78(EX)まさかの事件です!〈中編〉
あれ、当初はこんなに長引くはずじゃ…()
「ふーん…それ、ちょっと調べてみましょうか」
セフィアが部屋に戻り、ミカにこの辺りの子どもの情報を伝えると、ミカはそんなことを言い出した。
しかし、それには問題がある。
「ですがお嬢様、お嬢様はまだここから出られませんよ?」
そう、ミカ達は事件に関係するものとして、少しの間はここに留まらなければいけない。
それを聞いたミカは、わかっている、と言わんばかりな表情で頷いた。
「だけど、バレなきゃいいのよ」
と、そんな元も子もないことを言い出したミカに対して、カナが頷きながら賛成した。
「そうですね、確かに、バレなければ問題はありません」
「そうよね。だから、早速いくわよ」
「……」
そんな2人を交互に見たセフィアは、次に窓の外を見て、口を開いた。
「ですが、もう外は真っ暗ですよ?」
「よし、寝るわよ」
外が暗いと、一気にミカのやる気が無くなったのか、セフィアの言葉を聞いた瞬間にミカはベッドに倒れ込む。
それを見たセフィアは、夕飯の準備を進めるため部屋から出て、カナは寝巻きの準備を始めた。
ちなみに、セリナはミカの隣でぐっすりである。
「お嬢様、朝でございます」
「……調査にいくわよ」
翌朝。
セフィアに起こされたミカは、準備を整え、カナを引き連れ宿を後にした。
外は、まだ朝早いというのに人の数は多く、ミカは驚いた。
「意外といるのね、人」
「そうですね…。ここで休憩し、目的地へと向かう人が多いようです。なので、朝のうちにここを出る人が多く、そんな人達に売り込もうとする人も多いようです」
「なるほどね…。商売ってのは大変ね」
ミカは冒険者として、いざとなれば力を存分にふるいお金を得るつもりなので、こういった商売のような、お金を得るために必死になるというのに、あまり興味を示さなかった。
そして、カナから朝ごはんのサンドイッチを手渡され、ミカはそれを1口頬ばり、本来の目的へと移る。
「……それじゃ、探しましょうか」
「例の子ども達ですね」
「ええ。…ただ、そんな子ども達が表を歩いているような気がしないのよね」
そう言いながら、2人は裏道へと入っていく。
表通りが、横幅50mほどあるのに対し、この裏道は一気に狭くなり、2mしかない。
さらに、その脇に物が積んであったりするので、かなり狭い。
そんな道を歩きながら、2人は話を続ける。
「ですが、それだと衛兵が気にする程目につかないのでは?」
「あの人がたまたま、位の高い人だったかもしれないし、たまたま見た衛兵が報告したのかも…他にも考えられる理由はあるけど、今はどうでもいいわね」
そう言いながら、ミカとカナはどんどん奥へと進んでいく。
一方その頃、セフィア達は。
「すまない、昨日のことで話を聞きたいのだが」
ミカ達が泊まっているはずの部屋の前でノックをしながらそういう衛兵だが、実際には、中にはセフィアとセリナしかいない。
セフィアは、あらかじめ考えていた言い訳を言う。
「申し訳ありません。お嬢様の体調が優れないため、人の出入りを禁じています。御遠慮ください」
「え、あ、いや、ちょっと!?」
それ以降、衛兵の男が何かを言っても、ドアの向こうからは反応は無く、無理矢理開けようとしても、ドアはピクリともしなかったという。
「……あの子ね」
「どうやら、そのようです」
ミカとカナが裏道を歩いて約10分後。
目的の子ども達を見つけた2人は、できるだけ柔らかい雰囲気で近づいて行った。
「どうも〜」
「………」
最初の発言はカナに任せていたミカは、この時はカナを、まじか、という目で見つめた。
だが、子ども達は警戒することなく、こちらに会釈をした。
どうやら、ミカの心配は杞憂だったようだ。
そのまま2人は子ども達に近づいていく。
(数は10人前後…なんでこんなに狭いところに集まっているのかしら)
ミカが、その場の不思議な点について考えていると、カナがさらに突っ込んでいく。
「すみません、遅れちゃいました?」
(うぉぉぉい! 何をいきなり言っとんのじゃぁぁ)
どうやらカナは、この場で何かをしているのならば、警戒されていない今この時に限り聞き出せると踏んだようだ。
だが、何も知らされていないミカは、一見なんでもないような顔をしつつ、内心驚きに溢れていた。
「いや、時間としては問題ない」
と、子ども達の集団の1番奥にいた、頭に包帯を巻いている子どもがそう言った。
どうやら、カナの作戦は上手くいったようだ。
「ここで待機だ」
包帯小僧がそう言いながら示した部屋の中は、なんの装飾もない、ただ壁がある部屋だった。
外と繋がる場所は入ってきた扉のみ。窓もない。
(心が病みそうね)
ともあれ、今更変なことをしでかす訳にはいかない。
ミカとカナは、他の子ども達とできるだけ同じような行動をしながら、その場に座ってその時を待った。
と、そこで、隣から話しかけてくる者が現れた。
「あの、すごい服きてるけど…どこかのお嬢様なの?」
そう声をかけたのは、ボロっちい布を身にまとった栗色の髪の毛の女の子だ。
それを見たミカは、しまった、と頭を抱えた。
(見た目が雲泥の差じゃない! これじゃあ、私達は飛んで火に入る夏の虫状態…あれ、合ってるかしらこれ)
合っているかどうかはともかく、非常に不味いことは確かではある。
ミカがそう考えていると、カナが冷静に対応した。
「実は、こちらにいる方は親に売り飛ばされそうになりまして…私達はなんとかここまで逃げてきた、という訳です」
(カナ、ナイスよおおおおおお)
そうミカが心の中でグッジョブを送っていると、その少女は納得したように頷き、話を始めた。
「そっかぁ〜。それは大変だったね。実は、私も親に売られちゃって…そこを助けてもらったんだけど、その人にここを紹介されたの。
名前は、教えてもらえなかったんだけど」
「そうだったんですね」
そう少女がいい、カナが相槌を打つ。
その中で、ミカは考えていた。
(なんだか面倒事に巻き込まれてる気がするけど、今はそんなことはいいとして…結局、ここに集まっている子ども達って、売られたりした子どもが多いのかしら)
そして、突然扉が開かれる。
その奥には、先程の包帯小僧と、髪の毛で前髪が隠れている子どもがいた。
服は、先程の女子と同じような服だ。
(うっひゃあギャルゲの主人公…じゃなくて、私たちの服装って結構浮いてるわよね…)
簡単に言えば、うさぎ達の中にライオンが1匹佇んでいるぐらいには目立っているだろう。
だが、今更服装の変更など出来ない。それに、先程カナがでっちあげた嘘に信憑性を持たせる為にも、このままの方がいいかもしれない。
「ついてこい」
ギャルゲーの主人公がそう言い、子ども達がそれについて行こうと立ち上がったので、2人も送れず立ち上がり、ついて行く。
そして、行き着いた先は。
「……うーん、と。これは…?」
「見るのは初めてか? これが、俺達が信仰している神、ダリア様だ」
そう、包帯小僧が説明するが、ミカの頭には、ほとんど入ってこなかった。
ミカ達が行き着いた部屋の中では、数十人、いや、数百人の子どもが全員跪き、祈りを捧げていた。
その祈りは、子ども達が向かっている方向にある、1つの像に向けられていた。
(……あの像、どう見ても邪悪な感じがするんだけど)
その像は、色は白で出来ているものの、顔は右半分真っ平らで、残り半分は何かを恨んでいるかのような顔をしている。
右手には死神のような鎌。左手には本。
背中には羽が生えているが、その羽はコウモリを彷彿とさせるものだ。
(こ、これは…圧倒的魔族感!)
正しくは悪魔、なのだが、ミカにとってはあまり変わらないだろう。
とにかく、そんな異質な存在を信仰している子ども達はおかしい、ということは、流石のミカでもわかる。
(ただ、どうして信仰しているのか、その結果何かが起きるのか。ここを出るのは、それを調べてからでも…)
というわけで、ミカとカナも周りに倣い、跪き、顔の前で手を組み、祈りを捧げる…ふりをする。
しかし、その場に呑まれたのか、カナも本気で祈り始めたようだ。
「ちょっ、カナ、何祈ってんの…?」
「………」
だが、ミカがそう問いかけても、カナは祈るのを止めない。
それを不審に思ったミカは、カナの肩を軽く揺さぶるが、返事はない。
(あ、あれー?)
その後、いくら強く揺すっても反応はないので、仕方が無いと、ミカは、さっさと目的を聞き出したら、『テレポート』でここから出てしまおうと考える。
その場から立ち上がり、先程の包帯小僧が入口で佇んでいたので、話しかけるミカ。
「あの…」
「ん、どうした?」
ミカが恐る恐る話しかけると、思いのほかフレンドリー、というか優しく反応を返してくれたので、ミカは半分落胆した。
(こんなあぶねーことやってるのに、そんな今日あったばっかりの私にそんな気を許すのかぁ…子どもってことかしら)
包帯小僧がそこまで油断、もとい気を許しているのは、外から見れば紛れもなくミカも子どもだからである。
「えっと、私が祈っている内容がおかしくないか確かめたいので、他の方などがどんな感じのことを祈っているかをお聞きしたいのですが…」
そして、ミカはそれっぽいことを言いながら、内心汗ダラダラで聞く。
(土壇場で言い感じの言い訳思いついてよかったー!)
そんなミカの様子を知らずに、包帯小僧はミカに親切にも教えてくれる。
「ああ、失礼があったら大変だもんな。
まあ、基本的には恨んでるやつを殺してくれって感じだな」
(ああ、やっぱりそんな…あれ、何かが引っかかるな…)
ミカが頭の中でうんうんと唸っていると、包帯小僧は確信的なことを言う。
「実例でいえば、ここ最近の宿で死んでいる事件は、ここでの祈りが原因だ。ちゃんと実績もあるから、安心して祈るといい」
「あ、ははっ、はい、ありがとうございました…」
それを聞いたミカは、心の中で盛大に叫んだ。
(犯人ここにいたー!)