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87 かつての、今の

「それにしても、今までどちらにいたんですの? あなたの事ですから、必ず耳にすると思っていたのですけれど」


「……まぁ、いろいろあったんです」


今は、魔法隊のメンバーが自主練に励む中、少し離れたところの木陰でミカとジェシカの2人はその場に座り、話をしていた。


ミカとしては、話をするつもりは無かったのだが、あの時、ミカは無意識に足が動いていた。


頭では話は必要ないと考えていても、体が、必要だと言っているのだろうか。


ミカは無表情で、自主練を眺める。


「……」


ジェシカが何かを言っているが、何も耳に入らず、ただ見ていた。


ふと、その姿にかつての自分が重なる。

魔法を使い、失敗した自分。

親にバレないように剣を練習した自分。

結局はバレて、特訓をさせられた自分。

学院に来て、窓から出て練習した自分。


そこまで思い浮かべて、ミカは目をそらす。


目をそらした理由は、一体何なのだろうか。

ミカ自身にも、分からず目をそらしていた。


「ねえ、聞いているんですの!?」


すると、ジェシカがいい加減無視されていることに怒ったのか、ミカの肩を激しく揺らした。

それに怒るでも謝るでも、何をするでもなく、ミカは視線をジェシカに向ける。


そんなミカに少したじろぎながら、ジェシカは言う。


「あの時みたいに、模擬戦をしてはいただけませんこと?」


「……それは、強くなりたいからですか」


今でこそわかるが、かつて、初めてジェシカに模擬戦をしようと言われた時は、ジェシカは自分自身のためにも模擬戦を持ちかけた。


それを知っているからこその、嫌味のような返しだったのだが、ジェシカは立ち上がり、苦笑する。


「ええ…。それもありますわ。でも、それ以外にもあります」


「……?」


ジェシカはそう言うと、自主練していた1人からレイピアを受け取り、ミカから離れたところで構えた。


「さぁ、準備をしなくても、こちらからいきますわよ?」


「……」


ミカは気だるげに立ち上がり、首に手をやってため息を1つ。


レイピアに目をやると、いつしか、学院で見せたものと変わらないものだった。

傷は増え、修復をしたあとはあるものの、大幅に変わっているところはない。


「わかりました。ですが、私は得物がありませんので、こちらで」


そう言いミカが取り出したのは、腰に付けていたコンバットナイフ。

ミカが自作した、特性のナイフだ。


そのナイフを手でクルクルと回し、逆手に持ち、腕を下げる。


今のミカは、ただ棒立ちである。

その様子を見たジェシカは、スキありと前に1歩出ようとして、止まる。


それを見た魔法隊のメンバーたちは、揃って首を捻った。


なぜ、速攻をかけないのだろう、と。


しかし、これには理由がある。


1つは、ミカがナイフを、得物を持った時に出す殺気が並々ならぬものだったから。

もう1つは、ジェシカがそれを感知出来るレベルまで達しているということ。


ジェシカの足が止まったのを見たミカは、レベルがある程度高いことを認識する。


だが、それ以上思うことはない。


ミカは、強化魔法を自身にかける。

『筋力上昇』と『アクイバレント・エクスチェンジ』が別枠で強化されるということを知っていたミカは、創作魔法で別枠の強化魔法を3つ作製。

名前は決めていないし、決める必要も無いので、普段は『筋力上昇』とセットでかかる。


それと同時に、『武器強化』もかける。

これは、以前美香に剣を砕かれた時から考えていた魔法で、自分自身ではなく持っている物を強化するというのは難易度が高く、1年ほどかかってしまった。


そんなミカの異常性を感覚で理解しているのか、ジェシカは1歩踏み出したところで固まり、汗をたらしていた。


「……」


「……来ないんですか?」


ミカが1歩踏み出すと、ジェシカが半歩退く。

それをジェシカは理解していないようだ。


ミカは、面倒だ、とまたため息をつき、ナイフをしまう。

それと同時に強化魔法も解き、完全に殺気を消す。


「はぁっ…はぁっ…」


すると、一気に緊張の糸が切れたのか、ジェシカは膝に手を付き下を向き、呼吸を荒くしていた。


「……い、今のは…なんですの…?」


「……」


ジェシカの疑問に答えず、ミカは無言を通す。

この質問に答えたところで、ジェシカの今後に生かせるようなことは無いだろう。


彼女は輝かしい道を、ミカは…。


(私の道は…もう、光は届かないわね)


いつも通りの無表情で、ミカはその場から去っていった。










どうしてあの時、近づいてしまったのだろう。

ミカは、更に見知らぬ町を目指すため、歩きながらそんなことを考えていた。


「……私の中に、あの時を羨む私がいるのだろうか」


自分の中に、色んな自分がいることは、ミカ自身が一番わかっている。

それこそ、過去を眩しく思うミカだって、例外ではない。


いつもの如く、路地裏で木箱の上に座り込んだミカは、目を閉じる。


しばらくそうしていると、ミカの耳に嬌声が聞こえてきた。


「……」


普段のミカであれば、無視して寝るだけだったのだが、この時は何を思ったのか、そちらへと足を運んでいた。


そしてミカは、激しく後悔することになるのだが、ミカはそうとも知らずに足を進めていく。


まず目に入ったのは、見覚えのあるレイピア。

あれは確か、ミカの持っていたレイピアのレプリカだ。

それが、無造作に地面に転がっている。


「……?」


あれをあげたのは、生涯でただ1人だが。

まさか、とミカは嫌な予感を覚えつつ、更に奥へと進むと、そこでは男と女が交わっていた。


その女の顔は、見た事のある顔だったのが、1番最悪なことだろう。


「サナ…?」










「……」


それからしばらくして、2人の交わりは終わり、その場からは男だけがいなくなった。


その男と入れ替わりになる形で、ミカが姿を現す。


その姿を見たサナは、驚きと恐怖が入り交じった顔でミカを見る。


「……どうしたの、そんな顔して」


「あ、えっと…その…」


そういった顔をする、ということは、負い目があるのだろう。

自分がおかしな事をしているという負い目が。


これが、情報を集めるために体を、という話なら、今のミカは理解する。

自分がするかどうかという話は別としてだが。

それか、ただ快楽のため、と言われても納得する。

他人の趣味などに首を突っ込むことはミカはもうしない。


ミカは、容赦なく言い寄る。


「さっきのは?」


「み、見てたんですか…」


すると、サナは顔を逸らす。


(……サナは、何がしたいんだろう)


彼女はきっと、カナが消息不明だということも知らないはず。

であれば、ここで教えた方がいいのではないだろうか。


「ねえ、サナ。カナの、ことなんだけど」


「あぁ…はい、知ってます…。だから、こんなんになっちゃってるんですけど…」


サナのその返しに、ミカは驚く。

知らないと確信していたのに、なぜ知っているのだ、と。


「大丈夫、必ず見つけるから」


「え? いやでも…」


ミカが、必ず、と口にしたからだろうか。

サナは戸惑ったような顔をミカに向けるが、ミカはこれ以上会話することはないとばかりに背中を向け歩き出す。


そんなミカを引き止めることもせず、サナはただ見ていただけだった。


「……カナは…」


それだけ言うと、後に続く言葉は、口だけ動くだけで言葉にはならず。











サナとの邂逅を果たした町を出て、ミカは再び歩き出す。


目的地は、特に決まってはいない。


「目的は決まってるけど…情報がここまで手に入らないんじゃ、どうしようもない」


どこで情報を集めても、ミカが望むようなものは手に入らず、ミカは途方に暮れていた。

手当たり次第にダンジョンに入ることも考えたが、ダンジョンの場所の情報も手に入らないときた。


まさに八方塞がり。

ミカはどうしたものかと、歩きながら空を仰いだ。


「……っ!?」


と、足元を見ないで歩いていたためか、何かにつまづいてミカはたたらを踏んだ。


一体何につまづいたのかとミカは振り返ると、1本の木の根のようなものがあった。

だが、その外見は真っ黒で、片方は根のように細長いものが残っており、もう片方は円形に切り取られているかのように綺麗だ。


それ見たミカは、すぐに興味を失い、前を向く。


「……」


前を向くその瞳は、何が見えていて、何が見えていないのだろうか。


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