5 魔法を使うんです!
今日は3本上げます!
「あだっ」
昨日、父であるアーリアからプレゼントといわれて貰ったものに期待に胸を膨らませてあけたものがバカ重たい剣だったのでそのまま寝たのだが、ベッドに置いたのがまずかった。
寝がえりをうったミカは、剣に自ら衝突してしまったのだ。
恨めしそうな顔で起きあがるミカ。可愛い顔が台無しである。
「...この剣、私には必要ないよね」
ミカの父である光が、子供たちをこちらに送り込んで何をしたかったのかは今もわからないが、少なくともミカはもう日本人でない。
自分が住んでいる国の名前すら知らないし、魂は勝本美香のそれなのだが、とにかく日本人ではない。
ミカは、自身の力では持ち上げられない剣をどうにかベッドから落とし、そのままベッドに下の部分に入れる。
当分必要ないだろうと判断したのだ。
「今は剣よりもしたいことがあるし」
そういうとミカは、自分の部屋から出て、2人のもとへと歩いていった。
ミカの誕生日はもう少しで来る。具体的に言うとあと1週間だ。そこで6歳になる。
この世界でも、7歳になる子どもたちはみな、初等学院とやらに通うのだ。そうなると、あと1年でミカは初等学院に通うので、それまで何も無いかというと、そうでもない。
(6歳になる子どもたちは、初等学院に行く前に、自分の能力をチェックされるのよね)
チェックされる能力は、どの属性が一番向いているのかということ。
ミカは体質で別れるものなのだろうかと疑っているが、確かに、体質ではない。
これは、イメージの問題なのだ。
人によって、火をイメージしやすかったり、水をイメージしやすかったりと、しっかり頭で捉えられるかが重要なのだ。
なので、風魔法という、目に見えない魔法を使える人は重宝されるのだ。
(でもまあ、なんとなくだけど、お母様に言ったら魔法とか教えてもらえそうだし、聞いてみちゃいましょう)
ミカはそう判断すると、朝ごはんを片付け終わったタイミングでジェイナに声をかけた。
「お母様、私、魔法を教えてほしいの!」
「...そう、こっちにいらっしゃい」
ミカが用件を伝えると、ジェイナは一瞬周りに目を配りながら、ミカを笑顔で手招きする。
それに素直についていくと、ジェイナは自身の部屋へと歩き出す。
「あれ、ここお母様の部屋?」
「ええ、ここには、魔法が記された本がたくさんあるわ」
ジェイナがそういうと、ミカは外には出さないが、内心喜び舞っていた。
(キャー! こんな近くに魔法の宝庫があったのね!)
日本人の体ではないミカは、魔法が使えるということを確信しているため、どんな魔法が使えるのかと内心ドキドキしながら舞っていたのだ。
そして、ジェイナはミカがそんなことを考えているとはつゆ知らず、適当なところから本を一冊、棚から抜き出し、ミカに渡す。
それは、子供には少し重量感があるものだった。
日本で使っていたもの、辞書に近い。
「お、お母様、これは...」
「魔法のことが書いてあるわ」
「....」
思ったよりも重量感があった本に少し驚きながらも、ミカは本を開いた。
そこにあったのは、文字の羅列。
(...なんじゃこりゃ)
日本語で書いていないことはわかるが、文字を認識し、理解できるのはありがたい。それはありがたい。しかし、それとは別問題だ。
ミカは、特に勉強が好きだったというわけではない。どちらかというと、友達づくりのために勉学をおろそかにしていたタイプだ。
そのせいで母親には迷惑をかけたことも多少はあったが、ミカは誤差の範囲だと考えている。
そんなミカが開いた辞書のような本は、本当に辞書のような感じだった。
(魔法のことは載っている。発音のことも載っている。ただ、それがどんな魔法かは載っていないのね)
ミカが想像していたのは、魔法の図鑑のようなもので、それぞれの魔法の説明の下に、どんな魔法か簡単にわかるように絵が描いてあるものだと思っていたのだ。
それが、開いてみれば、ただの文字の羅列。
ミカは、少し残念そうに本を閉じた。
「あら、やっぱり難しか...」
「お母様、少しこれをお借りしますね」
「...ええ、いいわよ」
そうして、ミカは自室にこもり、ひたすら魔法の練習に励むことにした。
「まずは、何が無難か、よね」
魔法が書いてある本をベッドの上に開いて置き、ねそべりながらパラパラめくっていくミカ。
勉学が出来ないミカだが、基本はしっかり抑えている。故に、基本の重要さもわかっているのだ。
四則計算ができない人が、二次方程式なんかを解けるわけがないのと同じだ。
「やっぱり、簡単なのは、最初にあるのかな。というか、この本の読み方とか説明してくれてもいいと思うのだけれども」
どうやら、この世界は日本ほど優しく作られていないようだ。人は同じぐらいに優しいのかもしれないが。
ミカは、最初のページに書いてある魔法を覚えることにし、他の魔法を見ることはいったん止めることにした。
(どうせ全部覚えるんだから、関係ないよね)
これを全部覚えられるのなら、この世界では神様の扱いを受けるのだが、ミカはそうとも知らず、魔法をどんどん口にしていく。
だが、いくら詠唱、もとい魔法名を口にしても、特に何の変化もない。
「これは...まさか、私が魔法を使えない体質!?」
ラノベを読んでいたミカは、異世界には魔法を使えない体質の人が出てきたことも知っていた。
しかし、本当に存在するとは。異世界に行くことがまだ出来なかった時代に、どうやってここまで異世界のことについて詳しくなったのだろう。
元は、人間の想像の範囲を出なかったはずなのに。
「でも、そうなると、いよいよ私に残された道はこれしか...」
ミカは、ベッドに目を向ける。正確には、その下に眠っている、アーリアから送られた剣を。
しかし、剣を持てないことには、話にならない。
(...もしかして、適性の問題なのかな)
いつやるのかは知らないが、ミカもいずれはやるであろう適正審査。
自分が向いていない属性は使えないという話ではさすがに無いと思うが、ミカはその可能性を考えなくてはいけなかった。
(...どうしよう)
とにかく、他の属性で魔法が使えないかどうか試してみるミカだった。
「ファイア! ウォーター! ウインド! アース!」
ミカの声が、ミカの部屋で鳴り響く。
実際にその場で火が出たらどうする気なのだろうかという話は置いといて、ミカはとにかく魔法を唱えていた。
しかし、どれもピクリとも反応しない。
「ど、どういうことなの...」
ついに、その場に膝をついてがっくりと項垂れるミカ。
自分が魔法が使えないとは想像もしていなかったのだろう。
後残っている魔法と言えば...。
「強化魔法、か...」
強化魔法とは、魔法と言われて想像するような、火を出したり水を出したりとは少しベクトルの異なった魔法だ。
魔法を唱えると、術式がその場に出現し、魔法が発動する。一般的には片方の手を出して、そこに意識を無意識に集中させて、術式を発動する。
しかし、強化魔法は、術式が体の中に出現し、発動する。
それゆえに、もし仮に強化魔法以外の魔法が体の中で発動した場合、それなりのリスクがあるということで、使用は推奨されていない魔法だ。
しかし。
「これ以外に魔法ないし...というか、他の魔法が使えないのならリスクもないし」
その点だけ考えると、少しは前向きな気持ちになれたのか、少し上機嫌に魔法を唱え始める。
「まずは、『筋力上昇』」
ミカが魔法を唱えるが、特に何も起こらない。
ミカは改めて本に目を通すと、『強化魔法は外見ではかかったかどうかはわからないので、実際に試してみた方が早い』と書いてあった。
それで怪我とかしたらどうするのだろうとミカは思ったが、そもそも死ぬかもしれないリスクを背負っているのだったかと思いなおした。
そして、ベッドの下にある剣を引きづり出そうとして、持った。
「........」
それはもう、完璧に、軽々と持った。
昨日もらった時はあんなに重くて、つい落としてしまうほどだったのに。
ミカは、まったく重さを感じさせないスピードで振る。
それが段々と楽しくなってきたのか、つい調子に乗って、ゲームとかで見たことのある技を真似し始める。
自分でも様になっているような気がすると、なんとなくドアを目にした時、そこには涙を流しながらこちらを見ているアーリアと、どこか諦めた顔でこちらを見ているジェイナがいた。
説明に関して少し雑かもしれませんが、後々詳しく出てくるので、勘弁してさい!