81 セリナの目的です!
「そういえば、そんな便利な魔法がありましたねっと」
部屋から出たミカは、風属性魔法、『ディテクション』を発動させる。
この魔法は、手がかりがあれば、対象の大体の方向と距離が分かるという優れものだ。
今回の場合、以前セフィアを助け出した声は使うことが出来ない。
以前のあれは、ミカの魔力が半ば暴走し、セフィアの想いが共鳴したからこそ、手がかりとして作用しただけなのだ。
もう一度ミカが同じような状況に陥れば、セリナも同様に探すことが出来るかもしれないが、その可能性は極めて低いだろう。
(まぁ、今はそんなことどうでもいいわね。今回の手がかりは、これよ!)
ミカが視線を落とした先には、手に握られているセリナの服。
使用後何日までなら手がかりとして機能するのかは不明だが、1日ならまだ大丈夫のようだ。
何となく、ミカは匂いを嗅ぐ。
「すんすん…いい匂いがする」
嗅覚から得られる情報はそれだけだ。
「んん…さて、ちゃんと探しましょうか」
気を取り直し、ミカは先程発動した『ディテクション』で得た情報に集中する。
(場所は…かなり近いわね。それも、私の進行方向。となると、やっぱりフロントなんだけど)
そう考えながら、ミカがフロントまで戻ってくると、そこには複数の大男に囲まれたセリナがいた。
「…なにやってんのかしらね」
ミカがため息混じりに近づいていくと、大男達が恐喝でもしているのかと思ったのだが、どうやら逆のようだった。
「ねえ、聞いてるのは私」
「いや…俺らに聞かれてもわからねぇっていうか…」
「あ、ああ…ホント、力になれなくてすまねぇんだが…」
「そんなわけない。ひねり出して」
話を聞いていると、何の話なのかは見えてこなかったが、何かを探していることはわかった。
(一応、話は聞いておこうかしら)
セリナがよからぬことを考えている可能性があるため、ミカはセリナから死角になっている道の影に体を隠し、耳をすませた。
「とはいっても…ああ、そういえば、少し離れた森の奥に、そんなのがあると聞いたことがある」
すると、数秒考え込んだ片方の男が、そんなことを言い出した。
それを聞いたセリナは、パァっと顔を明るくさせ、男たちに礼を言う。
「ありがとう。これはお礼」
「あ、ああ。だが気をつけろ。かなり厄介な奴がいるとの話だ」
「ん、わかった。気をつける」
セリナは、正面にいた男に情報料のお金を渡し、アドバイスを受け宿を出た。
それを見たミカは、後を追い宿を出る。
(セリナが何をしようとしてるのかは、多分その男の人たちに聞けば早いんだろうけど…)
何も、悪いことをしていると確定した訳では無い。
セリナのいないところで、彼女の聞き込みをするのは、なぜか後ろめたい気持ちがある。
それに加え、いつも寝るか食べるかしている(なぜ太らないのか不思議でならない)彼女が、自主的に何かをしようとしている。
それは、ミカが個人的に静かに見守っていたいのもあった。
(はぁ…はぁ…ど、どこまで行くの…?)
セリナの後ろを追い続けて数時間。
そろそろセフィアとカナに連絡を入れておかなければ心配する時間だが、いかんせん今は連絡手段がない。
ミカが辺りを見ると、そこには木、木、木。
耳をすませても、町の喧騒は聞こえず、セリナが歩く音がするだけ。
要するに、2人は森の奥深くに来ていた。
ちなみに、なぜミカの音がしないのかというと、彼女は魔法で浮いていた。
(ほんと、魔法って便利よね)
元々この世界にあった魔法は、そこまで便利なものではなかったのだが、それを勘違いしているミカである。
そして、ミカがふわふわと浮いていると、その視線の先、セリナがふと蹲った。
そんな彼女を、どうしたのだろう、とミカが見つめていると、よく見ると、蹲っているのではなく、しゃがんで何かをしているようだった。
「…違う、かも」
「違う?」
ミカとセリナの位置はかなり離れているので、耳は良い方(だと自負している)のミカが耳をすませても、断片的にしか聞き取れない。
欠けた情報を手に入れたミカは、頭をフル回転させながら後を追いかける。
結局、どう考えても答えは分からないと判断したミカが、大人しくセリナについてくこと数十分。
開けた場所に出たセリナは、感慨深そうな息を漏らした。
「わぁ……」
視線の先には、見えるだけ広がる花たち。
ミカは、静かにセリナの横に立つ。
「…これを、探してたの?」
「!?」
突然のミカの出現に、セリナは驚きに体を震わせた。
それどころか、そのまま仰け反り、足元の木の根に足を取られ、転んでしまう。
「だ、大丈夫?」
「…ん、平気」
ミカが差し出した手をしっかりと握り立ち上がると、セリナは小さく話し始める。
「……みんなに、お礼がしたくて」
「お礼?」
「ん」
セリナは、頷きながら短く言う。
なるほど、とミカは息を吐いた。
「……まぁ、変なことじゃなくてよかったよ」
「…?」
ミカが呟いた言葉に、セリナは首を傾げるだけだったが、ミカが笑顔なことに気が付き、花たちを見る。
辺り一面に広がる花は、黄色や白を基調とし、所々にピンクや水色が混ざっている。
頬を撫でる風が気持ちよく、その風に乗って花びらが舞っている。
「……」
「セリナ?」
そんな風景に見とれていると、セリナがその花をかきわけ、奥へと進んでいく。
意外にも底が深く、花は大きいようで、セリナは腰辺りまで沈んでいた。
(あれだったら、花を踏む心配も無さそう…いや、完全に無いわけじゃないけども)
そんなことをミカが考えていると、数十m離れたところで、セリナが花を摘んで帰ってきた。
両手で抱えているセリナは、なんだか小人にでもなったようだ。
(借りぐらしのセリナッティ…なんかダサいわね)
ミカがそんな馬鹿なことを考えているうちに、器用に花冠を作る。
普通の花より太い茎は、小さなナイフで裂いたようだ。
ちなみに、花冠の作り方など、ミカは知っているわけがないので、セリナのやっていることが手際が良すぎてわからなかった。
そして、普通のよりも少し大きい花冠を作り上げたセリナは、ミカの頭にななめにかけた。
「……いつも、ありがとう」
「……うん、どういたしまして」
お互いに、笑顔で抱き合う2人。
その日は雲が少なく、月の光が2人の直に照らす。
数分抱き合っていた2人は、やがて同時に離れる。
そして、セリナが口を開く。
「……色々と、迷惑かけると思うけど…」
「そんなの、お互い様じゃない」
「いろいろ食べるけど…」
「それは改善しなさい」
「おかえりなさいませ、お嬢様、セリナ様」
「ええ、2人とも、心配かけたわね」
宿の部屋へと戻ってきた2人を、セフィアとカナが優しく迎える。
そんな2人に、カナが申し訳なさそうに言うと、セフィアが真面目な顔で言った。
「いえ、お嬢様のお体の心配はしていません」
「しなさいよ。…ちなみに、どうして?」
「別の心配をしておりました。お嬢様が何かやらかしているのでは、と」
セフィアに理由を問うと、カナが答える。
ただ、その答えはいささか主人に失礼なのではないだろうか。
ミカはそんな2人をジト目で見た後、諦めたように息を吐き、微笑を浮かべる。
「まぁ、いいわ。それじゃあ、今日はもう寝ましょうか」
「そうですね」
「それでは、お風呂の準備をしますね」
その日は、狭い風呂に4人でなぜか入ることになったのだが、とにかく狭く、セリナが窒息しそうになった事件も起きたのだった。