65 キャラ被りを気にした結果です!
簡単に、冒険者のことを説明しています。
おかしなところがあるかもしれませんが…。
翌日。
「おはようございます、お嬢様」
ミカはいつもの挨拶が聞こえたところで、目を覚まし、隣に寝る前まではあった温もりが無いことを確認し、違和感に遅れて気がつく。
(あれ、なんか朝には聞きなれない声が聞こえた)
ミカが恐る恐る目を開けると、そこにはメイド服を着たカナがいた。
「……」
「お嬢様、おはようござ…お嬢様!? 寝ちゃダメですお嬢様ー!」
ミカは、朝食を食べながら考える。
(え? お母様はまた変なことをしたの? というか、変なことをしたのはいいけどセフィアみたいに完璧じゃないんだけど?)
ミカはジェイナを見つめる中、ジェイナは不思議そうに首を傾げるだけだ。
セフィアは、ミカの考えている通り、確かに完璧に仕事をこなしていた。
それはもちろん、ジェイナが教えたからなのだが、カナも同じように教えると、キャラ被りが発生する。
『大きなお屋敷だったら、別に構わないんだけれど』
『はぁ、そうなんですか…?』
ミカがカナに後ほど聞くと、そういったことを言っていたと聞いた。
(キャラ被りなんて気にしないんだけど…まあ、いいか)
カナは、セフィアよりも元の性格をもっと濃くしたというか、少しおっちょこちょいな感じにしたような感じだ。
そして、ミカはジェイナに言わなければならないことを思い出した。
「あの、お母様」
「ん? なあに?」
「私、学院を卒業することになりました」
この後、ミカはジェイナに洗いざらい話した。
学院を卒業する理由と、その後のこと。
そして、自分が体験してきたことと、これから体験するであろうことも。
それを聞いたジェイナは、難しい顔をしていた。
「ミカ、バティスタ…学院長は納得したの?」
「ちょっと話し合いをしてね」
「そう……それならいい、のかしらね」
思ったよりも簡単に納得してくれたジェイナに対してミカは思わず聞いてしまう。
「いいのですか?」
「あの人が許可を出したのなら、それは大丈夫だと言うことなのでしょう。…それと、あなたの父親には挨拶したのかしら?」
「門前払いを受けました」
「えっ…そう」
ミカが間髪入れずに言うと、ジェイナが逆に慌てる。
(正直いって会おうとしたかどうかも覚えてないけど、とりあえずこう言っておけば大丈夫。というか、あんなものを送ってきたお父様とはしばらく会わない方がよさそう)
そして、ミカとジェイナの会話がそれきり途切れると、カナが外を見ながら言う。
「お嬢様、雨ですね」
「え?」
ミカも外を見ると、確かに雨が降っていた。
と言っても、大雨ではなく小雨だが。
(雨が降るなんていつぶりかしら?)
ミカの記憶の中では、数える程しかない。
とはいえ、特段雨が好きではないミカは、服を外で干せないのではという心配をする。
「お嬢様、心配はいりません。既に取り込み済み、別室で干しております」
「さすがセフィア」
ミカはセフィアの方を見てそう言うと、カナから差し出された紅茶を受け取る。
ミカのために尽くすメイドが2人。
これは、ミカの堕落が加速していくことは間違いなかった。
「さて、それじゃあ準備をしましょうか」
「はい」
「お嬢様」
セフィアとカナが交互にそう言い、ミカに触れる。
2人がミカに触れたことを確認したミカは、『テレポート』を使って一旦寮の部屋に戻る。
そこには、ミカのベッドで寝転んでいるセリナがいた。
「……セリナ?」
「ん、ミカ帰ってきた」
ミカが声をかけると、セリナは体を起こして、ミカの元へと駆け寄る。
そして、セリナはミカを見つめて言う。
「ミカ、学院から出ていく?」
「……なんで?」
ここで、「なんで知ってるの?」だとか、「それがどうかしたの?」と言えば、ミカが出ていくことを認めたことになるので、ミカは敢えて隠した状態で言う。
「学院長から聞いた」
(口軽っ)
しかし、既にセリナはバティスタから情報を入手していたようだった。
セリナは、ミカを数秒見つめた後、ミカに言う。
「私もついていく」
「えっ、と…セリナはまだ学院に」
「許可ならもらった」
なぜついてくるのか、という疑問より、どうやってバティスタから許可をもらったのかが気になるミカだった。
ミカとセリナがそんな話をしている中でも、メイドの2人はミカの荷物をまとめて行く。
ミカの荷物は少なく、セフィアの荷物はそれ以上に少ないので、その作業自体はすぐ終わるのだが。
セリナの無言の圧力に負けたミカは、項垂れて言う。
「……わかった、好きにして…」
「好きにする」
そして、セリナはミカの腕にくっつく。
はて、前にもこんなことがあったような気がするとミカは考えるが、それがいつの事だったかは思い出せなかった。
「お嬢様、この後のご予定は、雨が上がり次第、冒険者として活動するということでよろしいのでしょうか」
「ええ、それでいいわ」
セフィアが確認を取ってきたので、ミカは頷いて言う。
しかし、ミカに冒険者の知識なんてものは無いので、セフィアに頼るしかないだろう。
ミカがそう考えていると、カナが胸を張って言う。
「もちろん、私にも頼ってくれていいんですよ、お嬢様!」
「……ええ、そうね」
(そういえば、セフィアが私の考えていることがわかるなら、カナも分かるわよね)
教育者は同じなのだから、不思議では無いことではあった。
いや、他人の思考を読めるということがそもそも不思議ではあるのだが。
ベッドの縁に腰掛けたミカは、セフィアとカナから冒険者について説明を受ける。
「まずは冒険者登録をしないといけません」
「冒険者登録?」
冒険者登録とは、国の騎士とはまた違う形で貢献することを指す。
だが、騎士のように戦わずしてお金が入る訳ではなく、冒険者は依頼をこなさなければお金は入らない。
依頼をこなすためにも、登録は必要である。
「もちろん、実力が見合っていない依頼を受けられないように、ランクが決められています」
「ランク」
続いて、カナがそういう。
「ランクは、下から『黒→白→黄→赤→青→紫』となっております。登録をした人は例外なく黒からスタートですね」
(何その冠位十二階みたいな色の順序。ラノベとかではアルファベットで付けられてたりするのに…ここは違うのね)
今までが、ミカの読んできたラノベと似すぎていたため、違う点が異常に目立つ。
ミカはとりあえず置いておくことにして、2人の説明を促す。
「依頼をこなせばこなすほどポイントがたまり、昇格依頼を受けることができます」
「昇格依頼?」
昇格依頼は、自分が今いる1つ上の依頼を受けることだが、それには判断する役員がつく。
それで、ランクを上げても大丈夫かどうかを判断するのだ。
「ちなみに、その役員ってのはどこからくるの?」
「冒険者組合です」
ミカの問いにセフィアが答える。
セリナも知らなかったのか、興味深そうに聞き入っている。
(というか、ギルドってないの?)
「ギルドってないの?」
ミカが思ったことをそのまま口にすると、セフィアが微妙な顔をし、カナが答えた。
「ギルドはございますが、お嬢様にはあまり関係のないことですね。ギルドは基本的に冒険者で集まり、1つの組織を作り上げたものの総称ですから」
「簡単に言ってしまえば、パーティーが更に巨大化した、という認識で大丈夫です」
カナの説明をセフィアが詳しく説明する。
この2人、教師になれるのではないだろうか。
ミカが納得していると、セリナが手を上げる。
「セリナ?」
「場所によっては、受けられる依頼の難易度が変わる?」
「その色ごとで受けられる依頼の難易度が変わることはありません。ですが、上の色を目指すことが出来ない地域もあります」
「へぇ…」
ということは、あまり田舎で受けると、上を目指すことが出来なくなる、ということだろう。
日本でも、インターネットというものが無ければ、豊富な品揃えの店は都会にしか無い。
たまに、穴場があることもあるが。
セリナが納得し、セフィアに礼を言って、またミカの腕にくっつく。
(何この子。私の彼女? あ、私も女だから…ガールズラブ!?)
ミカにはその気がないが、果たして、セリナはどうなのだろうか。
ミカが不安になっていると、ドアをノックする音が響いた。
ミカが出ようと腰を浮かせると、カナが扉の方へ向かった。
「どちら様ですか?」
「え、っと、ジェシカですわ」
「ジェシカ先輩? カナ、開けて」
ミカがそう言うと、カナは扉を開け、ジェシカが中に入ってきた。
その顔は、少し怒っているようにも見える。
「……えっと、ジェシカ先輩?」
「何も言わずにいなくなるんですの?」
「いや、会えなくなるわけではないですし…というか、ジェシカ先輩なら私の家も分かるんじゃ」
「それとこれとは話が別ですわ」
ジェシカはミカの顔をじっと見つめ、しばらくした後、部屋から出ていった。
ジェシカがなぜ怒っていたのか分からなかったミカは、首を傾げるだけだ。
「ジェシカ様は、お嬢様に信頼されていないと思ったのでしょうか」
(信頼、ねぇ…していないかどうかと聞かれれば、している、のだろうけれど)
微妙なところだ、とミカは思った。
隣にくっついているセリナを見つめながら、ミカは思う。
(ジェシカ先輩がついていく、って言っても、私は断る。……こっちに関しては、なんで連れていくことを許可したのか、今でも不思議なんだけれどね)
そして、ミカはベッドに倒れ込む。
ミカにくっついたままのセリナも同じように倒れ込み、ミカの顔を不思議そうに見つめる。
ミカはセリナを見つめ返し、天井を見る。
「……なんでなのかなぁ」
ミカは、ポツリと呟いた。
ジェシカを仲間に入れるかどうか悩みましたが、彼女はまた別のところで出てもらうことにします。
その頃には、私がジェシカのキャラを忘れて別人になってるかもしれませんね。
じ、冗談です。