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第2章:再会ー002ー

 クロガネ堂の爆破は少なからずな衝撃をもたらした。

 爆発地だけでなく周囲も巻き込む大きさは、夕陽に照らされた一帯へ破片を撒き散らす。怪我人は多く出たものの、幸いにも屍人は出なかった。正確には屍体が確認できなかった。


 その日は多田夫妻の遺骨を受け渡しをクロガネ堂で行っていた。

 店の常連である『ジィちゃんズ』の残りとなってしまった華坂爺(はなさかじぃ)内山爺(うちやまじぃ)に、お付きとして加わっていた寛江(かんこう)と名乗っていた逢魔街(おうまがい)の神々の一人とされる新冶(しんや)。店のオーナーである彩香(あやか)夬斗(かいと)黛莉(まゆり)和須如(あすも)兄妹まで揃って、多田夫妻のご子息を迎えた。

 能力者に対する悪意が込められたようなアンチスキル弾道弾によって、どちらの骨だと解らなくなるくらい多田夫妻の抱き合う身体は粉砕された。区別がつかなくてもまだ夫婦だったから、と慰めるしかないほど無惨な終わり方であった。


 夬斗は忘れられない。

 攻撃によってぐちゃぐちゃになった骨肉片を拾う姿を。

 華坂爺が杖を投げ捨て、内山爺は号泣しながら、寛江と名乗る新冶はキザな印象を与える真っ白なスーツがいくら汚れようとも構わず探し求める。血と泥に塗れようとも目を背けず拾い上げている姿に大事なことを学んだ気がした。


 紅い眼のあいつは無事なのだろうか。

 これ以上の犠牲を出さないため、一人で空へ行った。能力に反応して標的を定めるアンチスキル弾道弾の特性を逆手にとって、上空で一身に引き受けた。自分たちを、守るために。


 直後に、円眞(えんま)は見つかった。

 黒い目をした、クロガネ堂の若店主だ。紅い眼が現出するようになっても、生活の大抵において過ごす姿である。エンマと呼ぶ肉体は現存していた。


 紅い眼の円眞と再会できる可能性はある、と言い聞かすクロガネ堂からの帰り道で爆破があった。

 黛莉と共に急いで取って返せば、たった今まで店で集っていたメンバーと現地の手前にて合流となった。ここ最近の逢魔街では見られなくなった爆発事件である。派手な事故現場を知らせる方法だけに気づかないわけがない。


 いや一人だけ現れなかった者がいた。

 店のオーナーである煕海彩香が姿を現さない。以後、その姿を見た者は今日までいない。


 いくら店が木端微塵になろうとも、屍体と証明づけられる痕跡があって然るべきだ。まったく見つからないとなれば、死んでいないと考えるべきだろう。凄い爆発であったが、この程度で殺られるとは思えない。円眞は逢魔街で攻防に長けた屈指の能力者であり、逢魔ヶ刻となればチカラはさらに強大化する。

 彩香が同時に消えたことから、何か事情がある。二人でどこかに潜伏しているのではないか。ともかく今は生存を信じて待つだけだ。日々様々な問題が発生しており、取り敢えず夬斗としては逢魔街にいつでも帰って来られるよう場所を用意しておくことだと言い聞かせた。

 まさかようやく出会えたと思った円眞が、本人かどうかも怪しい様子で掴みきれない。しかも一緒にいたのは予想した彩香ではなく、雪南(せつな)とくる。意外と思わせる当人がすぐさま出向いてくるなど想像すらしなかった。

 命懸けで妹を連れ戻すはずが、予想外の方向から大変な一日となった。しかも本番はこれからのようである。


「あの爆発からうまく逃れられたみたいだな」


 夬斗がまずといった問いかけに、雪南は悪びれた気配はなくオフィス内へ歩を進めてくる。我が身を顧みない大胆な行為であるが、表情はいつになく硬いようにも見受けられる。ただ緩衝材として最適な人物が事務所にはいる。

 雪南ちゃ〜ん、とためらいなく抱きつくは夏波(なつは)だ。


「ん、もぉう。相変わらずぽよよんで、むふふな感じでお姉さん、嬉しいっ」


 夬斗からすれば雪南は相当な覚悟をしてやってきたはずだ。今はそれどころではないと跳ね除ける、と思いきやである。夏波の胸に埋める顔はほんのりと赤みが差し、「そ、そうか」と照れているようだ。

 緊張感を削がれすぎもなんだな、と思わせるほどである。それでも事務所に詰める黒き怪物たちの殲滅を主とする荒くれ者の従業員たちに余計な攻撃心を煽らず済んでいる。客人である白銀の髪をした青年や逢魔街の魔女もどう感じ、どう動くかは解らない。いきなり事が起きる状況は避けたい。

 夬斗は訊くにも親しげな口調を意識した。


「雪南が無事で何よりだが、少しは説明が欲しいもんなんだ」 


 本心としては、聞きたい事柄はまさに山ほどある。

 夏波の胸から雪南の碧い瞳が向いた。


「黛莉はいるか」

「黛莉なら、上の妹を病院へ連れて行っている」

「そうか。黛莉はいいヤツだからな。こんなワタシと違って」


 夬斗からすれば、いいヤツも何も姉妹なのだから当然である。少し、いやかなり煩わしい次女の性格であるが妹であれば仕方がない。

 すぅっと雪南が夏波から離れた。視線の方向を夬斗のこの場に居る下の妹へ変える。目つきは鋭い。睨まれた唯茉里(いまり)は、ビクッと震え思わずといった調子でマテオの腕に縋りついた。

 逢魔街の魔女こと流花が険相を浮かべるなか、雪南がじろじろといった視線を送る。なんですか、と尋ねる唯茉里の声は少し震えている。


「怪我はないようだな、良かった」


 ほっとしたようであるのは確認した雪南だけでなく、確かめられた方もだった。

 大丈夫です、としおらしく答える唯茉里に、腕へしがみつかれようが頓着しなかったマテオは口許を緩ませる。藤平たち事務所に詰めた従業員も攻撃態勢へ入った気持ちを解きはしないが、今にもとする性急さは鎮められている。

 夬斗などは雪南の変わらなさに笑いかけて、思い至る。共にあった男はあまりに変わり果てていた。単身乗り込んできた心意気は買うが、今日のところは顔見せ程度で済ませられない。

 なぁ、と夬斗は気さくさを装って声をかける。

 解っているとばかり雪南が手のひらを掲げて見せてきた。


「いくらワタシでも、夬斗たちが聞きたがっていることはわかるぞ。だからワタシが話す代わりに逢魔七人衆についての情報をくれ、といった話しにきた」


 疑念をすっかり見透かしているようであれば、夬斗としても有難い。雪南の申し出は、こっちから提案しようとしていた内容とほぼ同じだった。

 ただし懸念がまるきりなかったわけではない。


「黛莉がいたら話せない、ワタシは」


 雪南が黛莉の所在を訊いてきたのは居て欲しかったではなく、居ないことの確認だった。あまり良い話しでもなさそうなのは聞く前から予想が付く前振りである。

夬斗は心を決めても、軽いため息を吐かずにはいられなかった。


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