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第4章:飜意ー004ー

 槍の先が一閃を描き、鉄拳と呼べる威力が抉っていく。


「店長、すごいっすね。遣い手だろうと思っていたっすけど、ここまでなんて驚きっす」


 振るう手を止めないまま掛けてくる藤平(ふじひら)に、店長と呼ばれた靖大(やすひろ)もパンチを繰り出しながらである。


「私のほうこそ、藤平さまがここまでの実力者などと想像していませんでした。しかも今こうして肩を並べて戦っている。まったく人生とはわからないものです」 


 そうっすね、と返す藤平が笑えば、靖大も笑い返す。


 余裕を心がけなければならないほど、状況は進展していなかった。

 いくら斬っても潰しても、切りがない。

 出所不明な黒き怪物たちではあるが、出現数には限りがある。どんなに多くても藤平クラスの猛者であれば、余力を残して退治しきれていた。

 況してや今回は、夬斗(かいと)がいる。操る能力糸は多勢相手に有効な能力だ。

 なのに一歩も前へ進めない。

 際限なく溢れ出てくる怪物は黒き壁のごときである。おまけに崩した箇所はその場で修復されていく始末だ。


「ええいっ、ちっくしょー、あのヤロー」


 糸を放つため振るう腕も乱暴な夬斗が怒り叫んでいる。


「社長、キレてるっすね」


 夬斗の背後を受け持つ藤平が可笑しそうに洩らせば、靖大が意外そうに言う。 


和須如(あすも)社長は感情的になったりするのですね」

「うちの社長は熱いっすよ。そのせいで、よく黛莉(まゆり)の姐御に怒られてやす」


 戦況次第では笑い声も立っただろうが、次々に向かってくる黒き怪物(ホーラブル)に口を動かすだけで精一杯である。

 円眞(えんま)なる者が黒き怪物を従わせられる疑問について論じる暇はない。

 夬斗のストレスが最高限度を越えてしまった。


「藤平、それに店長。これから絶対に俺の前へ出ないでください」


 どうして問う間もなくだ。

 微かに煌めいた後、夬斗の前方を埋め尽くしていた黒き怪物は全て消えていた。

 背後で起きたことでも、劇的すぎる展開には気づいた藤平だ。なっ、と声を上げてしまうほど驚く。まだ自分の前にはいる黒き怪物の存在を忘れてしまう。

 一瞬の隙は命取りになる。

 真澄(ますみ)! と名を呼ばれて我に返ったから、ぎりぎり間に合った。藤平が突き出す槍の穂が目前に迫っていた黒き怪物を貫き消滅させた。


「助かったっす。サンキュっす」


 藤平を名前で呼ぶ貴重な人物であるマテオは、あっという間に白銀の髪をなびかせて仕留めている。

 ようやく黒き怪物は全滅となった。

 ほっと一息を吐きたいところかもしれないが、夬斗の号令がかかる。行こう、と早くも駆け出していた。

 慌てて追う藤平が、社長! と呼ぶ。いきなり黒き怪物の大多数を葬った点について訊きたい。けれども会話は夬斗の横に並んだマテオに取られた。


「凄いね、社長。そういうことだったのか」

「おまえ、見ていたのか」


 得心しているマテオに、夬斗は敵愾心を滲ませた。円眞なる人物の奇行のせいで少々機嫌が悪い。

 異能力世界協会(WSA)と深い繋がりがあるマテオは事も無げに告白する。


「うん。社長の本当のチカラを見たくて、わざと少し出遅らせた」


 包み隠さない態度は、夬斗の気質には良い方向へ働く。ふっと不機嫌を解く笑みが口許を象った。


「そういえばマテオは俺の師匠と古くからの付き合いだったな」

道輝(どうき)のことを言っているのかい?」

「ああ。ならば俺の能力についても聞いていてもおかしくないな」


 キミの師匠から、とマテオは思わせぶりに始めた。 

 

「将来を嘱望するに足る若者として、社長のことは以前からよく聞かされていたよ」

「そうか、それは嬉しいな」

「けれど能力者であることは知らされても、内容までは口にしなかった。ただ……」


 ただ? と聞き返す時点になって夬斗は初めて横を向く。

 今度はマテオが前を向きながらである。


「ただ夬斗の本領と、僕のチカラが揃えば、神とされる領域にある能力者にも対抗し得るかもしれない、だそうだよ」


 しばし会話は途切れた。

 藤平にしても、ここが機会とばかり割り込めるような雰囲気ではない。店長こと靖大もまだ積極的に会話へ参加できそうな感じでもない。

 不意に沈黙を破ったのは、夬斗だった。


「マテオの協力があれば、渡り合えるのか。あいつと」

「黎銕円眞のことを言っているんだよね、それ」


 ああ、と夬斗の短くも肯定する返答だ。


「無限の数に割れて伸びる刃は、何ものも突き通す。それに社長の能力が拮抗すれば、確実に勝てる。勝たせるよ、僕が」

「じゃ、俺次第か」

「さっき見た限りだけど、大丈夫じゃない。道輝も社長のチカラは能力者の既存定義を書き加えるくらい相当なものだって言っていたし」

「だけどもし火と氷だったっけ? あれを剣に込められたら……」

「紅い眼になった円眞が社長たちを攻撃するはずがないじゃないか」


 マテオの断言に、夬斗はつい苦笑してしまう。

 自分が円眞だと主張する現在が『ホシの根源素』とする能力を使用できるかどうかの言及をしたつもりだった。マテオは解釈違いを起こしている。けれど気持ちいい勘違いだ。

 それに今さら引き返すわけにもいかない。ともかくやるしかないのだ。

 よし、と夬斗が気合を入れ直したらである。


 空から人が、女性が降ってきた。

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