6 他の方法を探します!
少し短めです。
次回は長めになります!
「さすがは私の娘だ! あんな重たい剣を振りまわすなんてな!」
「...」
「...」
現在、ミカ達は家族で食卓を囲んで、今日も平和にご飯を食べている...のだが、ミカは目に見えて落ち込んでいるし、アーリアはとても喜んでいる。
ジェイナは感情の読み取りずらい顔でひたすらご飯を口に運んでいる。
家族でご飯を食べているはずなのに、ただアーリアが1人で喋っているという奇妙な状況が出来上がったのである。
「あの、お父様...」
「ん、なんだ? ああ、わかったぞ。剣の扱いを教えてほしいのだな?」
「あ、いや、違...くないけど、今は違うの」
ミカは、魔法一辺倒なキャラがオールラウンダーなキャラに負けていることを知っているので、剣にも力を入れたいのは事実なのだが、今はそれどころではない。
ミカは、手に持っていたスプーンを机に置き、真面目な顔をしてアーリアに向き直る。
それを見たアーリアとジェイナも、同じように持ったいた物を机に置き、ミカの言葉を待っている。
ミカは、すごく言いにくそうに次の言葉を言った。
「私、剣を主体にしたいわけじゃないの」
その言葉を言った時、アーリアは目に見えてショックを受け、ジェイナは少しだけ嬉しそうにはにかんだ。
アーリアは、拳をプルプルさせながら、ミカに聞く。
「ミカ...それは本気で言っているのか?」
「う、うん、本気だよ」
ミカは別に、殺戮をしたいわけではない。誰かの役に立ちたいだけなのだ。
剣で誰かの役に立つこともできるかもしれないが、魔法の方がその方法は多いと思ったミカは、剣ではなく、魔法を使いたいと言った。
ミカの気持ちを理解したのかはともかく、アーリアは、握りしめていた拳をゆっくりとほどくと、優しい顔で言った。
「わかった。ミカの好きなようにしなさい」
「! ありがとう、お父様!」
「ぐはぁ」
ミカの満開スマイルの餌食になったアーリアだが、ミカ本人は気づいていない。
そのままジェイナに視線をずらす。
ジェイナは、ただ無言で頷くだけ。しかし、それでも気持ちは伝わってくる。
『頑張りなさい』と、言っているのだと確信を持つミカ。
「私、頑張るね!」
気合いいっぱいに両の拳を胸の前で握り、勢いよく椅子から立ち上がる。
そのまま部屋に向かい魔法の練習をしようとするが、そこでアーリアに待ったをかけられた。
「ミカ、夕食の後に話がある。...そのことだけ、憶えておいてくれ」
「? うん、わかった」
どうやら話はこれで終わりのようなので、ミカは再び自室を目指そうとするが、そこで再び待ったがかかる。
ジェイナだ。
「ミカ」
「なに、お母様?」
ミカは、アーリアはともかく、ジェイナのことを尊敬している。
母親としても、女性としてもだ。
なので、そんなジェイナに呼びとめられたミカは、無意識に笑顔で振りむいてしまう。
その時に、アーリアがジェイナとの対応の差にダメージを受けるのだが、本人の知るところではない。強いて言うなら、日ごろの行いのせいだろう。
「しっかりと感謝を伝えなさい」
「あ、忘れてた...ごちそうさまでした!」
「ふふ、はい」
こちらの世界にも『ごちそうさま』という言葉があることには驚いたが、『いただきます』という言葉は無いようで、ミカは少し納得がいかないと言っていた。
(いただきますを言わないと、ごちそうさまを言えないのよね)
もはや習慣である。
自室へと戻ってきたミカは、再び本を手に取った。
読んでいるページは、『強化魔法』の部分。もしかすると、強化魔法の中に、他の魔法の力を強くする魔法があるかもしれない。
ミカは、『魔法が弱すぎて、発動していないように見えたのかもしれない』と解釈したのだ。
本当は別の理由があるのだが、今のミカにはそれしか考えられない。科学に囲まれて生きてきたものの限界とでも言うべきだろうか。
「えー...『自身の魔法の耐性を』...違うな」
耐性を上げたところで魔法が発動するかどうかは科学に囲まれていてもわかるし、逆に発動しなさそうだ。
ミカはペラペラとめくっていく。
「『魔法適性を一時的に下げる代わりに、身体能力を大幅に上げる』...本当、ゲームみたい」
ここまで日本での創作物に似ているとなると、いよいよ異世界の人がこちらに来た説が立ってしまうかもしれない。
もしくは、戻ってきた可能性だ。
(ま、戻れるんだとしても、私の体はどこにあるのかはわからないんだけどね)
そう言いながら、先ほど呟いた魔法が気になり、そのページを見ているミカ。
万が一、強化魔法しか使えなかった場合、ミカにとってこの魔法は、ノーリスクハイリターンになるのではないだろうか。
「もしそうだとしたら、本当に剣で...ってなるけど、いざというときにこれを使って、誰かを守れるなら...」
ミカの目的は誰かの殺すことではない。そのことを忘れてはいけないと、ミカは常に口に出すか、頭の中で思うようにしている。
そして、ミカは魔法を唱える。
「『アクイバレント・エクスチェンジ』」
その魔法を唱えると、自身の体が紅く光り出す。
これは...。
「もしかして、通常の3倍とかで動けたりする?」
なんとなくそんな気がして、剣を片手に窓から外にでる。
ミカの部屋は1階なので、怪我をする心配もない。
「よっと...さて」
目の前に広がるのは、広大な自然。ここに転生した時以来見ていなかったが、こうして改めて見ても、心が穏やかになってくる。
景色に見とれていたミカは、頭をぶんぶんと振る。
「違う違う! 見とれている場合じゃないのに。早く実験を済ませちゃおう」
今回の実験は、適当に走ってみる、だ。
もともとの体の運動能力はたかがしれているので、この体で走ったことはなかったが、今の状態を知っておく必要がある。
ミカは、足に力を込めて、全力で蹴り出した___!
「せーのっ...ぉぉぉわぁぁああああああ!?!?!??!?!」
ミカは、一瞬で飛んで行ってしまった。
「いてて...いや、痛くなかった」
地面とキスをしていたミカは、体を起こす。
後ろを振り向けば、ミカが住んでいた家は点だ。見えないわけじゃないが、辛うじて見える程度だ。
泥だらけになった服を見る。最悪だ、とミカは溜息をこぼすが、それと同時にわかったことがある。
「この魔法、強化されすぎ」
かなりの勢いだったのだろう。ミカがいる場所のかなり手前から地面をえぐった跡がある。
「ばれないように、さっさと戻らないと」
ばれないも何も、かなりの大声を出したのだが、本人はそんなことは忘れている。
重たそうに腰を上げて、戻ろうと歩き出すミカ。しかし、ここで問題に気がつく。
「いかん...」
遠すぎるのだ。
身体強化でここまでぶっとんできたミカだが、ミカの足では日が暮れてしまうほどの距離が出来ていたのだ。
これでは、普通に怒られる。それどころか、魔法の使用を禁止する可能性だってある。ついでに、剣の修練の強要。
「は、早く戻らないと」
ミカは、あまりに慌てていたため、同じ魔法を使って戻るということを忘れていたのだった。