58 転移してきたようです!
100ptになりました!
皆様、ありがとうございます!
これからも頑張ります!
「お嬢様、こちらを」
「ええ、ありがとう」
ミカが寮に戻ってきて2週間。
いつも通り授業を受けたミカは、セフィアから紅茶を受け取った紅茶を飲み、一息ついていた。
あれから『30』のダンジョンに動きはなく、誰かが出てきた様子もない。
ただ、目的のダンジョンは見つけてしまったので、ほかのダンジョンに行く必要もなくなってしまった。
もちろん、クリアすれば、他のダンジョン同様、何かしらの報酬が貰えるのだろうが、その点に関しては、ミカは興味が無かった。
「……お嬢様、これからどういたしましょう?」
「そうねぇ…」
と、ミカがこれからのことを考えながら窓越しに外を見ていると、何かがキラリと光ったように見えた。
ミカは反射的にガタリと椅子から立ち上がり、光ったところを凝視する。
今日の天気は快晴で、窓の反射という可能性もあるが、ミカは確信していた。
(何かが起きた…確か、あっちは『30』の方向!)
「お嬢様?」
ミカが突然立ち上がったので、セフィアはどうしたのかと聞くが、ミカは何も答えずに、ただ窓の外を見る。
(爆発って、何があったっていうの…?)
とにかく、ここでは何もわからない。
ミカが移動しようとした瞬間、授業を始める合図のチャイムが鳴り響く。
担任がドアを開けて入ってくると同時に、ミカは『テレポート』でいなくなる。
「あっ!?」
ジェシカが声を上げ、その場に残されたセフィアはどうしようかと慌てた。
「……なに、これ」
『30』のダンジョン入口前に来たミカは、その惨状を目の当たりにしていた。
入口であった場所は崩れさり、ダンジョン内に入ることは不可能になっている。
いや、瓦礫を吹き飛ばせば入れるかもしれないが、それだとダンジョンの崩壊を招きかねない。
ミカは、『テレポート』であの広場へと移動することにした。
「『テレポート』」
ミカが移動すると、元々あった機械はほとんど吹き飛ばされており、何人かが倒れており、その中に、あの男がいた。
「だ、大丈夫?」
ミカが駆け寄り体を起こすと、
男は目を開けた。
「やれやれ…あんなヤンチャなんて聞いてない…」
男は血を吹き出しながら、そう苦しげに言った。
ミカはこの男を助けるつもりは無かった。
だが、分からないことはある。
この惨状は誰が引き起こしたのか。
ミカが考えを巡らせていると、男が口を開く。
「やれやれ…どうせ僕はもう死ぬ。だったら、教えてあげようじゃないか」
「……どうしてこうなったの?」
「それはもちろん、待ち人のせいさ。彼らは僕の説明を受けた途端、暴れだしてここから出ていってしまった」
彼の言う説明とは、この異世界のことについてだろう。
魔法を使えるこの世界では、元の世界のような法なんてものは無い。
正当な理由もなく人を殺すということは紛れもなく悪だが、この世界では容易に可能だ。
「ああ、そうだ。彼らはこう言っていた。『やっぱり殺すなら、イキっている学生』と」
「……!」
この『30』のダンジョンから一番近い学院は、ミカが通っている学院だ。
ミカは急いで『テレポート』で戻ろうと、男から離れようとすると、男がミカの服を掴んだ。
ミカが男に視線を戻すと、男はこう頼み込んだ。
「すまないが…君が僕を殺してくれないか」
「…?」
「あんな男達に殺されるより、君のような可愛い子に殺されたいというささやかな願望だよ。どうかな?」
死にかけなのによく喋る、とミカは思ったが、男の要求を承諾し、『コンバート』していた剣を取り出す。
それを見た男は満足そうに頷き、目を閉じた。
ダンジョンの入口へと『テレポート』したミカは、学院で迎え撃つよりは、ここから追って処理した方が安全だと判断した。
しかし、恐らく日本から来た人達をどう追いかけるのかが問題だ。
(あの場にはみかんの姿は無かった…だったら、その集団にいるか、1人で逃げているか…今はヤンチャな集団の処理の方が先かしら)
ミカは『サーチ』を発動し、その範囲を最大まで上げながら、学院に向けて走り出そうとした時、その方向で爆発が起こる。
恐らく、そのヤンチャな集団が魔物に遭遇したのだろう。
「これは、ラッキーなのかしらね」
ミカは、爆発が起きた所へ向かうため、『筋力上昇』と『アクイバレント・エクスチェンジ』をかけ、走り出す。
「こいつぁ気持ちいいぜぇ!」
「ね、ねえ、やめようよ…」
「そうよ! こんなのやっちゃいけないことよ!」
「うっせぇな黙ってろ!」
ミカがその集団の近くに来た時、会話が聞こえてきた。
(…仲間割れでもしてるの? それとも、学院を襲うってのは一部の過激な人だけで、それを止めようとしてる?)
とにかく、ミカがすることは変わらないだろう。
夢の中で会った黒髪の女の言いなりになるのは癪だが、ミカは殺す人を決める。
まず1人は、先程怒鳴っていた男だ。
髪は金髪に染め上げており、制服もボロボロだ。
元の世界、日本でもかなり無茶な生き方をしていたのであろう。
残りは、その男の取り巻きどもだ。
ただ、ここで注意しなければならないことがある。
(あの爆発は、ほぼあの男達の誰かが起こしたと考えていい。だったら、迂闊に出るのは危険かしら…)
それでも、ドラゴンのブレスですら耐えたミカの強化魔法だ。
ミカはその強度を信用し、男達の前に出る。
「あ? なんだ?」
「おい…かなり上玉な女じゃねぇか」
「ちょっとガキ臭くねぇか?」
「中学生あたりか?」
「……」
(好き放題言ってくれちゃって。まだ7歳なんですけど)
中学生になるには、まだ6年ほど生きなければならないだろう。
この世界の人間は成長が早いだけなのだ。
ミカは、男達に忠告する。
「あなた達がやろうとしていることは知ってるわ。悪いことは言わないから、やめなさい」
ミカがそう言うと、男達は笑い飛ばした。
そして、金髪の男がミカに向けて右手を突き出す。
「まあ、足ぐらいは動かなくさせてもいいよな?」
男がそう言うと、周りの男達が笑いながら肯定する。
舐められたものだ、とミカは思った。
しかし、舐めていたのはミカ自身だったことに、この後気付かされることになる。
金髪の男が口角を上げると、ミカの足元で爆発が起きる。
その瞬間、ミカの足に激痛が走る。
「…っ!?」
そのまま爆発で吹き飛ばされたミカは、地面をごろごろと転がり、止まる。
(……!? どういうこと? 何が起きたの?)
ミカが足を見ると、その足は吹き飛んでいる訳では無いが、立ち上がろうとすると激痛が走る程度には重症だった。
皮膚は吹き飛び筋肉が丸出しになっており、骨が出ている部分もある。
『リペア』を使って修復することも可能だが、今この場でするのは面倒なことになる。
(今この場は、一旦寮に戻る…!)
「『テレポート』」
寮の部屋に戻ってきたミカは、すぐに『リペア』を唱える。
「はぁっ、はぁっ…」
魔法を唱えると、緑色に光った足はすぐに治っていく。
『リペア』と別に、『ヒール』という魔法も使うことには使えるのだが、『皮膚や筋肉の欠損』を治しているので、今回は『リペア』だ。
では、『ヒール』はいつ使うのか。
切り傷の場合は、『ヒール』が必要になる。
皮膚や筋肉が無くなったわけではないので、『リペア』では修復不可能なのだ。
そして、足が治りきったところで、ミカは再び『テレポート』で同じ場所に転移する。
すると、先ほどと同じ場所に男達は立っていた。
「……足が治ってやがる? どういうことだ」
「何らかの治癒魔法だろ」
「そんなのもこの世界にはあるのか」
ミカが作った魔法だとは知らない男達は、この世界に期待を膨らませていく。
だが、この男達に未来はない。
ミカが『コンバート』させていた剣とレイピアを取り出し、両方とも鞘を抜き放ち二刀流になる。
金髪の男がそれを見た瞬間に、右手をミカに向けようとする。
その瞬間、男の右腕は宙を舞っていた。
「……あ?」
ミカは既に、金髪の男のすぐ近くに立っていた。
ミカは、あの魔物とやることは変わらないと判断していた。
(あの見えない殺しの攻撃を、この金髪の男の攻撃に置き換えて、高速移動して切り刻むだけ。
あの魔物と違って、目で追えないから楽ね)
そして、血が吹き出した腕を抑えて蹲った男の首をはねるミカ。
血がかなりの勢いで吹き出し、辺りを血に染める。
ミカは、手に伝わってきた肉、骨の感触が、これまで斬ってきた魔物とは違った、本物の人間であることを理解し、吐き気を覚えた。
(でも…やらなきゃセフィア達が危ないから)
ミカは心を鬼にして、感情を殺して、次に殺すべき相手に向かって走り出す。
「ひっ…!」
ミカの姿が消えたように見えた男の視界は、次いでグラリと揺れる。
ミカが、首を斬ったのだ。
そこからは、地獄のような惨状だった。
「………」
ミカが殺すと決めていた人間を全員殺し終わり、残っていた人を見る。
その数は2人。両方とも女子だ。
なぜ生かされていたのか。その理由は定かではないが、何かしらの能力を持っていたのであろう。
「や、やだ…」
「殺さないで…っ!」
ミカが見たことで、次に殺されるのは自分だと感じたのだろう。
しかし、ミカに殺すつもりは無い。
剣とレイピアを『コンバート』し、女子達に笑いかける。
「大丈夫、私はあなた達を殺したりしないわ。1つ聞きたいことがあるだけ。いい?」
ミカがそう問いかけると、幾分か安心した2人は頷く。
武器を見えなくするだけで容易く信じるということは、あの男達に何かしら言われていた可能性が高い。
「どうして2人はあの男達と一緒にいたの?」
「わ、私の力が、魔力を回復させる力で…」
「私が、防御力をあげる力だから、です…」
魔力を回復させる力があると言った女子は、黒髪のボブの女子。
防御力をあげる力があると言った女子は、栗色のロングの女子だ。
どちらも可愛い部類であろう女子達だが、今のミカにとってはどうでもいいことだった。
「そう。なら、学院を襲おうとしている人はこいつらで全員?」
「え、えっと…1人、万能系だって言っていた人が、先に学院に…」
「……!!」
(なんてこと…私の作戦ミスよ、これは!)
そして、ミカは2人の腕に触れ、これから起こることを説明する。
「一旦、私の部屋に飛ぶわ。場所が一瞬で変わるけど、戸惑わないでね」
「へ?」
「ど、どういう…」
「『テレポート』」
そして、寮のミカの部屋に飛んだ3人の目の前にいたのは、セフィアだった。
ミカの姿を認めたセフィアは、安心したような顔で言う。
「お嬢様、おかえりなさいませ」
「ええ、今帰ったわ」
2人がそう言う中で、女子2人は「お嬢様?」などと言っているが、それに答えている余裕は無い。
ミカは血まみれになった服をセフィアに脱がさせながら、先程起こった状況を説明する。
その中で、日本人の2人が顔を赤らめながらミカを見ていたことに、ミカは気が付かず、セフィアだけが気づいていた。