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第1章:骨肉ー003ー

 あっはははー、わざとらしい笑い声が立った。

 主は夬斗(かいと)の能力糸に拘束された片割れだ。メイド服の由梨亜(ゆりあ)からだった。


「あたしたちが口を割るなんて思うの。ずいぶんナメられたもんだね」


 バカ、と夬斗(かいと)が口の中で呟くと同時だ。

 ひっと唯茉里(いまり)が小さく、恐怖そのものの悲鳴を上げる。すぐ横で噴いた鮮血によって顔を生温く濡らされれば声を失った。


「やめろっ」


 夬斗が叫ぶ横で、機関銃の激しい射撃音が立つ。だが程なくして黛莉(まゆり)は引き金を充てた指を離す。

 まさかであった。

 二人の姉妹は引き立たされた。円眞(えんま)の前方へ押し出された。銃撃からの盾にされている。肩を剣で射抜かれ上半身が赤く染まる由梨亜に、今にも泣きだしそうな唯茉里と向き合わされた。

 クロガネぇー、と黛莉が腹の底から憤怒を湧き上がる。


「退け、夬斗と黛莉。お前たちに用はない。訊きたいことを訊いたら、こいつらは帰す。素直に話せば、命までは取らない」 


 円眞の平然さが、黛莉をさらに熱り立たせる。あんたねぇー、と前のめりになったところで黒きゴスロリ衣装の肩が押さえられた。

 黛莉が代わりに怒ってくれるから助かるよ、と腕を伸ばした夬斗は笑いかける。黛莉へ、それから円眞とする者へ。


 どさりと床へ投げ落とされる盾にされた姉妹だ。少々乱暴であれば、傷を負った由梨亜は痛みで顔をしかめている。

 ううっ、と円眞なる者は頭を抱えて苦鳴を発していた。


 いきなりの異変だったが、またとないチャンスである。夬斗は妹たちを手繰り寄せるべく能力糸を放つ。

 由梨亜は足下まで引きずってこられた。

 が、唯茉里は再び円眞なる者の片腕に収まっていた。苦悶して左手を額へ当てつつも、残る手で短剣を具現化し伸びてくる能力糸の一部を処理してみせた。

 さすが侮れないな、とこんな場でも感心してしまう夬斗である。

 由梨亜、と屈んだ黛莉が心配そうに頭を抱え上げる。うっさい、と心配する姉に対する妹の態度に夬斗は顎に手を添えながらだ。


「なかなかな好判断だな。今後の尋問を踏まえて傷が広がるだけの人質よりも唯茉里を咄嗟に選ぶとは、まさしく逢魔街(おうまがい)の住人だよ」

「そうか、間違っていなかったか」


 唯茉里を片腕に抱く円眞なる者は、やけに嬉しそうだ。

 思わず夬斗は肩をすくめてしまう。ある意味において、厄介な相手なようだ。まだ説得したくなる。


「なぁ、実は俺と黛莉もこいつらから『逢魔七人衆(おうましちにんしゅう)』について聞き出したくて、ここへやって来たようなもんなんだ」

「夬斗もなのか」

「ああ、だからさ。お互いに知りたい事は一致しているみたいだし、聞き出しは俺たちと一緒にやらないか」


 アニキ! と驚く黛莉に、夬斗は苦笑してしまう。つい今先まで、お兄ちゃんと呼んでいたくせにころころよく変わる。時には、兄さんと呼びたがったりもした。まったく円眞と会ってからだ、すぐ下の妹が呼び方に統一性がなくなったのは。

 やっぱりここは争わずに済ませたい。

 ふざけんじゃねーよ! と由梨亜が口汚く叫ぶから、余計に身内には冷たくなってしまう。


「由梨亜。おまえ、こんなところでぐずぐずしていると、死ぬぞ」

「アニキだからって適当なことを言うな。これくらいで死ぬわけないっ」


 アニキは関係ないだろう、と思うところは口にせずである。


「死ぬんだよ。負わせた傷から血を止まらせないことだって出来る円眞の能力を知らなかったか」


 はっとしたように由梨亜は自ら肩口に手を当てる。顔の青ざめ方から、兄の言う事がはったりでない可能性を感じ取れたようだ。

 事態を呑み込んだ妹の様子が解れば夬斗は円眞とする者へ向く。


「俺としては覚悟を決めてきたものの、出来れば夏波(なつは)さんのいる会社へ戻りたい。兄妹同士で血で血を洗うような真似をしないままでな」

「だから一緒に来い、と」

「おまえが円眞だというならば、共にあれるはずさ。俺、そして黛莉と」


 沈黙によって静寂がもたらされた。  

 夬斗と黛莉、それに残りの和須如姉妹も付き合って息を詰める。


 ダメだ、と返ってきた。

 ダメだダメだダメだ、と堰を切ったように、円眞なる者は繰り返す。


「黛莉だけではない、夬斗も紅い眼のほうなのだろう。普段の黒ではなく『神々の黄昏』を巻き起こした張本人がいいのだろう。本当に共に有りたいとする人物は自分ではないはずだ」


 駄々をこねているようでいて、実は夬斗と黛莉の痛いところを突いてくる。虫がいいとされたら返す言葉はない。話し合いがこれ以上は無理そうなら、実力行使しかない。


「仕方がないな、冷たくても俺はアニキはアニキなんでね。妹を連れ去られるのを黙って見ているわけにはいかない」


 そう告げながら夬斗は両手に糸玉を握り締める。


 円眞なる者も唯茉里を抱え直そうとした瞬間だ。なに、と一言を発しては呆然の態だ。腕の中は空っぽになっている。

 しかし円眞なる者は即座に状況を把握した。


「なぜ、キサマがここにいる」


 鋭く問う先の相手は跪く黛莉の近くに立っている。

 円眞なる者から奪還した唯茉里を抱きかかえる青年の髪は白銀で揺れていた。

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