77(EX)まさかの事件です!〈前編〉
はい、まさかの前編です。
私としても予想外です…が、すぐに終わらせて、本編に戻りたいと思っています。
ミカ達が宿で、『今日はお休みにしましょう』と決めた日、事件は起きた。
「イヤァァァァァーーー!」
「!?」
ミカは部屋で、セフィアとカナとの話を楽しんでいたのだが、部屋の外から女性の叫び声が響いた。
その音で、先程まで眠っていたセリナも飛び起き、4人は急いで部屋を出て、声のした場所がどこなのかを探した。
「お嬢様、どうやらこの部屋のようです」
「よし、入るわよ!」
カナが指し示した部屋の前には、口に手を当てて、目を見開いて固まっている女性がいた。
恐らく、先程の声はこの女性があげたのであろう。
ミカは、女性の対処を2人に任せ、セリナは一旦部屋の前で待機させ、1人で中に入る。
「……」
ミカの視線の先には、1人の男性。
ただし、その男性は首元から血を流し、仰向けで倒れているが。
「だ、だいじょう…ぶ…ではない、わね。もう手遅れか…」
ミカが、横に向いている顔を見ると、目が開いており、瞳孔も開いていた。
一応、脈を確認したが、死んでいるようだ。
「……まさか、こっちの世界に来て殺人事件…それも、名探偵コナソみたいな展開に出会うとは…」
名探偵コナソ。
探偵の主人公が、『親父にハワイで』と言いながら数々の迷宮事件を解決するアニメだ。
(あのアニメって意外とホモな展開が…って、今はそんなこととうでもいいわね)
ミカは、部屋の前で待機していたセリナを中に入れ、意見を聞く。
「どう、セリナ」
「……傷跡は、鋭利な物で傷つけられた可能性が高い。けど、血が飛び散らずにただ垂れている…よくわからない」
いつもこれぐらい喋ったらいいのに、とミカは思いつつ、顎に手を当て考え出す。
頭の中では、コナソの曲ではなく、何故かルパソのメインテーマが流れていた。
ルパソ7世。大怪盗で猿顔の主人公が、悪事を働いている奴から宝物を盗み出し、懲らしめると言ったアニメだ。
ちなみに、コナソとルパソは、対決映画と称して、協力していたこともあり、ミカはそれを繰り返しみていたので、自然と繋がったようだ。
「まぁ、とにかく、私たちには出来ることはあまり無さそうね」
「お嬢様、衛兵が到着しました」
そこで、カナが部屋の前でミカに告げる。
ちょうどいいタイミングだ、と、ミカは衛兵に丸投げすることに決めた。
カナの言葉に頷いたミカは、部屋の外に出て、衛兵が来るのを待ち、来た衛兵にミカが知っていることを全て伝えた。
「またか…これで何件目だってな…」
「また? それは、一体どういうことなのですか?」
ミカが衛兵の言葉に首を傾げると、衛兵は気にした様子もなく喋り出した。
守秘義務というのはないのだろうか。
「実は、ここ最近で、宿での殺人事件が多発しているんだ。それらの犯人は未だ捕まっていないが…同一犯なのでは、といった見解が広がっている」
「そうですね…確かに、そういった考えが広まるのは当然かと思います。ですが、誰も見ていないのですか?」
「ああ…犯人の姿は誰も見たことがないらしい。とはいえ、今回の件と同じような手段で殺されているようだから、持っている獲物を絞り込んではいるんだが…」
「……それは難しい話ですよね」
ミカの言葉に、衛兵は難しい顔をして頷く。
とはいえ、これ以上はミカも関わる気は無い。
衛兵がうーん、と唸りだしたのを見て、ミカはメイド2人に視線で合図をし、部屋を出ていく。
「それでは衛兵さん、あとは任せました」
「ああ、任され…って、どこに行くつもりだ?」
セリナを連れ、部屋の扉を締め切ろうとした瞬間、衛兵に扉を掴まれた。
衛兵も当たり前だが、鍛えているので、いくらミカが力を入れても、扉は閉まる様子はない。
とはいえ、ここでミカが容赦無しの強化魔法を施せば、衛兵の指はぐちゃぐちゃになっていたことは間違いないだろう。
ミカは諦めたようにため息を1つし、ドアから手を離す。
「まだ私たちに何か?」
「何って、君たちは重要な参考人なんだ。ここにいてもらわないと困る。何、少しだけだ」
衛兵がそう言うと、ミカは少し考える素振りを見せ、首を縦に振った。
「わかりました。では、私達は、私達が泊まっている部屋にいますので、用がありましたらそちらへ」
「ああ、わかった。……ああ、すまない、そこの方」
ミカはそう言うと、部屋から出ていき、元の部屋へと戻ろうたしたのだが、衛兵は何故か、セフィアを呼び止めた。
呼び止められたのが自分だとわかったセフィアは、カナに先に戻っているように指示を出し、その場に1人残る。
「なんでしょう?」
セフィアが、ミカ達が部屋に入ったことを見届けると、改めて衛兵の方を向く。
「ああ、大した話じゃないんだが…おたくのお嬢さん、なんかすごい、大人びてないか…?」
「なるほど…そのことですか。確かに、お嬢様は他の同年代の子と比べ、頭は良く、そしてキレます。ですが、子ども相応の弱さを見せる時もありますので、心配することはないかと」
セフィアがそこまで言うと、衛兵は安心したように息を吐き、頭に付けていた兜を取った。
兜の中に閉まっていたのであろう、金髪の長い髪が落ち、爽やかフェイスでセフィアに男は言った。
「それはよかった。最近は妙に人生を達観しているような…諦めているような子どもが多いとの報告を受けていましたから…」
「そうなのですか?」
「ええ。お引き留めしてすみません、もう大丈夫です」
男は、それだけ言うと、再び死体の調査に戻った。
セフィアとしては、先程の話を聞きたかったのだが、今はこれ以上は聞き出せないようだ。
そのことを理解したセフィアは、とにかく、聞いたことだけでも伝えることを優先し、部屋へと戻って行った。