48 ガトーショコラです!
ガトーショコラ。実際に使ったことはないんですが、ケーキを食べられない私が唯一食べられるケーキです。
そして、ミカの好物でもあります。
頭の中で、調理するBGMを流しながら、ミカはケーキを作る。なんちゃら伝説とかいう番組だったはずだ。
元々、日本でもお菓子作りは趣味で作っており、ミカ自身も中々の出来だと自負していた。
今回作るのは、ガトーショコラ…に似た何か。
チョコとは言わないらしいが、見た目と味は完全に同じな素材を使って作る。
卵が日本のものとは少し勝手が違ってくるが、それ以外の素材もほぼ変わらない。
ミカの手馴れた手つきに、セリナは目を丸くしている。
「……ミカ、今何歳?」
「今? えーと、7歳、かな」
(もうちょっとで高校生の時の年齢を言うところだった…)
未だに、今何歳?と聞かれると、元の年齢を言ってしまいそうになるようだった。
そして、数十分後。
ミカ特性のガトーショコラが完成した。
もちろん、セフィアとセリナの2人分だ。
ミカは、2つとも皿に乗せ、セリナに言う。
「それじゃあ、教室に行きましょうか」
「ん、わかった」
セリナは素直についていき、2人は教室へと向かった。
そして、教室のドアを開けると、盛大に2人は怒られた。
「それではお嬢様、こちら本日のデザートになります」
「は、はい。ありがとう、ございます…」
「はい、セリナも」
「ありがと」
授業終了後。
ミカは、セフィアとセリナに渡し、味の感想を待っている。
セフィアは少し戸惑いながら受け取ったが、セリナは嬉々として受け取り、すぐさま食べ出す。
その顔は、幸せを体現しているかのような表情だった。
「おいしぃ…」
「本当? ありがとう、セリナ」
「はっ!」
ミカとセリナのやり取りを見て、セフィアはハッとした。
ミカにお礼を言っていないのだ。
それに加えて、『おいしい』とも言っていない。
これではメイド失格だ、とセフィアはすぐにガトーショコラをフォークで切り分け、口に運ぶ。
「…! お嬢様、とても美味しいです!」
「ありがとう、セフィア! …じゃなくて、お嬢様」
「いえ! もうやめましょう!」
セフィアは、もう限界だった。
元々、セフィアの過労を何とかしようとミカが考えたこの入れ替わりだ。
確かに、セフィアの疲労は取れた。
ミカの世話をしたくてもさせなかったミカのおかげで、睡眠も取れた。
だが、それは同時にストレスでもあったのだ。
生きがいを、奪われていたに等しかった。
「……そうね、もうやめましょうか」
こうして、2人は元に戻った。
同室のジェシカは、元に戻った2人を見て、心底安心していた。
「本当に、いつまでやっているつもりなのかとハラハラしていましたわ」
「えっと…ごめんなさい?」
ミカがなんとなく謝ると、ジェシカは1つ提案をしてきた。
「……悪いと思っているのなら、1つ頼まれてはくれませんこと?」
「? ジェシカ先輩の頼み、ですか? いいですよ」
そして、安請け合いしたミカは、その日のジェシカの抱き枕と化した。
「なんで?」
ちなみに、ミカのベッドではセフィアが眠っている。
「お嬢様、こちら本日のデザートでございます」
「ええ、ありがとう」
元の関係に戻った2人は、元の過ごし方に戻っていた。
とはいえ、変えたところもある。
セフィアが、ミカのためを思って何かしらしてくれているのは、ミカとしてはとてもありがたい。
しかし、今回はそのせいで、過労となってしまった。
なので、ミカはセフィアに1つ約束させた。
『私がしてって言ってないことは、極力しないこと、いいね』
『…はい、お嬢様』
ミカがそれを言った当初は、一瞬不服そうな顔をしたが、すぐに了承した。
元に戻ってから既に数週間が経過しているが、セフィアの健康状態に変化はない。
(そういえば、以前『スキャン』を使ってセフィアの状態を見たけど、あれって実際にはセフィア自体を見ているわけではないのよね)
『スキャン』は、精霊を見る魔法だ。
これを応用し、セフィアの体の中の精霊を見る。
各属性の精霊の異常を読み取って、どういった状態なのかを探るのだ。
全属性使えずとも、体の中には精霊がいる。
その点に関しては、誰にでも使えそうな魔法だった。
(さて、今日は何をしようかしら)
ミカは、現在、初等学院の庭を散歩中だ。
もちろん、授業中ではあるのだが。
「……」
「……」
そして、セフィアも何も言わない。
そもそも、ミカには、今進めている範囲の教養は必要ないことは、2人とも知っているのだ。
知りすぎるというのも、問題である。
(楽しみがなくなる、という感じね)
勉強が楽しみとは、日本に居る時のミカが聞いたら卒倒するかもしれないセリフが、今ではすんなりと出てくる。
「本格的にすることがないし…訓練でもしようかしら」
新しい魔法を作ることも、ミカは自粛することにしたので、暇を極めそうになるほどに暇であった。
ただ、ミカは戦いが好きな訳では無い。
自衛のために、訓練をするのだ。
『コンバート』させていた剣を取り出し、ミカは我流の振り方で訓練を始める。
まずは、強化魔法抜きである程度の強さが必要だろう。
「ふっ、はっ」
剣を振り、次に自分が振りやすいように体の向きを気をつけ、また振る。
これを繰り返すだけでも、訓練にはなる。
それな加え、ミカの場合は魔法も使える。
魔法も織り交ぜた剣術となると、全て剣で埋めるのではなく、魔法を使う時間、空白を残しておくことが、重要になる。
これは実践であれば、より良いのだが、いかんせん相手がいない。
ミカのレベルにあった相手がいない、というのもあるが、単純に今は授業中なのである。
「…ふぅ」
軽く汗をかいたところで、ミカは剣を『コンバート』し、セフィアからタオルを受け取る。
「お嬢様、強い相手を求めているのですか?」
「そうなのよね。お父様とかどうかなって思ったんだけど、今どこにいるのかわからないし…」
「お父様でしたら、この国の近衛兵長になられておりますが」
「……」
近衛兵とは、国を守る兵のことだが、それの長になっていたようだ。
ミカは、そんなの知らない、と言わんばかりに首を傾げる。
「…? お母様もそんなこと言ってなかった気がするんだけど…まあいいわ。会いに行きましょう」
「今から、ですか?」
「いえ、先に担任に一言言ってからにしましょう」
そうして、教室に戻ったミカは普通に怒られた。
授業を理解していることと、サボることは単純に別物である。




