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第1章:骨肉ー004ー

 和須如(あすも)家の三女を胸に抱きかかえる白銀の髪をした青年は、にこりとして言う。 


「やっと見つけられた」


 夬斗(かいと)は夢から醒めたようなに軽く頭を振ってからだ。


「マテオ・ウォーカーだったか? どういうことだ、見つけたって」

「ボクからすれば社長さんこそ、どうしてここに? てな感じなんだけどな」


 相好を崩したままマテオは腕から唯茉里(いまり)を降ろす。ありがとうございます、と真っ赤になってしおらしい態度に、気にするなとばかりに軽く手を振る。少々気障な仕草も様になっていれば、返されたほうの頬は赤みを増していた。 

 マテオは円眞(えんま)なる者が持つものと同じような短剣を掲げた。


「いちおう便宜上『黎銕円眞(くろがね えんま)』と呼ばせてもらうけど……」

「自分は円眞だ、間違いなく円眞だ」

「ならば黎銕円眞として拘束させてもらう。異能力世界協会(WSA)から依頼を受けているし、個人的にも放ってはおけない」


 お、おい、と夬斗が横から割り込んできた。


「どういうことなんだ、円眞を捕らようなんて」

「彼はここ一年の間に起きた各国の要人暗殺における首謀者と見られている。そして……」


 マテオは次の言葉へ移るまで、一拍の間を置いた。言い淀んだせいだが、ここで閉ざしても仕方ないと諦めたように口を開く。


「ラーダ・シャミル、日本においては『戒樹雪南(かいじゅ せつな)』としてすごしていた人物もまた首謀者の一人として追っている」

 伝えきったマテオがちらり見渡せば、ふっと軽く息を吐いた。


「なんだ、社長たちは予想がついていたんだ」

「予想というより希望だな。殺されたメンツに手を下す理由があるヤツを挙げれば、生きていて俺たちの元へ帰ってくるんじゃないか、てな」


 驚かない和須如兄妹のうち、夬斗が答える。


 一年前に起きた紅い眼をした円眞と、かつて逢魔街(おうまがい)の神々とされる者たちの相克を突いて、抹殺が謀られた。対能力者用の弾道ミサイルによる一斉射撃で、死去もしくは消息不明者が出た。世界総連の声明によれば、世界の敵である『黎銕円眞』の脅威から逃れるため犠牲覚悟の強硬策と発表された。

 苦し紛れな言い訳と確信させたのは、内容ばかりでなく作戦に関わった者のうちから『異能力世界協会』へ保護の打診があったためである。対能力者用の兵器はそれなりの成果があったものの、攻撃を受けた者のほとんどは生存している。命懸けで他を守った者がいたため、より復讐心に激らせた者を生む結果で終わった。今回の攻撃作戦に参画した能力を持たぬ一般人が怯えて然るべきであった。


 恐れは現実となり、今や世界中を震撼させている。


 けれどもニュースが飛び込んでくるたびに、無事でいるのではないか。そうした期待が抑えられなかった夬斗と黛莉であった。自分たちが去った直後のクロガネ堂爆破から、早一年になろうとしている。仕方なく所在を求めた雪南もまた姿を消していた。

 円眞が死んだ、とする結論づけは早計な気がした、決めたくなかった。


「本当なら感動の再会っていきたいところだったんけどな」


 複雑な心境が露わな夬斗の横で、マテオは円眞なる者へ告げる。


「さぁ、おとなしく一緒に来てくれないか。悪いようにはしない」

「幾人も暗殺したであろうとする容疑者に対して、あまりに白々しい言い回しではないか」


 円眞なる者の反駁を、もっともだとマテオは苦笑する。


「確かに、そう簡単に信用はしてもらえなくて当然かもね。ただ依頼主である異能力世界協会の最高責任者であり、我が義兄でもあるサミュエル・ウォーカーは今回の件をある意味評価しているんだ」

「どういう意味だ」

「逢魔街における対能力者(アンチスキル)用ミサイルによる襲撃以来、スキルを獲得した能力者と持たざる無能力者の間に起きた不穏な空気をある程度とはいえ和らげた働きもある、と考えているようだよ」


 マテオの説得に、円眞なる者は揺らいだか。返答はないけれど、一見しての思案顔となった。


 夬斗と言えばである。異能力世界協会のトップが一筋縄ではいかない人物と耳にした数々の評判に確証を得た思いだ。能力を持たない一般人側からすれば、聞き捨てならない意見である、これは。けれども一時期『対能力者用の装備』が爆発的に売れた事実が、能力者に対抗し得るとした空気を生んでいた。能力者に対して万全を拝す技術などないとする現実は、準備を怠るはずもない要人が次々に殺害されていく事案が知らしめた。強気に能力者の排除を煽る声を沈静化させる契機になったことは間違いない。

 保護の依頼が来ても適当にやってたんだろうな、と夬斗はサミュエルの対応を想像した。まだ自分には足りない冷徹な面を持ち合わせているようで、少々羨ましい。

 どうする? とマテオが訊いている。声調は柔らかだが、決断を迫るものである。

 円眞なる者は固めた表情で重々しく答えた。


「やらなければならないことがある」

「他にまだあるのかい。アンチスキルのミサイル攻撃を画策した主要な連中は、もうだいたい始末をつけただろう。まさか作戦に参加した全員を殺りたいなんて、言いださないでくれよ」

逢魔七人衆(おうましちにんしゅう)だ」


 円眞なる者が放つ名称が、夬斗と黛莉だけではない。血を流し続ける由梨亜に恥じらっていた唯茉里まで緊張を孕んだ眼差しを向ける。

 注目を一身に集めた円眞なる者は、マテオを無視するように和須如兄妹へ向き直った。


「自分が円眞であるとするためには、逢魔七人衆の情報を集めなければならない。だからこのままおとなしく引き揚げるわけにはいかない」

「言っている意味が、ボクにはさっぱりなんだけど」


 蚊帳の外へ置かれつつあったマテオが、誰ともなしといった感じで挙げた。

 俺たちもさっぱりだ、と夬斗が返答したら、発言者自身が解答のヒントを寄越してきた。


「雪南だ、雪南のために必要なのだ」


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