85 3度目のダンジョンへ
「……久しぶりね」
ミカは、『テレポート』し、やってきたダンジョンを、改めて攻略することにした。
とはいえ、攻略などとは言えないヌルゲーになることは間違いない。
「さて…」
ミカが創る魔法はどの属性にも属さないことが分かったので、ミカは創作魔法と名付けることにした。
その中の、創作魔法『センス・ビット』を発動させる。
ミカの周りに2つの光球が出現する。
この光球は、ミカの感覚で察知した敵を自動的に攻撃するという優れものだ。
攻撃方法は、光球から生み出されるレーザー状の魔力の塊で消し飛ばす。
簡易『イクス・マグナ・レイ』だ。
しかも、形状が球であるが故に、銃口がわからない。
要するに、光球には死角が無いのだ。
「……」
そんなわけで、ミカはただ歩いて、ダンジョンの奥を目指して歩くだけだった。
「…?」
ミカは、広場のような場所に出ていた。
その場所には見覚えがあり、様々な機械と共にスーツ姿の男がいたはずなのだが、今では跡形もない。
「移動した…?」
そうだとすれば、ミカはクロにいいように踊らされていることになるのだが…。
不機嫌さを隠さずに、ミカはその場を探索する。
「……ほんと、何も無くなってるわね」
そう呟きながら歩くミカ。
その時、ふとかなり後方から人の気配がした。
それを察知した光球は、すぐに飛んでいくが、ミカは『センス・ビット』を解除する。
そして、大きめの岩の後ろに隠れた。
「……」
そのまま、息を殺して待つ。
すると、奥からスーツ姿の男が出てきた。
「毎日毎日スーツ姿ってのは、日本にいた頃よりブラックな気がする…気のせいかな?」
そういうと、男は足場の岩をどかして、下にあったのであろう穴に降りた。
そして、その中から手が伸び、岩を元の位置に戻す。
「……なるほど」
ミカはすぐにその場所へと走り、穴を創作魔法『エクスプロージョン』で破壊する。
『エクスプロージョン』は、座標が目で見えてることが条件となるが、極めて破壊性能の高い魔法だ。
範囲はそこまで広くないことが難点だが、それでも一軒家ぐらいはまとめて吹き飛ばすことは可能だ。
「さて…」
静かに爆発など出来ないので、恐らく音で何者かが来たことはバレただろう。
以前ここに来た時、かなり強い魔物がいたが、それを作ったのがスーツ姿の男だったはず。
あれからかなりの年月がたっているため、それ以上のものを用意している可能性もある。
「一応、警戒はしておこう」
ミカは『センス・ビット』を発動。
光球を今度は4つ出し、穴の中へと降りた。
穴の中は光が一切入っておらず、光球のおかげで周りが見えている状態だ。
道は一本道で、穴の深さ自体は5mほどだ。
どうやって穴を塞いでいたのかと目を凝らしていると、穴の入口のすぐ下に窪みがあるのに気がついたミカ。
「なるほど、あれに足をひっかけて、閉めたのね。器用なこと」
そして視線を前に戻し、歩き始めるミカ。
その最中、考えていることはクロの言う『特異点』。
(『特異点』っていうのは、簡単に言えば基準に当てはまらない点のこと。つまり、私がこの世界の基準には当てはまらない、外れた人物ってことになる)
となれば、どうして自分がそのような立ち位置になったのか気になるところだが、そんなことを気にしては何も前に進まない。
しばらく歩いて見えてきたのは、薄く明かりがついた部屋。
(私の光球が明るすぎたせいで、こっちの明るさに気が付かなかった…ってことは、逆から見たらバレバレなのよね)
どうせバレているのなら、堂々と入ってしまおうと、ミカはそのまま中へと入っていく。
特段明るいわけでもないので、目がくらむこともなく、ミカは周囲に目を配る。
どうやら、前にミカが見た機械類はこちらに移動させたようだ。
どうしたらその機械の大きさであの穴を通るのかと不思議にも思うところはあるが、そこは今はどうでもいい。
(どうせ、チート系でしょ。それよりも)
ミカは、正面にいる男たち、その数約30人弱に視線を移動させる。
その全員が、ミカを見ていた。
その中心にいた、美形でいかにも中心人物といったような雰囲気を纏った男が声を上げた。
「すまない、君は誰だろうか!?」
どうしてそんなに声を上げるのだろうか、とミカは不思議に思ったところで、意外にも離れていることに気がつく。
機械類にしか興味が無かったようだ。
「私は…」
と、自分の名前を言おうとしたところでふと気づく。
その美形の男にどこか見覚えがあったのだ。
男たちの服装を見る。
その服は、ミカがかつて1度だけ登校するのに着ていた服そのものだった。
どうやら、こちらに来ていたらしい。
「……私がどうかはどうでもいいでしょ。あなたたちはなんでここに?」
ミカが放った言葉から威圧を感じたのか、数人が後ずさった。
だが、美形の男は意に介した様子もなく、無邪気に言う。
「わからない。俺たちは政府に呼ばれて、気づいたらここにいたんだ」
「……そう」
ミカは、それだけ言うと、興味を失ったように辺りを物色し始めた。
それを見た美形の後ろにいた取り巻きのような男3人がミカの近くまで歩いてきた。
その歩き方は、ポケットに手を突っ込みながら、気だるそうな印象を与える。
「なぁ……俺たち困ってんだわ」
「ちょっとこっから出るのに案内してくんない?」
「そのあとは、俺たちが君のこと可愛がってあげるからさぁ!」
ミカは面倒くさそうに、手に持っていた機械を手から乱雑に落とし、3人を流し見る。
左から、頭の悪そうな坊主の男。
金髪でオールバック、耳ピアスの男。
茶髪でロング、左目は髪で隠れて見えない男。
ミカは、創作魔法『ターゲット』を発動させる。
すると、傍からは何も、発動したことすら気づかないが、ミカの視界にはある文章が浮かぶ。
『ターゲット』は、ターゲティングした相手の情報を出すというもの。
この魔法を防ぐ方法はミカ自身にもよくわからず、故に個人情報はダダ漏れということである。
そんな魔法で浮かび上がった3人の情報は、ミカの予想通り、2人がチート持ちだった。
1人は、『即治癒』。
もう1人は『逆境』。
(『即治癒』はいいとして、『逆境』は下手にいじめたら面倒ね)
ミカは『逆境』の男に手のひらを向け、創作魔法『グラビティ』を発動。
座標は男の体内に指定し、ミカの意志によって左右する重力場を作成する。
ミカが魔力を込め続けるだけそこに存在し続ける内側へ引く力は、男の体を一瞬で、おかしな挙動で消し去った。
…ように、見えただろう。
(実際は、すごく小さく凝縮されただけ…だから、その肉塊にはかなりのエネルギーが込められてるけど、塵より小さいし、どうでもいいわね)
消えたと勘違いした残りの2人は、一瞬で顔色を変えて、美形の男の後ろに隠れた。
しかし、その美形の男は怯えて様子はなく、ミカをただ見つめている。
「……」
「……君はどうやら相当強いようだ。もちろん、ここにいるみんなが束になっても勝てないだろう。だから、そんな君に折り入って頼みが…」
「断る」
そこで思い出した。
最初で最後の教室に言った時、ミカに声をかけてきた中心にいた人物だ。
内容は『今朝のニュースをどう思うか』。
ミカは安全かどうかがわからないと答えたが、それを面白いと言った人物。
(なるほど、この男はリア充グループの中心ってやつね。もしかしたら、私もそんなのの仲間になってたかもしれないと思うと、ゾッとするわね)
とにかく、そんな男とは相容れないと確信したミカは、用も済んだことだし、帰ろうとしたところで、動きが止まる。
見たことのある、女子がいたのだ。
「……みかん?」
「へっ?」
後ろにいた生徒たちより更に後ろ、壁に背を預けながら隅っこで息を殺して立っていた少女。
ミカは、真っ直ぐ彼女の元へと歩いていく。
だが、みかんは足をふるわせ、今にも泣きそうな顔をしていた。
それを見て、ミカは進む足を止める。
彼女が浮かべていた顔は、恐怖の色だ。
「……」
フッ、と自嘲の笑みを浮かべると、ミカは背を向け、元来た場所へと戻っていく。
(…まぁ、私がしたことがしたことだから。それに、収穫はあったからもういい)
ミカは、ミカ自身が思っているよりも冷たくなっていることに気が付かないまま、『コンバート』させていたものを取り出す。
それは、以前カナが日本と通信をしていた物体。
誰のものかは、名前が書いてあったのですぐに判別できた。
「……『勝元美香』、ね。なんの偶然か…はたまた…」
自分自身の名前が書かれた、リストバンドのような金属の物体を手で弄りながら、これまでのことを思い浮かべる。
日本人が、これで本当に最後なのか。
探して始末すると言っていたサナは生きているのか。
この他にも、色々と思うことはあるが。
「……」
ミカはそれを腕に取り付け、『センス・ビット』を発動し、足元を照らした。