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第7章:神々の戦いー003ー

 ザクっと黒き剣を地面に突き立てた。

 閻魔(エンマ)は自ら発現した武器を杖に立ち上がる。怒らせた目つきで同じ姿とする敵を睨みつけた。


「行かせるわけにはいかぬ。キサマにそのチカラを渡すわけにはいかぬ」


 新たな名を宣言した紅い眼は、腹から振り絞るような言葉を受け止めていなかった。少し首を傾けては、腕のなかにある人物へ訊く。


「どうだ、黛莉(まゆり)。我れの新たな名前は?」

「えっ、わかんないよ。同じエンマだし」


 確かにな、と納得する焔眞に、黛莉の顔は綻ぶ。だが、次の瞬間だ。ごほっと吐血した。

 これ以上にない真摯な顔つきになった焔眞(えんま)が再び訊く。


「我れもだが、黛莉もどこまで保つか解らなくなっている」

「あたしはいいよ。もうエンマくんに会えたし」

「我れはそれを承服するわけにはいかない。だから……共にゆくことを覚悟してもらっていいか?」


 黛莉が返事するより先だ。

 信じられぬとばかり閻魔が叫んだ。


「キサマ、まさかオンナと一緒に行くつもりか!」

「ああ、そうだ。我れは黛莉を連れて光の柱を押さえる」

「それがどういうことか、わかっているのか!」


 頭を掻きむしらん勢いで問う閻魔だ。 

 わかっている、と焔眞が平然と答えれば、さらに閻魔は張り上げた。


「いいや、そうは思えない。光の柱を押さえるということは、僕らはいいです。けれども黛莉もまた人として真っ当な生でなくなるということだぞ」

「おまえ、たまにクロガネ堂店主だった頃の円眞が混じるな」


 感心したような口振りだから、閻魔を苛立たせる。


「ああ、そうだ。余はクロガネ堂の店主だった頃も捨てられない。多田や八重の死は悲しく、雪南だけでなく黛莉を地獄の道へ引き込むような真似は看過できない」

「なら、答えるとしよう。分身にも等しい、我が同胞として」


 なんだと、と閻魔は反応するも否定の言葉は出てこない。

 焔眞は紅き剣を真っ直ぐ突き出した。


「所詮、我らは人外の身。縁を結んだ時点で、困難へ引き摺り込んでいる。ならば格好はつけまい。相手が望む道を全力を以て叶えられるよう力を貸すだけだ。我が身に代えてもな」

「簡単に言うな。今はいい。だがこの先、紅い眼に付き従ったことで、いずれ孤独へ陥るだろう。下手すれば、全人類が滅びてもなお一人で生きるはめになるかもしれないんだぞ」

「それが地獄の閻魔の、雪南(せつな)を遠ざけた真実の理由か」


 雨の地面を打つ音だけが響いている。

 ふむといった顔をした焔眞が口を開いた。


「クロガネ堂の店主の頃から思っていたが、非情がベースのくせに『甘い』男だな。我れとしては悪くないが、やはりまだ世を知らずといったところだ」

「キサマにだけは言われたくない」


 ようやく答えた閻魔に、あっはっはっと焔眞は笑ってからである。


「まぁ、そうだろうな。確かに我れも世間など知らん。だけどな、女というか人というものの関わり合いにおいて、オマエよりマシだと思っている」

「なにを根拠にそんなことを言える」

「オマエの考えは、ある意味正しい。だがな、独りよがりなのだ。一方的な押し付けなのだ。きちんと相手の気持ちは汲んだか、雪南の想いを推し計ったか? 仮に悪い方向であっても、当人が感じる幸福とはまた別だと、なぜ解らないか」


 うぐぐ、と唸る閻魔がよろつくまま、両手で握る黒き剣で斬りかかっていく。


「キサマなどに解ってたまるか。雪南は、雪南だけは幸せになってもらわなければならないんだ」

「オマエも解っていないな。例え致命傷は避けていたとはいえ黛莉を傷つけたこと、我れは許す気などない」


 黛莉を左腕に抱える焔眞は残る右腕に握る紅き剣を繰り出す。

 再び、紅き剣と黒き剣は激突した。

 今回の勝敗は一方的だった。

 交差した途端に、閻魔は跳ね飛ばされていく。


「なんというチカラだ」


 泥濘の中を転がれば、驚愕と無念を織り混ぜ吐いていた。

 圧倒した焔眞だったが勝ち誇ってはいない。むしろやや残念そうな気配さえ漂わせていた。黛莉、と呼ぶ声だけでなく表情でさえ気落ちの様子を滲ませている。


「もう、我れを止める者はいない。だがまだ間に合うぞ。どうする?」


 最後に、と訊いた焔眞の首に腕が巻かれた。

 泥と血で汚れて濡れぼそる黛莉が柔らかな顔つきで抱きつく。


「今晩みたいな雨だったあの晩に出した答えは変わってないよ、エンマくん」


 少し寂寥を混じえた微笑みの焔眞は黛莉を抱え上げた。

 胸に抱き、背を返す。

 光の柱へ向けて歩みだした。


「待て、余はまだ終わっていない」


 焔眞が無視できないほど、意志がこもった声だった。


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