60 姉妹です!
それから3日間、ミカは気を張りつめていた。
学院を襲うと言っていた最後の日本人の名前は、リュウと言うらしい。
これは、2人の女子、サナとカナから聞いた。
サナが栗色の髪で、カナが黒髪の方だ。
2人は、ミカの出す張り詰めた空気に耐えられず、泣いてしまったことがあり、ミカは2人の前では緩めることにしていた。
だが、3日もたった今、そこまで警戒しなくもいいかもしれないとミカは思い始めていた。
今は、授業が全て終わり、自室で休んでいる。
「お嬢様、こちらをどうぞ」
「ええ、ありがとう」
セフィアから紅茶を受け取り、一口飲み、ベッドを見る。
「すぅ…」
「ん…」
カナとサナは眠っているようだ。
2人は授業が無いので、眠っているのはおかしくはない、とは思うのだが、少々寝すぎではないかとミカは思った。
ちなみに、同室のジェシカは、別室へと移されてしまった。
移したのは学院長なので、異論は認められなかったが、ジェシカはどこか安心したようだった。
あれでいて、ジェシカはかなり苦労していたのであろう。
ミカが椅子から立ち上がり、日本人の2人を起こす。
「2人とも、起きなさい」
「んあ…」
「……」
2人とも起き上がり、ミカの顔を見るなり頬を赤く染めてベッドから転げ落ちる。
「あ、あれ…痛い…」
「夢じゃ、ない?」
「当たり前です…もうお昼を過ぎましたよ。少し寝すぎなのでは?」
ミカがそう言うと、2人は照れくさそうに頬をかく。
それを見たミカはため息をつき、セフィアにその場を任せる。
「セフィア、少し私は出てくるから、この2人のことお願い。外に出しても平気なようにはしておいて」
「かしこまりました」
そしてミカは、部屋から出ていく。
残された3人は、お互いがお互いに見合い、セフィアが最初に口を開いた。
「お2人は、どちらからいらしたのですか?」
セフィアがそう聞くが、2人は口を閉ざしたままだ。
そんな2人を見たセフィアは、すぐに質問を切り替える。
「言えないのであれば、ここから遠くのところから来たかどうかだけ答えてくださいますか?」
「は、はい、遠くから来ました」
「と、遠くから、来ました」
その後もセフィアが聞き出した情報をまとめるとこうだ。
2人は姉妹で、厄介な連中に連れられていたところをミカに助けられたということ。
学生だったのだが、かなり遠くから来たのでもう通ってはいないということ。
武器は使えないが、その厄介な連中が魔物を蹴散らしていたので必要なかったということ。
それらを聞き出したセフィアは、タンスから服を取り出し、2人に渡す。
「これは…?」
栗色の髪の毛、サナがそう言いながら、セフィアを見る。
黒髪のカナは、匂いをかいで、ミカと同じ匂いなのを確認すると、頬を赤く染めて服を見つめている。
「あなた達の着替えです。そちらに着替えたら、私に言ってください」
セフィアはそう言うと、部屋から出ていく。
それを見たサナは、手首についていたリストバンドに見える黒色の帯に触れる。
それに触れると、機械的な音が鳴り、声が聞こえてくる。
『サナさん、どうなされましたか?』
「……色々説明しなきゃならないから、最初から詳しく言うわ」
カナは未だにミカと同じ匂いの服の匂いをかいでいるが、サナは極めて冷静に状況を説明していく。
さすがにこの状況は予定外だったのか、通信越しに少し動揺した声が聞こえてくる。
『…それでは、しばらく様子を見てください。2人で生きていけるほどの安全を確保次第、その人間を殺害してください』
「……わかりました」
そこまで聞くと、セフィアは扉の前から離れて、ミカがいるであろう場所に向かって歩き出した。
部屋から出たミカは、あの2人、カナとサナのことを考えていた。
(あの2人は日本から来たのだから、日本語を喋っていたはず。なのに、異世界人であるはずの私と会話が出来る。
これは、言語の壁が無いってこと?)
それとも、2人が翻訳機能がついている何かを着用している可能性もあるが、それは検査をしてみなければ分からないだろう。
幸い、ミカに同性愛の気は無いので、触診もただの作業として行うことが出来る。
相手がどうであるかは、ミカにとっては関係ないのだ。
寮の厨房に着いたミカは、その場で適当に2人分の料理を作る。
(ずっと寝てたなら、何も食べてないかもしれないし。食べてたなら、4人のお菓子みたいな感じにしましょう)
数十分後、ミカが作ったのはクッキーだ。
日本で作ったものとは多少味が落ちるが、十分美味しい出来だと、ミカは胸を張れる。
そして、クッキーを乗せた皿を持ちながら部屋に向かって歩いていると、セフィアが曲がり角から現れた。
「お嬢様、私がお持ち致します」
「ええ。ありがとう」
そして、ミカから皿を受け取り、セフィアは口を開く。
「お嬢様、先程、あの2人のことを聞いたのですが…」
「あら、そんなこともしてくれたの?」
ミカはセフィアから報告を受け、最後に気になることを聞き返す。
「その、最後に言っていた、その場にはいない誰かと話している、ってどういうこと?」
「私は部屋から出ていたので推察でしかありませんが、何らかの道具があるのではないかと考えています。お嬢様か私がこの後、くまなく調べることを推奨致します」
「ええ、それはこの後やろうと考えていたことなの。だけど、そんなことを…それ、どっちもしていたの?」
「いえ、サナ、と言っていた方だけかと」
「なるほど…」
恐らく、何らかの道具とは通信手段のことだろう。
ミカが転移もとい転生する前にも、日本にいる人と通信ができる手段があるとは伝えられていた。
しかし、話していたのがサナだけではない可能性もある。
話すのがサナの担当、みたいな感じで分けていることだって有り得るのだ。
ミカは、部屋の扉を開けて中に入る。
「2人とも、お腹は減ってない?」
ミカの言葉にすぐ反応したのはカナだ。
顔をぶんぶんと縦に振り、期待の眼差しでこちらを見ている。
それを見たミカは、ちゃんとしたものを作ってくるべきだったかと考えながら、セフィアに前に出させる。
「これは…クッキー!」
「い、いいんですか?」
カナがクッキーに反応し、セフィアから皿を受け取る。
サナはそこまでではないようで、日本人らしい反応を示す。
少し懐かしい気持ちになりながら、ミカは頷いて言う。
「もちろんよ。2人のために作ったんだもの」
ミカがそう言うと、カナが一気に食べ始める。
その勢いはかなりのものだったので、ミカはセフィアに飲み物を取りに行かせる。
ミカの予想通り、水分が一気に座れたカナはむせる。
セフィアから受け取ったコップをカナに差し出し、カナごくごくと飲み干す。
「あ、ありがとうございます…」
「無くなりはしないんだから、2人で分けて食べなさい」
と、ミカは優しく語りかける。
そう言われたカナは、サナと一緒にゆっくり食べ始めた。
(というか、私はこの世界ではまだ7歳なのだけれど。自分より半分の年齢の子どもに窘められて恥ずかしくないのかしら…)
可愛いからいいけど、とミカは考えながら、セフィアに向き直る。
ミカの視線から意図を汲み取ったのか、セフィアは1つ頷き返す。
それを見たミカは、カナとサナがクッキーを食べ終わったところで、カナに言う。
「カナ、少しいいかしら?」
「?」
ミカはカナの手を取り、そのままシャワー質に向かう。
カナは全く警戒していないようだが、サナはそうではない。
ミカとカナがシャワー室に入るまで、ずっと見つめていた。
そんなサナに、セフィアが声をかける。
「そんなに警戒なさらなくても、大丈夫です。危害を加えることはありませんから」
「…?」
そして、ミカの簡単な触診が始まった。