53 酒場に突撃です!
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蛇に睨まれたカエルよろしく、ミカは多数の目に晒されて動けなくなってしまった。
(無理無理無理! こんなに人がいるなんて聞いてない!)
ミカは、表情をピクリとも変えずに動けなくなっているので、外見はまだいいだろう。
ただ、入口で扉を開けたまま動かないのが謎であるが。
しかし、酒場にいる人たちには、ミカの姿はまた別に捕えられているようだった。
「おい、あの子は…?」
酒場にいる、1人の男が言う。
そして、彼の隣にいる別の男が、それに答える。
「わからねえ。だが、ただもんじゃなさそうだ…」
ミカはまだ7歳とはいえ、外見は中学生ほどで、銀髪青眼だ。
普通ではない、と思われるには十分な材料は既に揃っている。
それに加えて、眉すらピクリとも動かさいミカ。
また別の男が、意見を口にする。
「これは俺の良そうなんだが…あの子は、俺達の視察に来たんじゃないのか?」
「視察?」
「ああ。おかしいだろ、あそこから動かないなんてよ…」
視察とは、どこから、誰に使わされて来たのか、などとおかしな点は色々あるが、今この場では、それが最もすんなり考えられるものだった。
そして、また別の男が、ポツリともらす。
「天からの使者…?」
「……」
「……」
さすがにそれはない、と否定したかった酒場の男達だが、ミカの容姿が、否定しようとしていた男達の考えを覆していく。
天からの使者。
そう言われた男達には、ミカの美貌も相まって、天使にしか見えなくなってしまった。
「お嬢様」
「はっ、なんでもないわよ」
ミカの後ろからセフィアが声をかけ、ミカは我に返る。
(ふぅ…セフィアがいなかったら、1日ずっとここに立っていたかもしれない)
セフィアに正気に戻されたミカは、カウンターに向かって歩き出す。
その間も見られているが、ミカは全て無視することにした。
それが出来るなら最初からした方が良かったのでは、とセフィアは思ったが、思うだけだ。
口にはしないし、ミカのすることは全てセフィアにとっては正しいことである。
カウンターまで来たミカは、椅子に座り、店員であろう人に向かって言う。
「メニューって、あります?」
「……こちらでございます」
ミカとしては真面目に言っているつもりなのだが、店員にとってはそうではなかった。
店員は、試されていると考えていた。
先程、男達の間で浮かんだ『天からの使者説』。
店員であるこの男も、また緊張していたのだ。
できるだけ綺麗なメニュー表を手に取り、ミカに渡す。
それを受け取ったミカは、自分でも飲めそうな、アルコールの入っていない飲み物を探す。
ここは酒場なのだが。
「……この、ジンジャーエールを2つ」
「かしこまりました」
運良くジンジャーエールを見つけたミカは、それを2人分注文する。
もちろん、ミカとセフィアの分だ。
セフィアはそれを最初聞いた時は、ミカの分だけ頼んで欲しい、と伝えようと思ったが、それも止める。
こうなった場合、ミカは譲らない時が多い。
特に、セフィアが遠慮した時だ。
なので、セフィアは素直にミカに感謝を告げる。
「ありがとうございます、お嬢様」
「何言ってるの、当たり前じゃない」
一般的な主従関係の間では、ミカとセフィアの関係の方が異質なのだが、ミカはこれが当たり前だと信じ切っている。
「ジンジャーエールでございます」
「ありがとう」
店員から受け取り、ミカとセフィアは1口飲む。
そして、小声で相談を始める。
「それではお嬢様、始めましょう」
「……そうね。それじゃあ、ついてきて、セフィア」
「お嬢様、ここは別行動をした方が、時間の短縮に繋がりますが」
セフィアのそんな提案に、ミカは『ダメだ』とは言えなかった。
確かに、そちらの方が効率がいいのはわかる。
だが、ミカは単純に不安だった。
(でもでも、私には魔法があるし…大丈夫、大丈夫…!)
そして、冷や汗をたらしながら、ミカはセフィアに許可を出す。
「ええ、わかったわ。ある程度情報が集まったら、外に出ましょう」
「はい、お嬢様」
セフィアはミカから別行動の許可を得ると、すぐにその場から離れていった。
そんなセフィアの後ろ姿を見て、ミカも覚悟を決める。
(メイドのセフィアが行ったんだもの。主である私が行かなくてどうするの)
ミカはジンジャーエールを一気に飲み干し、炭酸が弾ける感覚を喉で直接味わい、涙を滲ませながら、席を立った。
結論から言おう。
「簡単に喋るのね」
ミカが得たかった情報は、『30番目のダンジョン』について。
だが、話しかければ、情報料を渡す前に全員喋り、喋り終わったと思い、ミカが情報料を渡そうとすると、いらないと拒否される。
ミカは、最後まで首を傾げることになっていた。
とはいえ、知りたいことは知れたミカは、酒場から出る。
するとそこには、既にセフィアがいた。
「セフィア、早いわね」
「そうでしょうか。お嬢様も流石です。普通はあんなにすぐに情報を集めることは出来ないですよ」
「そうなの?」
とはいえ、今大事なのはそこではないだろう。
ミカは、入手した情報をセフィアと照らし合わせるために、どこか宿を取ろうと提案する。
「わかりました、お嬢様」
セフィアはそれに対して異論ははさまず、すぐに宿を探す。
ミカはそれについて行くだけだ。
(『30番目のダンジョン』……まさか、そんなことになってたなんて)
複数人から得た情報を重ね合わせ、ミカが最終的に分かったことは、思っていたよりも複雑なことになっているということだった。