7 衝撃的でもない告白です!
明日も3本上げます!
「ミカ、正直に言ってね。何をしたの?」
「...な、何も?」
地面とキスを果たしたミカは、急いで家へと向かったのだが、当然のことながら5歳の足では時間がかかり、夕飯の時間をわずかに過ぎてしまった。
しかも、帰ってきたタイミングでジェイナとはち合わせたミカは、当然のごとく理由を問いただされていた。
幸い、まだ自然に一筋の爪痕があることをまだ知らないジェイナたちなので、ミカは適当にしらばっくれて誤魔化そうと考えていた。
「何も無くてそんなに服が泥だらけになるわけないでしょ? この付近で泥がある場所なんて...」
「お、お母様、そんなことより、夕飯にしましょ? 私お腹が減っちゃった!」
「...それもそうね」
ジェイナが場所を絞ろうとしたので、ミカは慌ててそれを妨げ、夕飯を催促する。
ジェイナは特に反論は無く、そのまま夕飯を食卓へと運び始めた。
ミカは、一度着替えるために部屋に戻る。
折角ジェイナと同じような純白のワンピースだったのに、汚してしまって、ミカは申し訳なさそうな顔をしながら着替えた。
着替えが終わったミカは食卓へとやってきて、家族でそろってご飯を食べ始めた。
ふとそこで、ミカは疑問に思った。
(以前の記憶で、お父様が記憶にあまりなかったのだけれど、どうしてなのだろう?)
今はこうして、ミカとジェイナと共にご飯を食べている。
しかし、過去の記憶を遡っても、憶えている中でミカがアーリアの姿を見たのは数回限りで、食卓を囲んだことなど無い。
夜中に目が覚めたときに、2人でベッドの上で何かをしていたのは知っているが。
(というか、あの時は何をしているのかわからなかったけど、今はわかっちゃうのよね...)
そして、ミカは特に恥ずかしがらずに2人に言う。
「お父様、お母様。私、妹が欲しいな」
「!?」
「!?」
突然、何の脈絡もなく始まった妹が欲しい宣言は、2人を動揺させるのに十分だった。
ミカが食事に夢中になっている間に、目線で会話する2人。
『ばれたのか?』
『ミカが寝ている時にしていたはずなんですが...』
『...ま、まあいいさ。ミカが望んでいるのなら、頻度を増やそう』
『それだと私の体が持ちません』
ミカは、そんな2人の様子に気づくことなく、ご飯を食べ進めていた。
ミカがお腹いっぱいになり、少し机の上で休憩していた時、アーリアが口を開く。
「ミカ、俺が今日の昼にいったことを覚えているか?」
「確か、話がある、だったっけ?」
「そうだ」
そう言い、アーリアは真剣な顔で話を始める。
「話を始めるが、あまり衝撃を受けないように聞いてほしい。...ミカは、幼い割には大人な対応をしたりするから、大丈夫だとは思うが」
(あ、あれ、どこか不自然なところがあっただろうか)
アーリアが言った内容は、前半はほとんど聞かずに、後半の無いようにミカは集中してしまった。
ミカは、母親はともかく、父親には甘えられずに育った経験があるのだ。その分、幼いことを利用して最大限に甘えたつもりだったが、まだ足りなかったようだとミカは思った。
それは見当違いなのだが、そんな勘違いを置いて、話は進んでいく。
「ミカ、お前は、貴族なんだよ」
「...貴族?」
(貴族というと、あれだろうか。『~ですわ』とか言ったりする金髪縦ロールのことだろうか)
実際にそんな貴族は逆に少ない方なのだが、ミカの貴族と言えばの印象はこうであった。
そこばかりは、日本の小説の中の異世界と現実の中の異世界では違うようだった。
アーリアは、話を続けていく。
「それもかなり有力な貴族でな? 俺たちは、そこでのいざこざに巻き込まれるのが面倒だったから、ここで暮らしている。お前が本当に幼いころにあまり会えなかったのは、そう言ったことなんだ」
「なるほど」
つまり、アーリアは、昔ミカと会えなかったのは貴族であるからで、その後始末をつけていたということになる。
ミカは、特に疑いもせずに納得している。
「一応、国王にも許可を得ている」
「...そ、そうなんだ」
突然出てきた『国王』という単語に驚くミカ。
いくら有力な貴族でも、国王がそんなに簡単に出てくるものなのだろかとミカは疑っているのだ。
アーリアは、そんなミカの様子を見て、慌てて付け足す。
「ああ、なんで国王が出てくるかってのは...まあ、俺がこの国で一番の武術の達人だって言われているからなんだが」
「....」
さりげな自慢を出してきたアーリアだが、それに対して頬を赤らめているのはなぜかジェイナである。
2人の過去に何があったのかを知らないミカは、そんな2人の様子を見て困惑するばかりである。
今度は、ジェイナが話を続ける。
「昔の話は、そのうちすることにしましょう。...ミカに私達を『お母様』『お父様』と呼ばせているのは、そう言った理由なのよ」
「なるほど」
(確かに、いざというときに私が明るみに出たときに、親を変な呼び方していたら恥ずかしいもんね)
ミカは、そう納得すると、疑問が出てきたので、質問することにした。
「そこまではわかったんだけど、どうしてこんなところに住んでるの?」
ミカ達が住んでいる家は大きいとは言えないし、周りもただの草原が広がるだけだ。
外で遊ぶには事欠かないが、これだけ何も無い場所に来るだけの理由があるのだろうか。
「確かに、その疑問はもっともね。でも、あんまり近いと、お父さんが国に呼ばれちゃう可能性があるのよ」
「あ、そっか」
中途半端に離れていても、緊急の時に駆けつけられないわけではないとみなされてしまう。
それを危惧したアーリアとジェイナは、とことんまで離れてやろうということにしたのだという。
「まあ、静かに暮らしたかったんだよ」
「だから、ここに住んでいるの。...ごめんなさいね」
「どうして謝るの?」
説明をし終えたジェイナは、ミカに謝った。
その意味がいまいち理解できなく、ミカはつい聞いてしまう。
聞かれたジェイナは、少し申し訳なさそうに、ミカに答える。
「あなたに友達を作ってあげることができなかったから...」
「なんだ、そんなこと」
「そんなことって...」
ジェイナがそう言い、ミカがそんなことと言い捨てる。
その言葉を聞いたアーリアは、人脈というものの大事さを教えようとするが、次にミカが言った言葉に対して、言い返せなくなってしまう。
「私、お母様とお父様と一緒に暮らせて幸せだもの」
これは、ミカの本心だ。
日本での生活があったからこそ、普通の、家庭の愛情というもののありがたさを実感できている。
そんな愛情を与えてくれた2人には、感謝こそすれ恨みを言う理由は無い。
そんな言葉を聞いたアーリアは静かに泣き、ジェイナはミカを愛おしそうに抱きしめるのだった。
「それで、どうしてこの話を今?」
「ああ、適性審査があるだろう? その時に、ヴァルナ家だということが知られるからな。その時に貴族だということを理解させるには少しおかしいかと思ってな」
「それは確かに」
その時に貴族だと知られても、相手も驚きだろうが、こちらも驚きだ。
(とはいえ、貴族で、国で一番の武術の使い手なら、なんとなく説明がつくものがあるかも)
あの異常な数の魔法の本や、何でできているのかわからない剣も、きっとそれが関係しているのだろう。ミカはそう結論付けた。
椅子から立ち上がったミカは、「ごちそうさま」といい、そのまま部屋に戻ろうとすると、ジェイナに待ったをかけられた。
例によってジェイナに呼びとめられることが嬉しいミカは、笑顔で振り向く。
しかし。
「ミカ、どうして草原があんな状態になっているのか、説明できる?」
そう笑顔で言われたミカは、大人しく椅子にすわりなおし、弁明を始めた。