62 父との通信です!
ブックマーク、感想など、ありがとうございます!
相変わらず誤字が多いですが、自分で見返して修正をしたりしているので、温かく見守ってください…。
本当は、誤字が無ければ良いんですけれど。
「勝元光に繋いで貰えますか」
そうミカが言うと、明らかに女性が動揺したような声を出した。
それも当然のことであろう。
異世界の住人が、日本の人、それも組織の中でも高位に位置する人物の名前を出されたのだから。
しかし、女性はすぐに気を取り直し、質問をする。
『……なぜ、その名前を?』
「言わなければならない理由は見つかりません」
『………分かりました。お繋ぎ致します。ですが、その会話はこちらでも聞かせて頂くと同時に記録もしますが、よろしいでしょうか』
「ええ、構いません」
そんな2人のやり取りを聞いていたカナは、何も出来ずに裸のままシャワーを浴びているだけだ。
体が冷えていない分、風邪をひかないのでまだマシだろう。
ちなみに、ミカはすぶ濡れになった服をセフィアに脱がされ、しっかりと体の水分を拭き取られてから新しい服を着せられている。
そのまま数分間待機していると、今度は男の声が響く。
『待たせたな。俺が勝元光だ』
「……どうも。幾つかお聞きしたいことがあります」
『聞きたいこと?』
ミカがそう言うと、光はそのままオウム返しする。
「まずは、日本人をこちらに送った目的です」
『……』
ミカがそれを聞くと、光は黙り込んでしまった。
とはいえ、ミカが聞いたことは、美香であった時も、ミカである今でも分からないことだ。
(どうしてこちらの世界に人間を送るのか。帰ることが不可能だと言うことが分かっていてもなお送る理由が絶対にあるんだろうけど、良くないものな気がしてならないのよね)
ミカが黙って待機していると、カナがくしゃみをした。
ミカがカナを見ると、シャワーを出すのをやめ、その場でただ立っていたのだ。
「セフィア」
「はい、お嬢様」
ミカの一言でその意図を察したセフィアは、すぐにカナの体を拭いていき、服を着せる。
シャワー室は湿っているのではないか、とも思うが、既にセフィアが拭き取り済みだ。
だが、さすがに換気まではすぐには出来ない。
「あ、ありがとうございます…」
セフィアの素早い手際に、カナは目を丸くして礼を言っている。
「いえ、お嬢様の命令ですから」
セフィアがそう言い、ミカの後ろに待機すると同時に、ミカの手にある通信道具から声が響く。
『我々日本人には、土地が無い。人が溢れすぎたのだよ。
そちらの世界では、ある国が一定の領土を統治しているなど、理解できないと思うがね』
「……」
理解するも何も、そこで生まれ育ちました、なんてことは言っても通じないだろう。
ましてや、あなたの娘です、とも。
ミカは、この世界の土地の概念について考える。
(こちらでは、確かに国が一定の領土を統治するなんてことはしていない。そもそも、1つの国しかないということもあるけれど)
世界=今ミカのいる国だ。
だが、この世界には国という概念自体がないので、説明は難しいのだが。
「では、こちらに押し付けようとしているのですね?」
(あの夢で見た、害をもたらすってのは、こういうことなのかしら)
ミカがそう考えながら言うと、光が観念したように言う。
『それは違う…と言いたいが、実際にはその通りなのだ。
しかし、こらちでも苦しいことに変わりはない。そちらへ移動出来る年齢が限られている上、若い世代だけなのだ。高齢社会が加速していくばかりでもある』
(年金制度、か)
ミカが元いた日本では、老人に年金制度があった。
しかし、それらのお金は働いている人から払われているお金であるので、働き手が少なくなれば、1人が負担する金額も増える。
「ですが、これ以上こちらにしわ寄せが来ても困ります。それ相応の対応をさせていただきます」
『なっ…まさか、殺すというのか!?』
「いえ、こちらの世界では土地は余っている方ですから、しばらくは問題ありません。ですが、被害が出ることもあります。
こちらに移動した人間が、全員例外なく異能力に目覚めているのは把握していますよね?」
『……サナから報告にあった者だな』
「ええ、その通りです」
ミカはそのまま、シャワー室から出る。
足元に転がっているサナを見て驚くが、すぐにセフィアがその拘束を解く。
「セフィア、何かあったの?」
「お嬢様に危害を加えようとしていたもので」
セフィアがそう言うと、カナが驚いたように声を上げ、サナを非難した。
「お姉ちゃん、何やってるの!? 私たちの命の恩人なんだよ!」
「カナ…ごめんなさい…」
カナにそう言われ、サナは素直にカナに謝る。
だが、カナの怒りが収まることはなかった。
カナは手を振り上げ、サナに振り下ろした。
サナはそれを避けることはせず、素直に受け止める。
カナが振り下ろしたのは、サナの頬。
サナはビンタされたのだった。
「……」
それを止めることせずに見ていたミカ。
と言うよりは、止められなかったの方が正しかった。
(え、何、日本の姉妹ってみんなこんな感じなの? 妹が容赦なく姉をビンタするとかそんなの日常茶飯事なの?)
先程まで光とシリアスっぽい話をしていたミカの態度はどこへやら。冷や汗をかいていたミカだった。
『話を、続けてもいいかね?』
「ああ、はい。どうぞ」
ミカは、ベッドに座り、光の話の先を聞く。
『サナから報告にあった者は、こちらでも把握している。だが、そう言った者以外は、殺さないで欲しい』
「私としても、殺したい訳ではありませんので」
これはミカの本心だ。
剣を扱うにしても魔法を扱うにしても、それら原点は人のためだ。
人のために人を殺すというのは、仕方ないことがあるにしても、避けたいところではある。
ミカがそう言うと、安心したように息をつく光。
ミカが美香だった頃には、感情の変化など見たことが無かったのだが、声だけで分かるほどに感情が伝わる。
ミカは、美香がミカに嫉妬していることを、理解した。
(まさか、自分で自分に嫉妬するとは。……何となく、嫌な予感がするわね)
ここ最近は、美香としての意識は薄れていたミカ。
だが、ここに来て一気にその意識が強くなっていく。
異世界から来た魂と体が別れてしまったことが、原因しているのだろうか。
(私が体と離れなければ、今頃送られているはず。であれば、そっちに美香としての私が残っていてもおかしくはないのよね)
魂が完全に移動せず、分離した可能性だ。
その方がミカとしては気が楽だったりするのだが、美香はどうだか分からない。
そして、ミカの考えを遮るかのように光が言う。
『それでは……いや、最後に1つ』
「なんでしょう?」
その後光が放った一言は、ミカにとって人生で1番の衝撃を与えた。
『私と同じ姓が入っている、勝元美香は無事なのか…?』
「……どうしてですか?」
がつんと、鈍器で殴られたかのような衝撃を受けながら、ミカはその理由を聞く。
それを聞いた光は、さも当然のように言い放った。
『私が実の娘を心配するのは、そんなにおかしいことかね?』
「……」
黙ってしまったミカとは逆に、光はどんどんと喋っていく。
『私は、後悔していたのだ。忙殺され、全く構えていなかったことに。そして、それは公開してもしきれない形で現れることによって、私は気付かされた。
全く、愚かな親だよ、私は』
「……」
ミカは、何も言えない。
光にそんな思いがあったなんて、全く感じられなかったからだ。
ミカが明らかに動揺している中、セフィアがミカの手から道具を取る。
それと同時に、ミカはその場に座り込む。
『あの時、私の父が美香を送らせないようにしていることには気がついていた。
だが、それを見て見ぬふりをすることしか、私には出来なかったんだ……頼む、美香が安全なのかどうか、調べてほしいっ!』
「それをすることによって、私たちにどのような利益があるのでしょう?」
ミカに代わり、セフィアが対応をする。
これが美香の捜索願でなければ、ミカは承諾していたのであるが。
セフィアに代償を求められた光は、唸った。
『言い値を払う、と言いたいところだが、そちらにはこちらの金を送れたとしても、価値はないだろう。……私がそちらに出来ることは無さそうだ』
「……では、お嬢様の決断に全てを委ねます。もしその時はこちらからご報告致しますので。それでは」
セフィアはそう言うと、カナに「切ってください」と言い、カナは素直に切る。
そして、セフィアはミカの側にしゃがみ込む。
「お嬢様、大丈夫ですか?」
「え、あ……大丈夫…うん、大丈夫…?」
ミカの目が泳ぎまくっていることに気がついたセフィアは、とにかく休ませて整理させることが先決だと判断する。
カナとサナにも手伝ってもらい、セフィアはミカをベッドに寝かせ、カナは飲み物の用意を、サナにはミカの服を畳んだ。
ミカはしばらくすると、寝息を立て始めたので、セフィアは安心し、2人に向き直る。
「ありがとうございます。お2人とも」
「私たちの命の恩人だからね! 当然よ!」
「私は、罪滅ぼしです」
2人とも正直に手伝った理由を話し、その場に座る。
セフィアは、ミカの寝顔を見つめながら、静かに立ち続けていた。