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80 初めて泊まる宿っていくつになってもドキドキするんです

更新頻度上がるとか言っていた割には、たいして上がってないことに気づいてしまいました。

ミノタウロス討伐を即終え、組手も終わったミカたちは、組合へと向かっていた。


「本当に大丈夫なの?」


「平気」


しかし、その組合へと向かっている途中、ずっとセリナは片足を引きづっているのだ。

セリナの表情も時々痛みでなのか、ひきつっているようにも見える。


だが、ミカがいくら心配しても、セリナは「大丈夫」の一点張りだ。


(その気になれば、無理やり治療できるんだけど...)


一度贅沢をを知ってしまうと、その経験を忘れられなくなる。

その贅沢が基準となってしまうのだ。

そのことを身をもって経験したわけではないが、知識として知っているミカは、無理やりということに躊躇していた。


「ほおっておけば、そのうち治る。それまでは我慢」


「...まあ、そうかもしれないけどさ」


セリナにそう返し、ミカは腕を組んで唸る。

その姿を見ていたメイド2人組は、穏やかな表情だった。









「すみません、依頼の達成報告をしたいんですけど」


組合へと戻ってきたミカたちは、窓口のような場所で達成報告を行っていた。

受けた依頼の種類を言い、誰か1人、代表者のカードを提示したら、本人確認は終わりだ。


(これでいいのだろうか...まあ、高校生までの知識しかない私が心配してもね。問題がないからこの方法なのだろうし)


本人確認が済むと、今度は討伐証明を提示する。

今回はミノタウロスなので、角が一般的になるが、別の魔物だと、また別の討伐証明が必要になる。


例えば、Aの魔物と、Bの魔物では、角はかぶっていないが、鱗が酷似していて、判断が難しい、など。

現在判明している魔物全てを照らし合わせた結果、ミノタウロスは角なのだが、コンピュータが判断しているわけではないので、もしかすると、ミノタウロスに似ている角を持つ魔物もいるかもしれない。


(似ている似ていないの前に、子ども2人でミノタウロスを3体討伐するっておかしいんじゃないの、今更だけど)


本当に今更である。


しかし、窓口にいた人は、特に何も言わずに笑顔を張り付けたまま業務をこなしていく。

どうやら、怪しくは思われていないようだ。









依頼達成の報告を終え、その報酬も得た4人は、今日一晩泊まれる宿を探すために、街へと出ていた。


「さて、お嬢様。どのような宿にいたしましょうか」


のんびりと歩いていたミカに、セフィアが問いかける。


「そうね...今回得たお金の中で泊まれる場所ならどこでもいいわよ」


「かしこまりました」


セフィアはそういうと、別行動を始める。


セリナは、渡したお小遣いを消費しに町へ、カナは監視役としてつけているので、今はミカ1人だ。

つまり、久々の1人の時間、ということになる。


「...まあ、私が個人で持っているお金なんてたかが知れてるし、適当にぶらついて終わりよね」


そして、ミカは特に目的を持たずに歩き始める。

歩き始めた矢先に、ミカはセフィアたちとの集合場所を決めていなかったことを思い出すが、まあいいかと考えた。


(あのメイドたちのことだし、すぐに会えるわよね)










「....」


結論から先に言おう。

何もすることがなかった。


もともと、ミカは女子でも買い物は長くない女子だったため、商品を見てもすぐに次へと移動する。

それだけでミカは十分だったのだ。ほかの女子がいつまでも商品を見てキャッキャしている姿を見ていて、「何をしているんだろう」と考えてもいた。

異世界にきた今でも、その考えは変わることはなかったようだ。


現在は、噴水がある公園のような場所を見かけたので、そこにあったベンチに腰かけている。

日本だとかとは違い、異世界にはナンパと呼ばれるものが極端に少ない。

それをする意味がないから少ないのだとは思うのだが、どうしてなのかは、ミカは知らなかった。


先ほど、屋台で購入した鳥のような肉の串焼きを食べながら、ミカは噴水の水を眺める。

上品に食べる指導をジェイナに受けていたせいで、ミカは無意識に鳥串を上品に食べているのだが、なんとも言い難い光景である。


「...おじいちゃんに会いたい」


ミカの祖父、勝元剛毅は元気にしているだろうか、とふと思ったミカ。

一度そういうことを考え始めると、次々と出てきてしまう。


「みかんは、友達出来たかな...結局、友達はできなかったな...よくよく考えたら、あの日家の鍵を閉め忘れたかも...」


最後のほうはもはやどうでもいいようなことだが。


食べ終わった鳥串を魔法で燃やし、炭となった串は風に乗ってどこかに飛んでいく。

これが桜だったら見栄えもするというものだが、少女の手から黒い何かが飛んでいく姿は、これまたなんとも言い難い光景だった。










「お嬢様、こちらにいましたか」


「あらセフィア。もう宿は見つかったの?」


噴水で時間をつぶすこと数十分。ミカのもとにセフィアが戻ってきた。

こちらにいましたか、なんて言ってはいるが、本当はどこにいるかセフィアは大体見当がついていた。


セフィアは、ミカの言葉にうなずく。


「はい。今回お嬢様が泊まられる宿は、実際に見ていただいたほうが早いとは存じますが、一応ご説明させていただきます」


そしてセフィアは、宿の説明を始める。


今回泊まる宿は、3階建ての宿だそうだ。階ごとに部屋数は約30。全部で約90部屋ということになる。

その宿の従業員は全部で4人しかいないというのだから、なかなかに大変だろう。









「と、思ってたんだけどね」


カナとセリナと合流したミカは、宿に向かった。

しかし、宿の部屋数は聞いていた通りの数だったのだが、いかんせん客が少ない。

いや、むしろいない。


宿の中では、フロントに退屈そうに座っている男が1人。

今のところは、人はそれだけだ。


「くぁ...」


彼は本当に暇だったのだろう。

ミカたちが扉を開けて入ってきているのにも関わらず、こちらに気づいている様子はない。


ミカはそれを見て、しょうがないかと思っていると、後ろから不穏な空気を感じて振り返る。


「....」


「....」


「ふ、2人とも...?」


ミカが振り返った先には、青筋立てた(ように見える)カナと、見るからに不機嫌なセフィアがいた。

カナはともかく、セフィアがここまで感情を表に出すことは珍しい。


(セリナは大丈夫かな)


なんとなくセリナが心配になったミカは、2人の後ろを見たが、セリナはなんともなさそうな顔をしていた。

それを見たミカは、安心して息を吐く。


「申し訳ありません、お嬢様。まさか、このような宿だったとは。空いている宿がここしかなかったものですから」


「それは別にいいのよ。泊まれればどこも同じだし、1日ぐらい寝なくても変わらないわ」


寝られるなら、どこでも変わらないでしょ、とも付け加えるミカ。

それを聞いたセフィアは、ようやく、不機嫌そうな顔をやめ、普段通りに戻った。


「それでは、受付を済ませてしまいます」


「うん、よろしく」


そういいながら笑顔で手を振りセフィアを見送るミカの後ろには、いまだに怒っているカナがいた。











「部屋の中は案外普通なのね」


ミカたちの部屋は、3階の1番端。部屋の内装は、少し大きいベッドが2つあるくらいで、特筆すべきはそれぐらいだ。

他には、シャワーと洗面器ぐらいで、他とは変わらない。


ミカにとって少し意外だったのは、清潔感が保たれているというところだ。

いかに人がいないといっても、ほこりなんかは溜まるだろう。

しかし、それを4人で処理するとなると、かなり重労働だ。


(というか、可能なのかしら。この清潔具合からして、昨日やったばかり。毎日やってるのか、それともたまたま昨日したのか)


部屋の中をうろうろするミカを見ていたカナは、ミカの肩に手を置く。


「? カナ?」


「お嬢様、少し落ち着きになられてはどうでしょう。ちょうど、紅茶の準備もできたところです」


「ええ、わかったわ。そうね、少し落ち着きましょうか」


そして、ミカは椅子に座り、優雅に紅茶を飲む。


熱すぎず、冷たすぎず、人によっては中途半端だと思う人もいるかもしれないが、ミカはこの温かさで飲む紅茶が好きだった。

なにせ彼女は、勝元美香だった時、猫舌で、知覚過敏だったのである。


紅茶を置き、一息ついた彼女は、ゆっくりと口を開いた。


「温かいものを飲んだら、眠くなってきたわね」


「それでは、準備をいたします」


まだ、彼女の体は子どもである。


ベッドの準備を始めたセフィアとカナを見ながら、セリナの姿を探していたミカだったが、セリナの姿はどこにも見えなかった。

首をかしげながら、魔法という存在をすっかり忘れている彼女は、椅子から立ち上がって探し始める。

魔法を忘れている原因は、紅茶でリラックスしすぎたことのようだ。


まず最初に怪しいとミカが考えたのは、シャワー室だ。

単純に、ほかに身を隠せえるのはここしかないのである。


ミカは、シャワー室の扉に手をかけ、開けようとして思いとどまる。


(中で浴びてたら、失礼よね。そうよ、ゆっくり開けて、ばれないように)


そーっと開けた扉の先には、誰もいなかった。


(...そもそも、音で判断すればいいのに、私は馬鹿ね)


自己分析をしながら、シャワー室の扉を閉めるミカ。

しかし、ここにもいないとなると。


(部屋の外にいるってこと?)


だがしかし、この部屋に来るまでは一緒だったのだ。何も言わずにどこかに行くなんて考えらないミカだったが、そこで間違いに気が付く。


(...あれ、セリナ、この部屋に来た?)


そもそもの話、セリナはこの部屋に来ていないという可能性。

これならば、部屋のどこにもいない理由にもなる。だがしかし。


「セリナは...どこで道草食ってるのかしら」


ここで、危ない目にあっていないか、と心配するのが普通の反応なのだが、もはやセリナがいなくなるのは、日常茶飯事になりかけているのである。

このような反応になるのも、考えられなくはなかった。


しかし、そうなると面倒なことになった、とミカは思う。


「どうかなされましたか?」


顎に手を当てて唸っているミカに、セフィアが声をかける。

どうやら、ベッドメイキングなるものは終わったようだ。

後ろにいるカナは、ミカのシャワー道具と着替え類を持っている。


「ああ、大したことじゃないの。セリナの姿が見えないな、なんて」


「...言われてみれば、確かに姿が見えませんね。どこに行かれたのでしょう」


「きっと、フロントにでもいるんじゃないですか?」


「フロント?」


セフィアが不思議そうに言い、カナがフロントではないかと言う。

しかし、こちらに世界にフロントという言葉はないため、カナはセフィアに執拗に質問攻めにあうのだが、今のミカには関係ない。

そもそも、うっかり口を滑らすカナが悪いのである。


「...それじゃあ、私はとりあえず1階に降りてみるわ。部屋のことはよろしくね」


「かしこまりました。お部屋のことはお任せください。しかし、お嬢様なら、魔法を使えばすぐに見つけられるのでは?」


「あっ」


セフィアに指摘され、ようやく気付くミカであった。


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