68 完了です!
「さあ、お嬢様を離さないと言うのであれば、あなたは体とバイバイすることになりますよ」
ミカが女性に抱きしめられている中、カナが物騒な事を言う。
ミカは慌てて止めようとするが、その前に女性に強く抱きしめられてしまい、言葉も発せられなくなってしまう。
「ふふ、離さないわよ!」
(ぬおぉ〜…く、くるしぃ)
ミカが呼吸をするだけでやっとな状況になっている中、セフィアが落ち着いた声色で女性に問いかける。
「まずは、そちらのお名前をお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「ノーとは言わせませんよ」
セフィアは落ち着いているのに対し、カナは今にも女性に襲い掛かりそうだ。
それに対して、同じように落ち着いて女性は答える。
「私の名前はナカジマ。それだけです」
(えっ!?)
ミカがギョッとして、何とか顔を上に向け女性、ナカジマの顔を覗き込む。
(言われてみれば、確かにこっちの人と比べて平らな顔をしているような…というか、野球しようぜーとか言いそうな名前ね)
ミカが顔の分析をしていると、カナがいよいよ刺すんじゃないかという殺気を出し始める。
(これは、私が抜け出さないと危ないかしら)
ミカはそう判断すると、自身に『筋力上昇』を付与し、ナカジマのホールドからあっさりと抜け出す。
「あ、あら?」
「とりあえず…理由を聞かせていただけますか?」
ミカが脱出した瞬間、カナが引き寄せ、セフィアがミカとナカジマの間に出てそう言う。
ミカを抱き寄せているカナからは未だに殺気が放たれているが、先ほどよりはマシだろう。
(というか、メイドってこんな感じだっけ?)
ミカがカナを安心させようと、カナの頭を撫でている中、セフィアとセリナがナカジマに詰め寄る。
「ミカに何しようとしたの」
「お嬢様に手を出したこと、後悔しますよ」
「ほほほほ、ほんの出来心だったんですぅぅぅ!?」
セフィアとセリナの剣幕に、ナカジマは恐怖を感じたようで、すぐに自白した。
彼女曰く、ミカのような銀髪青眼は珍しく、また可愛らしい容姿をしていたため、抱きしめたい衝動が止められなかったのだという。
それを聞き流しつつ、ミカは自分の周りにいる人が自分に対して過保護になっているような気がしてならなかった。
「それでは、お嬢様に攻撃するような気はなかったと」
「そうなんです!」
「ここに呼ぶ必要、無くない?」
「その通りなんですけど、丁度いいかなって利用させてもらいましたぁ!」
セフィアとセリナが交互に尋問する中、ナカジマは常に土下座で答えていた。
(土下座とかこっちにもあるんだ)
「それは何のポーズですか」
カナが少し苛立ちを孕ませた声で聞くと、ナカジマはビクッと震えて答える。
「こ、これは、土下座と言って、最上級の謝罪のポーズ…みたいな感じだったと思います」
最後の方は小さくてよく聞こえなかったが、何のポーズなのかは伝わった。
しかし、それが理解されるかと聞かれれば別だ。
理解できなかったカナはさらに不機嫌になり、ミカを抱きしめてストレス発散をし、セリナは「?」と首をかしげ、セフィアは表情を1つも動かさずに真顔で見ていた。
「それでは、そのままの姿勢で良いので聞いてください」
セフィアが淡々と喋り、ナカジマはそのままの姿勢でコクコクと頷いた。
(こんな光景を見ることになるとは…しかも異世界で)
続けて、セフィアが言う。
「まず、水晶玉に手をかざす行為ですが、あれは必要ないですよね?」
セフィアの言葉に、コクコクと頷くナカジマ。
「そして、私たちを追い出した後、あなたの欲望を叶えるつもりだったと」
「仰る通りでございます…」
「ちなみに、その欲望について詳しく聞いても?」
「抱きしめて服を脱がしてぺろぺろ」
「わーっ!」
セフィアに聞かれるまま喋るナカジマに対して、何故かミカが止めに入るという事態が起きてしまった。
(本来なら私のメイドである2人が止めるべきじゃないの!? セフィアに至っては逆に聞き出しちゃってるし!)
「では、私達は登録を済ませますので」
「はい…」
「金輪際関わらないでください」
「いや、それは無理かと…はい、善処します」
セフィアがそう言い、ナカジマが口答えした瞬間、カナが睨んだので、ナカジマにはそれ以上何も言えなくなってしまった。
「それでは、行きましょうかお嬢様」
「え、ええ」
カナに睨まれて怯えてしまったナカジマを少しだけ不憫に思ったミカだったが、すぐに気を取り直して、セリナと手を繋ぎ、カナに背中を押されて部屋を出ていく。
部屋に残されたセフィアは、ナカジマを一瞥して、ミカ達を追って部屋を出た。
1人残されたナカジマは、震えていた。
「……怖かったよお」
カナの目は、ナカジマに小さなトラウマを植え付けたようだった。
「それでは、こちらにお名前をお書き下さい」
受付の人に渡された紙に名前を書き、提出した4人は、無事、登録を完了していた。
「登録ありがとうございます。こちらは無くさないでくださいね。再発行はお金がかかかりますから」
そう言う受付の人が手渡したのは、ミカ達それぞれ1枚ずつあるカード。
ミカのカードには、しっかりとミカの名前が書いてあり、それは全員が同じであった。
ただ、セフィアは『セフィア』と。
カナは『カナ』とだけしか書いていないのは、ミカとしては若干不服だったが。
(メイドってことは、家族みたいなものじゃない。だったら、ヴァルナって書いてあってもおかしくないのに…)
ちなみに、冒険者登録をするのが簡単なのは、偽名、もしくは新しくやり直したい人が多いためだ。
国とは管理がまた別のようで、同じ名前だとやりづらい人が昔は多かったのだと言う。
犯罪者が新しい前で登録できないように、受付にはそれ専用の道具を扱える人が配置されているらしいが、定かではない。
そんなこんなで、ミカ達は、黒のカードを受けとっており、4人1組のパーティーとして成立していた。
パーティー名は決まっていないので、今はリーダーであるミカ・ヴァルナの名前をそのまま使っている。
現在ミカ達は、受けられる依頼を探している最中なのだが、何どう見たらいいのか分からないミカとセリナは早々に戦力外通告を自分達で出し、ソファに座っている。
依頼が書かれた紙を張り出されているボードを見ている2人。
そんな2人を見ている、ミカ。
見ているミカに抱きつく、セリナ。
「……ねえセリナ、近くない?」
「普通。友達でしょ?」
「……」
何やら揉めているようなセフィアとカナを眺めながら、ミカはセリナの距離感について指摘するが、セリナに改善する気は見られない。
以前ミカが教えた、友達とは常に一緒にいる、というのが、セリナの中で確定してしまったようで、適当に答えた過去の自分を殴りたいと思うミカだった。
ミカはそれ以上言うのはめんどくさくなり、セリナに身を委ねる。
とはいえ、ナカジマのように圧迫感はなく、セリナはただ抱きつくだけだ。
例えるなら、そう。コアラ。
(あれ、それだと私は木?)
「お嬢様、選び終わりました」
ミカがそんなアホなことを考えていると、カナが戻ってきていた。
ミカは気合いを新たに入れ直し、セリナと一緒に立ち上がる。
「よし、それじゃあ行きましょうか」
「ん」
ミカ達がパーティーを結成して初めて受ける依頼だ。
ミカは、わくわくしながら、セフィアが手に持っていた依頼の紙を見た_____。