84 新しい道を
ミカの変化とともに、サブタイトルも統一を崩します
数年がたった。
ミカの年齢は12歳になり、容姿も大人っぽくなっていた。
美貌はさらに磨かれており、以前はキュートな可愛さだったが、今ではクールな可愛さになっている。
銀の髪はさらさらで、胸も膨らみ、腰は細く、お尻は丸く可愛い。
さらに、この異世界で発見されている魔法は全て習得し、その他にも魔法を創り続けた。
創った魔法は、基本的には殺傷性の高いものばかりだが。
ただ、1つマイナス方向に変わったのは、目だ。
「……葡萄酒を1つ」
時刻は既に0時を回っており、外は真っ暗。
そんな中、酒場で1人、ミカは葡萄酒を飲む。
その目には生気は無く、ただ生きているような印象を受けさせる。
それでも、全体的な容姿の印象はプラスなので、声をかけられることは度々あるのだが。
「……ふぅ」
葡萄酒が入ったジョッキを置く。
未成年が飲酒なんて、とかつてのミカは思うだろうが、今の彼女にとってはどうでもいいようだ。
彼女がこうなったのも、理由はある。
いくら探しても、セフィア、カナ、セリナは見つからず、また、情報も集まらない。
それどころか、ジェイナとアーリアの2人も行方不明ときた。
実家である家は半壊しており、十中八九勝元美香が何かをしたのだろうが…詳細は定かではない。
しかし、世界全体で見れば、特に異変は起こっていないようだった。
残った葡萄酒を一気に飲み、ミカは代金を払い外へ出る。
ミカの仕事は日が落ちてから始まるのだ。
路地裏に入り、『コンバート』させていた黒のズボンとマント、マフラーを取り出す。
その場で手早く着替え、そのまま屋根へと飛ぶ。
彼女は、まだ人探しを続けていることもあって、定職にはつけない。
なので、冒険者のように依頼を受けて稼ぐのが主な財源となるのだが、ミカはそれ以上に短時間で稼げる方法に手を出していた。
それは、殺しの依頼。
「今日は…この人か」
ミカは1枚の紙を取り出す。
その紙には、今日殺す予定の人物の情報が書かれている。
その人物は、ミカが買い物をする度に何かと気にかけてくれていた野菜を売っていた人物だった。
「…それじゃ、始めるか」
最初は、抵抗もあったが、今となっては感情は無くなった。
報酬は前もって貰っている。
故に、その分の仕事はしなければならない。
ミカは、軽く体を沈みこませ、飛び上がった。
「今日はこれで終わりね」
あの後、数人始末し、今日の分を終わらせたミカは、宿ではなく、路地裏の人目につかないところで座り込んで、魔法で返り血を洗い落としていた。
ミカの名前は広がってはいないものの、容姿と実力は広がっている。
下手に宿に泊まるわけにはいかなかった。
ふと、ミカは思う。
これから先も、お金が無くなれば、寄った町で同じようなことをしていくのだろう。
そんな時、殺しの対象が、探している3人だったら、どうなるのだろうか。
ほんの少し昔は、迷いなく3人を取っていただろう。
だが、今では少し迷うようになってしまった。
まだプロではないが、暗殺稼業を行っている身としての、思いもある。
(……稼ぎ方を間違えたわね)
恐らく、この世界から足を洗うことは出来ないだろう。
それを察しているミカは、洗い終わった服を『コンバート』する。
そして、毛布を取り出し、それに包まる。
こんな生活を続けて、もう何ヶ月だっただろうか。
(何ヶ月たってようが関係ないわね。これからも、続けていくのだろうし)
そして、瞼を閉じていく。
人気を感じて、ミカは瞼を開ける。
どうやら表通りに活気が出てきたようだ。
「……」
重たい体を起こし、人が増えてきた表通りに出る。
そこで今日の朝食、昼食分を買い、そのまま町を出る。
ある程度まで離れたところで強化魔法をかけ、走り出す。
以前までは、かけることの出来た魔法は『筋力上昇』と『アクイバレント・エクスチェンジ』のみ。
今ではそれの他に3種類が増え、5種類の強化魔法がかかっている。
想像の中でしかないが、今であれば、勝元美香のスピードにも対応出来るだろうと考えている。
そして、山道を疾走している中、見たことのある容姿をした人物とすれ違った。
「…?」
魔法で空気を固め、その場で急停止するミカ。
それに遅れて突風が巻き起こるが、それを気にした様子は無く、その人物を見る。
その人物は、いつしかミカが夢の中で見た黒髪の少女によく似ていた。
「や、元気にしてた?」
いや、その人物だったようだ。
「んーと、4年ぶり…かしら?」
「6年」
「あ、私クロって言うの。よろしく〜」
「……」
ミカは、クロと名乗る少女を見る。
その容姿は、かつてみた姿とあまり変わらず、胸も身長も成長していないように見える。
「失敬な!」
ミカの視線に気がついたのか、クロは頬を膨らませて怒る。
「あざと」
「んなーっ!?」
ミカが無意識に口に出た言葉に、クロは更に頬を膨らませて怒る。
よく喋れるな、といった感想を持ちそうである。
現在、木陰の下に腰を落ち着けながら、2人はのどかに会話をしている。
ように見えるが、片方は身元不明で服もこの地域ではあまり見ない怪しさ満点の上にクロ。
もう片方は、美しさに磨きはかかっているものの、目は半分死んでいると言っても過言ではなく、プレッシャーが漏れ出ている怪しさ爆発のミカ。
人通りが多ければ、衛兵に通報が行くかもしれない状況である。
「私の言った通りでしょ?」
「…?」
クロの言う言葉に、ミカは首を傾げる。
記憶を探っても、何も出てこないようだ。
それを見たクロは、ため息を1つし、説明する。
「前に私が夢に出た時、忠告というか警告というか、アドバイスしたでしょ?」
「ああ…忘れてた」
以前クロがしたというアドバイス。
それは、『日本から来た異世界人が、この世界に害をなす』というもの。
だから、日本人をみかけたら始末しろ、とだけ言い残していなくなったのだが。
「…世界、というか、私だけに危害が及んでるわね」
「あながち間違いじゃないけど…まぁ、それはそれとして」
「…?」
ミカは、クロがいった言葉の意味を探りたがるが、クロが話を切り替えたことで、それ以上追求出来ない空気になってしまった。
クロは、右手を顔の前に持ってきて、人差し指を立てた。
「1つ、私は神様に近い存在」
「いきなりなに?」
ミカの問いを無視し、クロは続けて、中指を立てる。
「1つ、あなたはこの世界の特異点となった」
「は? なった?」
ミカの問いを2つとも無視したクロは、ニヤリと口角を釣り上げた。
「今言えるのはそれぐらいかなぁ…」
「……吐かせる」
クロが思わせぶりなことを言い始めたことに苛立ちを感じたミカは、拳に力を込める。
強化魔法がまだ切れていないことを確認したミカは、その場から跳ね上がるようにクロに飛びかかるが、その拳は体をすり抜けた。
「!?」
「ま、一応神様と同等だから」
「……」
先程、『近い存在』と言っていたのに、もう同等か、とミカは言いたくなったが、ぐっと堪える。
ただ、クロを睨むことは我慢できていないようだが。
「……ま、まぁまぁ。そんな怒んないでよ。悪い情報じゃないんだし」
そう言うと、クロはミカに背を向けた。
トンッ、と、軽く地面を蹴ると、ふわふわと宙に浮かびだした。
魔法を使っている気配はないことを確認したミカは、腰につけていた小さいナイフを投げる。
「だから、無駄だって」
クロの言う通り、ミカが投げたナイフはありえない速さで飛んでいったが、クロには当たらず後ろの木を貫通していった。
「そうね…もう1つアドバイスするとしたら…『30』のダンジョンへ行くのが吉」
「……どうしてそこまで」
私に肩入れするのか、とミカが問おうとしたところで、クロが人差し指を口の前に持ってくる。
所謂、『しーっ』のポーズだ。
「私の気まぐれだよ」
それだけ言うと、クロはその場から姿を消した。
クロがその場から姿を消してもしばらく、ミカは座ったまま動かなかった。
座ったままままミカは、クロの言葉を思い浮かべる。
『30』のダンジョン。かつてミカが鍵を手に入れ、向かった先には転移を安定化させる機械が運ばれていたということがあった。
あの時は、そのまま放置をしていたのだが。
「……『テレポート』」
ミカは、クロと同じように、その場から姿を消した。
100を終わらせる目処に考えていますので、よろしくお願いします
その際は、また新しく始める予定ですので、みかけたらよろしくお願いします