風に呼んでいいのは、彩香(あやか)やご老人……」


 怒りに任せていたはずの声が、急に萎んでいく。


「甘いのは、お互いさまのようですね」

「ええい、もうあの刻は還ってこぬ、そうだとも還っては来ないのだ。今の余はチカラを得なければならぬ。例え店の馴染みであろうとも、複数からなる強大な相手であろうとも阻むならば、押し通す」


 閻魔が譲らぬ決意を宣言した。


「残念です、ええ、残念です。円眞さんにはクロガネ堂を再建して欲しかった。私だけじゃない、華坂(はなさか)さんも、内山さんも待っていたのです」


 やや寂しげな風情を湛えた新冶が新たにやって来た三人へ声をかける。


「いきますよ、地獄から来たとする『閻魔』を打ち払います」


 やるしかないようだな、と大男である地の神の奈薙(だいち)が、岩から削り取ったかのような刀身を持つ大剣を発現させる。

 やってやろうじゃない、と唯一の女性である雷の神の莉音(りおん)が、放電する刀身を持つ長剣を発現させる。

 仕方がありませぬな、と遊行の僧侶である金の神の道輝(どうき)が、金色に輝く刀身を持つ剣を発現させる。

 逢魔街の神々の四人が所有する攻撃力を最大にする形態で具現化した。


 闇色の剣を手にした閻魔が気合いの雄叫びを挙げた。真正面から打ちかかっていく。

 傍で様子を見守っていた夬斗は考えなしで「やめろ」と発していた。

 けれども事の推移を確認できなかった。


「社長、危ないから行くよ」


 マテオが急を告げた事態からの脱出を図るようだ。

 待って……、と出かかった言葉を出す間もなく夬斗は連れ去られた。


 あっという間に雑居ビルの屋上へ至る。

 大地が裂けるような轟音が追ってきた。

 かなり遠方までやってきたはずだが、振り返った夬斗の目は捉えた。

 もくもく、つい今までいた場所から煙りのごとく砂塵が舞い上がっている。空高くまで爆発の余波が達していれば、途轍もない力の激突であったことを教えてくる。

 とても無事に済んだとは思えない。

 その凄まじさは当該地にいた夬斗やマテオだけではない。


 逢魔街に住む人々の、いずれの心にも達した。


 地震にも似た振動に、尋常ならざる出来事が起きていたことを感じ取る。

 正体は不明なれど、ただごとではない。

 これから何かしらの影響を与えるのか。

 不可思議な街は一寸先さえ人間の推測など覆す。

 ささいな異変が明日があるかどうかさえ信じ難くさせる。

 それが逢魔街(おうまがい)だった。

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