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第7章:決戦前夜ー001ー

 白銀の髪をした少年がドアを潜ったのは、夜もだいぶ深まってからだ。

 真実は人間の寿命を遥かに越えた年齢に達しているのだが、外見では判断つかない。


「よく来てくれたの、マテオ・ウォーカー。マテオを呼んでも構わんかの」


 事務所の応接間に集う者の中で最年長の華坂爺(はなさかじぃ)が出迎えの声をかける。


 軽くうなずくマテオに怖気づく素振りはなくても神経は研ぎ澄まさせている。

 呼ばれたアスモクリーン株式会社で待っていたのは、ずらりと並ぶ能力者だ。ジィちゃんズとされる華坂爺に加えた多田爺(ただじぃ)とその妻の八重(やえ)内山爺(うちやまじぃ)彩香(あやか)藤平(ふじひら)で、夏波(なつは)だけが一般人ときている。

 そんじょそこらの能力者相手だったら、マテオも苦にしない。けれども三人の老人と日本刀を膝に載せた女を一斉に相手したら、かなり分が悪いくらいは予想が立つ。


 どうぞ、どうぞぉ〜、と夏波の緩い勧めも固辞して立つ姿勢を選んだマテオだ。五人に合わせてソファにまで座る気になれない。


「そんなに警戒しなくても大丈夫じゃぞい。まぁ来てくれただけでも有り難いが」


 腰掛けていても杖を離さない華坂爺には、マテオの目に言葉と裏腹な姿勢としか写らない。相手にその気はなくても、警戒を怠るなんて出来ない歩んできた道である。

   

「さすがに『光の神』にお願いされちゃーね。状況も見てきて欲しいと頼まれたし。なんだか新冶(しんや)は、ずいぶんご老体たちを気にかけていたみたいだよ」

「趣味友だからの。まあ、それだけではないがな」 


 マテオの少々失礼な言い回しにも気にせず、華坂爺が笑っている。多田爺と八重も続いたが、趣味を否定された内山爺だけは渋い顔をしていた。


 マテオは事務所に入ってから、最も気になる人物へ声をかけた。


「キミはボクが来て、何ともないの?」


 向けられた先は、モヒカンの髪型が印象的な藤平だ。それほど遠くない過去において、マテオは姉と共に藤平の仲間を殺害している。恨まれていても当然だった。

 そうっすね、と藤平が言われてみればといった感じだ。


「まったく気にしてないと言えば嘘になりやすけども。けどあの時、殺しにいったのは俺らだったし、強かったら、立場は逆だったっす。ただ負けただけの話しっす。それに……」


 それに? とおうむ返しするマテオに、武器を周囲にさえ置いていない藤平が続ける。


「特にこの街ではいつまでも根に持っていたら、生きていけないっす。あいつらを憶えてやれるのは俺だけですから、そうそう簡単にくたばれないっすしね」


 キミいいね、と口にするマテオがようやく腰かけた。応接テーブルを囲む形で用意された単独のソファへ落ち着けば、夏波ののんびりした声で訊かれる。外人さんでもお茶で大丈夫かしら〜、とくれば、「それで」と答えた。

 ずずずっ、と日本茶をすすっているマテオへ、華坂爺が訊く。


「どうじゃ、外はまだ騒がしいかの」

「一時期よりだいぶだけど、まだまだ動いている感じ。でも明日、あっ、今日か。逢魔ヶ刻までだからまだ余裕あるしね」


 答えてからマテオは、一人だけテーブルの輪から外れた夏波へ向く。おいしかったです、とお礼を言えば、当然ながらもう一杯となった。


 いそいそとトレイに載せたお茶を持ってくる夏波に、彩香が気軽な口調で真面目に問う。


「ねぇ、なっちゃんは避難しないの」

「ううん、どうしようかな。行くところないし、会社のみんなと地下にでもいようかって話しをしている」

「街を出たほうがいいよ、たかだか逢魔ヶ刻の四時間だけだし」


 口を挟んできたマテオに、夏波はのんびりした雰囲気は崩さない。


「良かったぁ〜、それだけの時間があればすむんだね」

「うん、間違いなくどちらかが死んで決着するよ」


 がばっと立ち上がった人物がいる。あやちゃん、と夏波に呼ばれた女性は日本刀を腰へ差しつつ歩きだした。

 どこいくんじゃ、と華坂爺が彩香の行動を目も追わず訊く。


「決まってるじゃない、えんちゃんのところよ。屋上にいるのよね」

「今は紅いほうのエンくんじゃぞ。彩香の求めるエンくんじゃないぞ」

「だからよ。私のえんちゃんが、紅いヤツの勝手に巻き込まれるなんて我慢できないわ」


 待って、と夏波の声も無視して彩香は屋上へ向かうべく出て行こうとする。

 出入り口際で、夬斗(かいと)と鉢合わせとなった。


「おい、彩香。どこ行く気だよ」

「うっさいわね、そこ退きなさいよ」


 彩香が示す態度に、屋上から戻ってきた夬斗はいつなく真面目な顔だ。


「行かせるわけにはいかないな。何がなんでも」

「へぇ〜、私とやり合う気? こんな狭い所じゃ、あんたが不利よ」 

 

 すでに刀の柄へ手を置いている彩香が不敵な笑みを浮かべている。

 夬斗といえば表情を変えない。決意を目に宿したまま口を開く。


黛莉(まゆり)が泣いているんだ」


 ビクッと彩香が反応している。返事がなければ、夬斗は続けた。


「行くなら、時間を置いてくれないか。どうしても今すぐと言うなら、俺は身体を張ってでも阻止させてもらうぜ」


 あやちゃん、お願い、と夏波も頼んでくれば押し通す気は失せたようだ。彩香はしぶしぶと座っていた場所へ戻った。


「和須如の兄が、いいタイミングで戻って来てくれたの。これで何が起きたか、より情報が得られるというものじゃ」


 華坂爺は腰掛けているにも関わらず、目前へ杖を突き直した。


 社長、どうぞ、と藤平が立ち上がりかけるのを、「いいから、いいから」と手振りでも制止した夬斗は折り畳み椅子を持ち出す。マテオの真向かいへ陣取った。 


 さて、といった感じで華坂爺が、まず夬斗へ目を向けた。


「儂らは言われた通り避難勧告を触れ回ったぞ。今度は聞かせてもらえるかの。昨夕に起きた惨状についてのぉ」

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