57 思わぬ障害です!
前回までの投稿で、誤字と、より分かりやすいものに修正しております!
逆に分かりにくくなっていたら申し訳ないです…
「お嬢様、血が!?」
「いや、これはあっちのだから、気にしないで…ていうか、触ったらあなたも汚れるじゃない」
セフィアに体を起こされたミカは、セフィアの服が汚れることを気にしたが、セフィアは気にせずミカの頬を撫でる。
「お嬢様。お嬢様のために私が汚れることは構いません。それより、お嬢様のでなければ、この血は一体…?」
「そうなのよね。ダンジョン内の魔物は血が出ない…ってことは、そこにいた魔物はダンジョン内の魔物ではないってことになるんだけど」
セフィアは、一旦ミカの側から離れ、死んだ魔物の体を調べる。
その間に、ミカは服を脱ぎ捨て、燃やす。
下着姿になったミカは、『コンバート』させていた予備の服を取り出し、着る。
取り出した服は比較的簡単に着れるタイプのもので、しかもミカが作ったものなので、着られないなんて心配はない。
ミカが着終わると同時に、セフィアが調べ終わったのかミカの元へと歩いてきた。
「確かに、このダンジョン内の魔物では無いようです。新種が現れるなんて話も聞いたことがありませんし…」
「じゃあ、どうしてここにいるの?」
ミカが、もっともな疑問をセフィアにぶつけると、セフィアが困ったように眉を寄せた。
「それが、微量の魔力残滓から分かることは、誰かがここに生み出した、ということしか…」
「………」
それを聞いたミカは、仮説を組み立てていく。
(もし仮に、この奥に入られたくない人がいたとして、その人が生み出した可能性は?
そうだとして、この奥には何があるの? 国をひっくり返すような兵器?)
兎にも角にも、まずは進まなければ何もわからないということは、確かなようである。
ミカは『コンバート』していたセフィアの着替えを取り出し、セフィアに渡す。
「奥に進むから、セフィアは取り敢えず着替えましょう。その後出発するわ」
「はい、わかりました、お嬢様」
そして、セフィアが着替えている間に、ミカは未だに倒れたままの魔物を燃やす。
「……ふぅ」
思ったより魔力を使ったが、そのかいあってか、魔物は燃え尽きたようだった。
それと同時にセフィアが着替えが終わり、ミカの隣に立つ。
「お待たせしました、お嬢様」
「そんなに待ってないわよ。それじゃ、行きましょうか」
ミカとセフィアは、奥に進む。
広場の突き当たりには、確実に人為的に作られたであろう木星のドアがあった。
「このダンジョンの中では生成されないものですね。この中に誰かいる可能性が高いです」
「だったら、先にこれね」
ミカは、『サーチ』を発動し、扉の奥を探る。
扉の奥には、1人が立っており、周りには誰もいない。
今いる広場と同じぐらい広い場所のようだ。
空間も分かるようになった『サーチ』を改めて便利に思いながら、ミカは扉に手を置く。
「それじゃ、行くわよ」
「はい、お嬢様」
ミカが力を入れ、扉を開くと、その先には1人の男が立っていた。
セフィアは、ミカの前に立ち、問いかける。
「何者ですか」
「……え、ちょっと待った。あれを倒したってのか…」
セフィアはその男に警戒心MAXで対応しているが、ミカは半分しか警戒していない。
それは、男がよく見慣れた感じの顔で、服も懐かしい見た目のものだったからだ。
「……転移者…」
男はスーツを着ており、顔は日本人特有の顔だった。
そして何より、男の周りにあるものは。
(あれ、機械でしょ…あんなものこっちに持ち込んでいいの?)
それらの理由から、ミカは日本から来た転移者だと確信した。
しかし、疑問もある。
「……あなたは、ここで何をしているんですか?」
セフィアを下がらせ、ミカが前に出て質問する。
ミカの可愛さに男は一瞬固まるが、すぐに答える。
「もちろん、ここで待っているのさ」
「……」
待っている、とは、言わずもがな日本から来る転移者だろう。
だが、それをミカが知っているとバレると後々面倒なことになる。
ミカは、機械に手を触れ、尋ねる。
「これは?」
「それは、向こうとのリンクをより確実なものにするためのもの、かな。不安定になったら、この世界のどこに飛ばされるのか分からないからね」
「……」
「まぁ、魔法の世界の住人である君には分からないかもしれないけれどね」
男の最後の言葉は無視し、ミカは考える。
いつ来るのかは定かではないが、恐らく近いうちに来る。
だが、本当に来させていいのだろうか。
日本人がこちらに人の力で来た場合、ラノベのように異能力を得るとは限らない。
それに加えて。
(夢の中で殺せ、なんて言われてるし…)
ミカとしては、魔物を殺すことは訳ないが、人を殺すのは避けたい。
しかも、それが同じ人種だったとなれば尚更だ。
であれば、来れなくさせればいいのである。
ただ、それには向こうに妨害しなければならなく、こちらでいくら頑張っても意味が無い。
「……ちなみに、その待ち人は1度でも来ましたか」
「いいや。もう少しで来るけど、それが初めてさ」
男は、笑いながらそう言う。
そこで、ミカは矛盾点を覚えた。
(どういうこと? その『初めて』に私も含まれていたはずなのに、どうして私はここにいるの? それも数年早く…)
ミカは頭をフル回転させて考えるが、その理由は結局分からなかった。
ミカは男に背を向け、部屋の出口へ歩き出す。
「それでは、頑張ってください」
「ああ、言われなくても、頑張らなければ死んでしまうからね」
最後の男の台詞で、ミカは男がどのような立場にあるのか理解し、そのまま歩き出す。
広場を出る間際に、ミカは振り向いて聞く。
「このダンジョンの主がどこか知ってますか?」
「ああ、それは僕だね」
「……では、ここのダンジョンの番号は?」
「んーと、確か…」
ミカが、溢れ出そうになる殺気を押しとどめながら聞くと、男は平然とした態度で言う。
「そうだ。『30』…だったかな?」
その番号を聞いた瞬間、ミカはほんの一瞬だけ殺気を出すが、すぐに気持ちを切り替え、セフィアと共に広場から出る。
「お嬢様…」
扉を完全に閉めたところで、セフィアが小さな声でミカを心配した声を出す。
それに気がついたミカは、あえて明るく振る舞う。
「それじゃあ、セフィア。次のダンジョンに向かうわよ!」
「…はい、お嬢様」
そんなミカの意図を汲み取ったセフィアは、同じように、いつも通り振る舞う。
しかし、ミカの内心は穏やかではなかった。
(人間が主になるなんて、出来るのかどうかは知らないけど、私はそのうち殺さなければならない。
だけど、今の私では、あそこにあった機械を維持する方法は分からないし、維持できたとして、転移してくる日本人たちを上手く誘導できるとは限らない)
ミカは、取り敢えず転移者の面倒をあの男が見きったところで、始末しに来ようと考えていた。
目的である『30』のダンジョンをクリア出来ないことにガッカリしながら、ミカはセフィアと共にダンジョンから出てきた。
「お嬢様、次はどうなされますか?」
「んー…『テレポート』で来ようと思えば来れるから、とにかく今は家に帰りましょうか」
色々と物資に補給もしなければならないと考えたミカは、学院の寮ではなく、自宅へと帰ることを選んだ。
『30』のダンジョンがクリア出来ないのならば、他のダンジョンをクリアすればいいだけの話。
ミカは、そう考えることで、だいぶ気持ちが楽になっていた。