72 こっちからです!
ミカの父、アーリアは、ミカが過ごしていた学院のすぐ近く。
この世界を1つにまとめている国の騎士団の指導を行っていた。
理由は、騎士団の面々にミカを見つけ次第、すぐに連絡が来るようにするためだ。
世界に人員を派遣している騎士団であれば、ネットワークも広い。
とはいえ、ミカが学院から出る確証は無かったが、十中八九、学院から出るとアーリアは確信していた。
なぜなら。
「あいつの才能は、あんな学院じゃ収まらん…せめて、中等ぐらいは卒業して欲しかったが、まあ仕方ないか」
アーリアは、そんなことを呟きながら、木剣を振っている騎士団候補生を見る。
風通しのいい施設の中で、数十人いる男達が、ただひたすら、アーリアが言ったメニューをこなしている。
ただ、この男達を見て、アーリアはこう思わずにはいられなかった。
「花がねぇか」
そう言いながら、アーリアは外を見る。
つい先日、アーリアはミカの捜索願いを出した。
初等学院から出ていくのは想定内だ。
だが、そこからジェイナが許可を出し、冒険者になるのは予想外だった。
アーリアがミカを鍛えたとはいえ、1年も鍛えていない。
冒険者としての心構えというものも教えなければいけない。
色々なことを知らないであろうミカを、そのまま冒険者として進ませるには、いささか年齢も低すぎるというのもあるが、アーリアはとにかくミカが心配だった。
例え、ミカがアーリアに会うのを面倒に思っていても、だ。
それに加え。
「あいつが妙なことを言っていたし…」
妙なこと、とは、最近騎士団に入団した、戦闘は専門ではない人物のことなのだが…その人物は、いつもフラフラと歩いているので、こちらから用事があって会いに行く時は大変だ。
「アーリア団長!」
「ん?」
アーリアが椅子に座っていると、騎士団の1人が、アーリアに声をかけた。
アーリアが団長なのは、実力半分、マスコット半分だが、その点に関しては、アーリアも分かっていて、団長に就いている。
その騎士団の1人の男は、どこか焦った様子で言う。
「団長の探していた人物が、お見えになられました」
「なに、本当か」
それを聞いて、アーリアは椅子から腰を浮かす。
しかし、男の顔はどこか言いづらそうだ。
「…? 何か言いたいなら遠慮せずに言うといい」
アーリアがそう言うと、男は決心したように言う。
「…それが、その人物は、武装して、やってきたのです…」
「……なに?」
男から発せられた言葉を、さすがのアーリアでも、理解出来ずに、困惑しかできなかった。
アーリアは、椅子から立ち上がると同時に、男に指示を出す。
「おい。今から準備をする。ミカの時間稼ぎと、アキラを呼べ」
フラフラと歩いている人物、アキラを男に呼ばせ、アーリアは武装準備をし始めた。
時は遡り、宿から出発する日に戻る。
ミカ達は、準備を終え、学院方向へ戻る馬車を手配した所だったが、ふと、ミカがこんな事を言い出した。
「…どうせなら、私の力を分からせようかしら」
「お嬢様?」
セフィアが聞き、カナは不思議そうに首を傾げ、セリナは眠たそうに目を細めている。
ミカは、後頭部に手を当て、言う。
「多分だけれど、お父様は「危ない」と考えているのよ。だったら、私の力を分からせた方がいいかと思って」
「……それは、どうなのでしょうか」
ミカの提案に、カナが小さな声でそう呟くが、ミカには届かない。
「それはいい案でございますね」
「えっ」
しかし、もう1人のメイド、セフィアが同意するので、カナは思わず声を漏らす。
セリナは、相変わらず眠そうにしているところから、話を聞いていないのだろう。
馬車が到着し、カナが先に乗り込み、ミカが座る場所を整え、セフィアがミカの乗車を手伝う。
そして、2人に支えられながら座り、残りの3人も座って馬車が走り出したところで、再び話し出す。
「話し合いよりも、きっと実力行使の方が簡単で手っ取り早いわ。だから、ちょちょいっとねじ伏せて、さっさと行くわよ」
「承知しました」
「だ、大丈夫なんですか…?」
ミカの案に、セフィアは頷くが、カナはやはり不安なようだった。
そんなカナを安心させようと、ミカはカナの頭を撫でながら言う。
「大丈夫、私に任せておきなさい」
「……わかりました、お嬢様」
ミカの一言で、カナも覚悟を決めたのか、笑顔で頷いた。
セリナは、眠たそう、ではなく、寝ていた。
そして、騎士団の本部の目の前で、ミカはこう言い放った。
「私のお父様が探していると聞きました。これで意味が分かるはずなので、お父様を出してください!」
ミカは、剣を向けながら言い放ってはいるが、見た目はまだ子どもなので、入口にいる団員も本気にはしていない。
ミカが本気を出せば、入口にいる団員など瞬殺できることも、知らないようだが。
しばらくすると、奥から武装したアーリアが出てきた。
「……ミカ、お前は自分で何をやっているのか分かっているのか?」
「どうせ子どものやっている事だと思われているから平気です。この意味が分かるのはお父様だけだと思っていますから」
ミカは、アーリアからされるであろうと予想していた通りに答える。
ミカの口からすらすらと出てきた返答に違和感を覚えながら、アーリアは一旦ミカ達を中に入れることを決める。
「まあ、とにかく中に入れ。そこにいられたんじゃあ、他の人に迷惑がかかってしまう」
アーリアに言われるまま、4人は中に入る。
騎士団の本部の中は、色んな要人が着たりするのだろう。
4人が案内された客間は豪華なものだった。
とはいえ、今日の目的は話し合いに来た訳では無い。
(さっさと叩きのめして、私を探さなきゃ)
ミカの頭の中はこれだけである。
そんなミカの考えなど知らないアーリアは、4人分の紅茶を部下に運ばせる。
「まあまずは座れ。して、ミカ。あれはどういう意味だ?」
ミカとセリナが座ったことを確認し、アーリアも座り、真面目な顔てミカに問う。
その顔は、普段共に過ごしていたアーリアからは想像も出来ないような、まさに武神とでも言うような雰囲気だったが、ミカはそれに怖気づかず言う。
「『そのままの意味』です、お父様」
さすがにこの雰囲気で寝てなどいられないのか、セリナが珍しく起きている中、アーリアが立ち上がる。
「であれば、その意志を確かめる。ついてこい」
アーリアのあとをついてきてたどり着いたのは、一般的な訓練場だった。
初等学院の訓練場は外だったので、ミカにとっては新鮮だ。
(いや、セリナも同じね。現にキョロキョロしてるし)
とはいえ、アーリアがどうしてここに連れてきたのかわかっているミカは、3人を後ろに下がらせる。
その際、カナが不安そうな顔をしていたが、ミカは笑顔で手を振って、アーリアの方を見る。
「……」
見れば、アーリアは既に戦闘態勢に入っており、剣を鞘から抜いていた。
それを見たミカは、『コンバート』させていた剣を取り出し、構える。
「加減はせんぞ」
「……間違って当てちゃうかもしれませんけど、死なないでくださいね」
アーリアとミカが一言ずつ言ったところで、お互いに駆け出した。