66 移動です!
「……まさに、快晴」
「そうですね、お嬢様」
ミカがリビングでそう呟くと、セフィアがそれに頷いて言う。
結局セリナはミカにくっついたまま寝たので、朝になって起きてみたら、ミカの腕は痺れていた。
「ところで、カナは?」
「カナであれば、まだ部屋で寝ております。もうすぐ起きてくるはずですが、起こしますか?」
「あ、いや、いいわ」
(寝たいなら寝る。日本じゃそうもいかないけど、ここなら誰も怒る人はいないわ)
本来ならば、ミカが怒らなければいけない立場なのだが、その本人はこんな感じなので、カナはそれから1時間後の8時まで起きてこなかった。
「す、すみません、お嬢様!」
部屋から出てきたカナは、既にメイド服に着替えており、いつでも出られる格好だった。
それを見たミカは、軽く伸びをし、2人を見て言う。
「それじゃ、出発しましょうか」
「ですがお嬢様、セリナ様がまだ寝ていらっしゃいますが」
「起こしてきなさい」
セリナには容赦がないミカだった。
「痛い」
「あなたが暴れるから…」
結局、カナが起こしに行っても起きず、ミカが起こそうとすると、腕を掴まれてベッドに引き込まれそうになった。
冬の寒い時期に布団から出ようとした時の、布団の誘惑をもっと激しくしたような感覚に襲われたミカは、ついセリナにゲンコツをかましたのだった。
「それより、早く行くわよ」
「急いでる?」
「急いでるって訳じゃないけど…お母様が帰ってくる前に行きたいじゃない」
セリナはカナに服を着せられながら、ミカは身だしなみをセフィアに整えられながら会話をする。
ちなみに、ジェイナだが、朝の時間帯は用事でいない。
周辺の森で用事を済ませているらしいが、ミカにはなんのことやらさっぱりだ。
(セフィアは私のメイドで、カナはセリナのメイドみたいね)
ミカが2人を見ながらそう考えていると、セリナの支度を終えたカナがミカのすぐ側で待機する。
「私は、お嬢様のメイドですから」
そして、少し頬を膨らまして言った。
(かわいいかよ…ああ、そうか。私の考えていることが分かるんだったわね)
ともあれ、これで準備は全員終わった。
ミカがそれを確認して、セフィアに聞く。
「セフィア、組合はどこにあるかわかる?」
「申し訳ありません。勉強不足でして…」
「そう…セフィアでも知らないことがあったのね」
ミカがそう言うと、セフィアは本当に残念そうな顔をした。
そして、カナが手を挙げて言う。
「はい! 私は知ってますよ、お嬢様!」
「なら、カナにお願いするわね」
ミカがそう言うと、カナは嬉しそうに顔を綻ばせ、頷いた。
「はい、お任せくださいませ!」
「……暇」
「そういうこと言わない」
ミカが場所を知らなければ、『テレポート』は不可能。
なので、4人は馬車で移動している。
お互いが向き合うように座っており、進行方向に向いているのがミカとセフィア。
ミカの正面に座っているのがセリナで、その隣がカナだ。
しかし、思ったよりも距離が長いことと、景色が全く変わらないことから、セリナが飽き始めていた。
(というか、馬車にかかったお金とか全く分からないんだけど)
お金に関しては全てセフィアが行っているため、ミカはこの世界のお金の単位もよく把握していない。
(セフィアがいるんだし、別に知る必要は無いけど)
本人はこんな感じなので、セフィアが死んだりしない限り知ることは無いだろう。
暇そうにじたばたしだしたセリナの足を抑えながら、ミカはセフィアに聞く。
「何か暇つぶしみたいなのはないかしら?」
「そうですね…馬車の隣を走る、というのはどうでしょう」
「殺す気?」
セフィアが提案した直後に、セリナがジト目でセフィアにツッコミをする。
(中々切れ味のいいツッコミ…いや、そうじゃなくて、なんでそんな思考に至ったのかしら、セフィアは)
セリナに鋭いツッコミをされたセフィアはそれきり黙ってしまい、代わりにカナが考える。
「うーん…ですが、場所も場所ですし、遊びは無いかもしれませんね」
と、カナは残念そうにミカに言い、セリナもまた、見てわかるほどにガックリする。
とそこで、ミカはカナの言い方に引っ掛かりを覚える。
「遊びは、ってことは、他の方法はあるの?」
「はい、もちろんです。ですが、これは修行の一環として用いられるものですので、移動が終わった時が中途半端だった場合、それなりにしかなりませんが…」
「いーのいーの、セリナの暇つぶしになれば。それで、どうやってやるの?」
「それでは、少し座席の移動を致しましょう」
そして、ミカとカナの場所を変え、セリナの正面にカナが来る状態になった。
カナがセリナに話しかけ始めたので、ミカはセフィアと一緒に外を見る。
「本当に、いい天気ね」
「はい、お嬢様」
そしてミカは、席を移動してからだんだん膨らんできている気持ちを、抑えきれなくなっていた。
「……」
「お嬢様? ご気分が優れないのでしたら、一度馬車を止めて…」
「いえ、大丈夫よ…」
ミカが大丈夫だと言うので、セフィアにはそれ以上強くは言えないが、その数分後。
「………」
「…一度止めましょう」
「いえ、大丈夫よセフィぅぷ」
ミカは、単純に馬車酔いしていた。