59(EX)年末はおせちです!
(EX)は(if)の話として見ていただければ幸いです!
こんなことがあった、もしくはあったかもしれないと言った感じでしょうか。
12月31日。
日本では年末と言われる日だ。
この日は家族で集まって、ご馳走を食べ、日にちを跨いだら「あけましておめでとうございます」と挨拶をする。
ミカの家庭はそうだった。
もちろん、父親は抜きだったが。
それはともかく、そういったことを、ミカはこちらの世界でもやりたがった。
「おせち、ですか?」
「ええ。色んなご馳走が綺麗に並べられているお弁当、と言う感じかしら」
残念ながらミカの説明力では詳しく説明することは出来ないが、セフィアには伝わったようだった。
「なるほど、わかりました。それを作ればよろしいのですね」
「うん、お願いね」
毎度の事ながら、ミカがやりたいと言い出すのはかならず当日の朝だ。
だが、今回は準備しやすい。
家族もとい、ミカとセフィアのみで行うのだから。
行う場所は、ミカが見つけていた、学院で使われていない部屋。
もちろん、ジェシカを除け者にしているつもりはないが、最初は2人でしたいというのが、ミカの思うところだった。
「さて、それじゃあ私は色々準備をしようかしら」
そしてミカが準備するのは、使っていない部屋の準備だ。
掃除もしなければならないし、椅子や暖房も持ち込まなければならない。
暖房は魔力を入れれば暖かい空気を出す道具があるので、それを使用すればいいが、掃除機のようなものは無いのであった。
「さて。どうしたもんかしら」
『テレポート』でその使っていない部屋の前に飛んできたミカは、扉を開けて部屋の中を見る。
部屋の中は、使っていないだけあってホコリだらけだが、それ以外におかしなところは無い。
ガタがきているような部屋ではないので、風が入ってきたりはしないだろう。
ミカが中に入り、窓を開ける。
そして『ウインド』を唱え、ホコリを一気に窓から外に出す。
ミカの魔力は、『ウインド』を使うのであれば無限のようなものなので、ホコリを出し切るまでウインドを使う。
「こんなものかしらね…」
ホコリを出し切ったミカは、今度は『コンバート』していた椅子や机を出す。
暖房は軽いので、部屋の前に置いてあったものを持ってきて、設置する。
必要な魔力は、誕生日で貰ったマナタイトを使おうかと考えたが、それ専用のものがあるらしいので、それを学院から拝借していた。
「盗んでないわ。返すもの」
消費するものを返してどうするのか、とツッコムべきのジェシカは、実家へと帰省していた。
ある程度の準備を終えたところで、セフィアが部屋に入ってくる。
「さすがですお嬢様」
「あら、セフィア。早いわね、もう出来たの?」
ミカの問いに、セフィアがこくりと頷く。
「今回のものは準備が必要なものではありませんでしたので、豪華な食事を入れただけですので」
「………そう」
セフィアは簡単そうに言うが、それが簡単ではないことは誰もが理解している。
もちろん、ミカも例外ではない。
ミカがそのまま、魔力を流した暖房のスイッチを入れる。
「さて、準備は終わったから、あとは時間まで待ちましょうか」
「わかりました」
ミカとセフィアはいつも通り自室で過ごし、その日の午後の10時あたりになったところで、2人は『テレポート』する。
暖房を付けっぱなしにしていた部屋は、しっかりと暖かかった。
「それじゃ、始めましょうか」
「はい、お嬢様」
そして2人は、椅子に座って食事を始める。
今までの食事は、ミカが食べている間はその後ろで控えていたセフィアだが、この時だけはミカに強制されて正面に座らされている。
まずは、ミカがセフィアの作った異世界版おせちを口にする。
日本のおせちのようなラインナップではないが、ミカの好物ばかりが揃えられている。
セフィアの細やかな配慮だ。
それを理解したミカは、嬉しく思いながら、その中でも一番の好物である卵焼きを口に運ぶ。
この卵焼きは、ミカが以前教えたもので、少し砂糖を多めに作るものだ。
「んん〜! おいしい!」
ミカがそう言い、セフィアは内心安堵しながらミカに続いて料理を口に運ぶ。
飲み物は、炭酸によく似た飲み物を用意してある。
そして、2人がある程度食べ進めたところで、ミカが時計を見ようとして、時計が無いことに気がつく。
「セフィア、今何時かわかる?」
「11時35分、ですね」
「そう。ありがとう」
そして、ミカは窓を開けて、外を見る。
今日の夜は快晴で、星空が良く見える。
日本では都市部に住んでいたミカ。
そのせいで夜は星が全く見えず、星を見ようともしなかった。
だが、この異世界では、満天の星空が見える。
「……いい夜ね」
ミカがそうポツリと呟くと、セフィアが後ろに立ち、頷く。
2人で、心地よい風を受けながら、外を見つめ続けていると、時間が来たのか、セフィアが言う。
「お嬢様、お時間まであと10秒でございます」
「それなら、カウントしましょうか」
そして、部屋のスイッチを消し、月と星の明かりで照らされた中、ミカのカウントが響く。
「3、2、1…あけまして、おめでとう。セフィア」
「おめでとうございます、お嬢様」
2人は顔を合わせて、笑い合う。
ようやくしたいことが出来たミカは、これまでのことと、これからのことに思いを馳せ、セフィアを抱き寄せる。
「これからもよろしくね、セフィア」
「もちろんです、お嬢様」
セフィアもミカを優しく抱き返す。
2人はしばらくそのままでいた後、ミカから離れて部屋の明かりをつける。
そして椅子に座り、ご飯を食べ始める。
「こんなに美味しいのを残すなんてありえないじゃない。ほら、セフィアも食べましょう?」
「……ふふ。はい、お嬢様」
ミカはそう言うが、セフィアにはその本当に意図が伝わってしまったようで、ミカは頬を少し赤らめる。
こうして、ミカの年末は終わった。