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86 かつての

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「……『フェイク』」


ミカは、半壊した自宅へと帰り、創作魔法『フェイク』を使用し、勝元美香へと変化していた。


『フェイク』は、自身を短時間だが全くの別人へと変化させる魔法で、その変化はDNAまで変化する。

故に、ミカが今手に取っている黒い物体、通信器具も反応する。


『お久しぶりですね。勝元美香さん。そちらはどうでしょう?』


「……特に問題はありません。勝元光に繋いでください」


『少々お待ちください』


以前カナので聞いた時と同じような女の声で、ミカは少し驚いたが、声には出していなかった。


さて、なぜここで光を呼び出したのか。

理由は1つだ。


『私だ。要件は手短に話せよ』


「……私を探していたこと。こっちの人に聞いた」


『……ミカ・ヴァルナだな』


何年も前の話だと言うのに、よく覚えてるものだ、とミカは素直に感心する。

しかし、それも束の間、すぐに気持ちを切り替え、口を開く。


「それが本当の気持ちなら、嬉しい。けど、何か目的があったのなら、私は今までの私に対する仕打ちを、行動をもって返す」


『……ふん、お前に何が出来るというのか。そちらは異世界で、戻ってくる方法も確立されていない。そんな状態で…』


「じゃあ、また後で」


ミカはそれだけ言うと、通信を一方的に切り、通信器具を『コンバート』する。


そして、ミカは日本へ移動する方法を考える。


日本とこの世界がどうズレているのかは不明だが、ミカが考える可能性としては、2パターンだ。


1つは、平行世界。

そもそもこの世界は、地球に魔法というものがあったら、という世界線という考えだ。

もう1つは、同じ世界にいるというもの。

地球も、この異世界と呼ばれている星も、離れているだけで同じ宇宙にあるという考えだ。


通信が出来るということは、平行世界の方が可能性としては高そうだが。


「……」


それに加え、もし地球との距離がただ離れている場合、ミカの魔力が足りない可能性もある。

もしギリギリいけたとしても、向こうで魔力を回復する手段があるかどうかもわからない。


と、そこでミカは閃く。


「ああ、あの機械を見ればいいじゃない」












ワイワイと騒がしい『30』のダンジョンへ戻ってきたミカは、気配を殺して機械をいじる。


ミカが触れると、機械は甲高い音を立てて、動き出した。


「動力源はなんなのかしら」


こちらにはコンセントなるものは無かったはずなので、一体何が動力源なのか気になったミカだが、一旦その思考は頭の端に追いやる。


「んー…これかしら」


ミカが機械を操作する音が部屋に鳴り響き、気づいていなかった人たちが次第に気づき始める。


人たち、と言っても、全員が制服を身につけている子どもたちだが。


それらの視線を全て無視したミカは、座標と思わしき数値を発見する。

その下に、こちらの座標もあったので、何が違うのかを見比べる。


「……地球が第2宇宙。こっちが第3宇宙。この書き方だと、ちょっとわからないわね」


それこそ、宇宙全てを含んでの第2、第3宇宙なのか、宇宙全体で見て、広すぎるから名前を分けて限定する場合の宇宙なのか。


「……」


ミカは、一か八かで魔法に座標を組み込み、発動させるという考えも浮かぶが、すぐに頭を振って考えを振り払う。


それは最終手段だと、別の考えを探すようだ。


だが、それ以外の方法が思いつかないのも、事実である。


「……はぁ」


『フェイク』の効果が切れ、ミカに戻る。

壁に立てかけた時計を見て、そろそろ時間だ、とミカは椅子にかけていたマフラーを首に巻く。


今日も、仕事をしに行くようだ。











「……」


昔と比べてすっかりと口数が減ったミカは、それと同様に笑顔も減っていった。

笑顔どころか、表情の変化も乏しいものとなっていた。


なので、無愛想な顔をしている、という印象を与えることも多々ある。


「あんた、そんなに人生つまんないかい?」


そういう訳で、ミカが短時間で食べられる食事を買っていると、店員にそう言われることも多い。


最初の頃こそ、『そうかな?』と地味にショックを受けていたりしたのだが、今となっては無視だ。


「……」


「……まぁ、どう生きるかは、あんたの自由だけどさ」


ミカが一貫して黙り込んでいると、それ以上は何も言わず、店員も商品を渡し、代金を受け取った。


しばらく道を歩き、ミカはまだ行ったことのない町へと向かう。


道は馬車が何度も通ることで固まった地面のみで、少し横にずれれば森だ。

1人で歩いていれば、面倒な輩に絡まれることは間違いないだろう。


そんな中、ミカは自身の周りの人間について考えていた。


彼女が深い関係を持っていた人間は、軒並みいなくなっている。

セフィア、カナ、セリナ、ジェイナ、アーリア。

と、そこまで考えたところで、ジェシカのことを思い出す。


「……少し、様子を見ようかしら」


あれから何年も時間がたっている。

彼女は学院を卒業し、どこかで過ごしているはず。


(……学院に聞いたら、その後の進路とか聞けそうよね。優秀な生徒だったのだし)


ミカはそう考えると、道の横から不審な男の集団が現れた瞬間、『テレポート』で学院の校長室であるバティスタの部屋に移動した。


「……」


辺りを見渡しても、バティスタの姿は見えない。

時刻は昼過ぎ辺りなので、授業にでも出ているのだろう。


学院内をうろついた時に知人に見つかりでもしたら面倒なので、ミカは棚を物色し始める。


その中で、『卒業生進路』と書かれたファイルを見つけた。


「これね」


それを棚から引き抜き、パラパラとめくる。

その中で、ジェシカのページを見つけたミカは、素早く目を通す。


「……国の魔法隊に入ったのね」


アーリアがいたのが、主に武術を軸として戦う衛兵集団だが、ジェシカが行ったのは魔法を軸として戦う衛兵集団だ。


前線には立たないので、傷がつく可能性は低いが、魔法を使い続け、無理をして倒れる人も続出したこともある。


とりあえず、欲しい情報は得たミカは、そのまま閉じようとした時、次のページで自分の名前があることに気がついた。


「…?」


なんとなく気になったミカは、自分のページを見る。

そこには、予想通り途中卒業したことが書かれており、ミカはファイルを閉じる。


最後に書かれていた、『特異点の可能性』というメモ書きを見なかったことにして。











『テレポート』は、ミカが1度そこにいかないと行くことはできない。

『テレポート』先に選ぶ場所を思い浮かべる必要があるからだ。

その点でいえば、地球ではテレビがあり、インターネットがある。

どこにでも行くことが可能なのだが、こちらではそうはいかない。


ただ、幸いにもジェシカがいる場所は学院から近いようなので、歩いて向かうことにしちミカ。


数時間歩き、ようやくついた時、ジェシカらしき人物はすぐ見つかった。


「さぁ、もう1度行きますわよ!」


「はい!」


「…?」


ジェシカのような声と、若そうな女の複数の声が聞こえる。


広い土地で、どうやら訓練をしているようだ。

魔法隊の建物からはそう遠くない場所のようで、ミカは学院のバカ広い敷地を思い出す。


ミカは無意識に、中へと入り、近づいていた。


それに気がついた魔法隊の1人が、ジェシカに報告する。


「ジェシカ先輩、向こうから知らない人が…」


「え? ……皆さん、戦闘準備ですわ」


ジェシカがそういうと、一瞬の動揺が走るも、魔法隊の全員、約10名が素早く戦闘準備を整える。


なるほど、よく訓練されているようだ、とミカは感心した。


ジェシカが、険しい顔でミカを睨みつける。


恐らく、ミカの容姿が変わりすぎて気がついていないのだろう。


ミカが、ジェシカに分かりやすいように声をかける。


「お久しぶりです、ジェシカ先輩」


その顔は、ぴくりとも動かない無表情そのものだったが、ミカの声色は大して変化していない。


その声を聞いたらジェシカは一瞬眉をひそめたが、すぐに何かに気がついたかのような顔になる。


「もしかして…ミカさん、ですの?」


「はい、そうです」


ジェシカがミカの名前を口にすると、魔法隊の全員が顔を合わせて口々に言う。


「ミカさんって、あの…?」


「これまでのどんな天才よりもより才能を持ち、実力も兼ね備えた天才美少女…」


「『銀髪青眼の天才美少女』…」


「……」


ミカは魔法隊のメンバーたちから視線をずらし、ジェシカを見たところで、ジェシカが目に涙を浮かべていることに気がつく。


「ずっと…心配していたのですのよ…」


「……」


それを見たミカは、少し悪いことをしたと考えた。


かつて、ミカが学院から出る時、ジェシカにも何も言わずに出ていこうとした。

しかし、ジェシカは既にミカが出ていくという情報を掴んでおり、彼女を怒らせてしまった過去がある。


情報の漏れどころは、バティスタで間違いないだろう。

セリナがついてくることになったのも、バティスタが漏らすからである。


「ずっと…ずっと会いたかった…」


ジェシカはミカに駆け寄り、抱きつくとそう一言呟いた。


その間もミカは、表情を変えることは無かった。


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