35 帰省の準備です!
短め…だと思います!
11月の末。
ミカはバティスタに呼ばれていた。
「あの、ミカ・ヴァルナです」
「入りたまえ」
ミカはバティスタがいる部屋に来て、中に入る。
「失礼します」
その顔に、緊張だと言ったものは見受けられない。
怒られるわけではないと確信しているようだ。
「さて、ミカ君」
「はい」
「君は、ここを卒業後の進路は決まっているのかね?」
「……進路?」
ミカを呼び出した理由は、ミカが将来何を目指しているのかを知りたかったからだった。
単純な話、ミカはどの業界でも欲しがられているのだ。
まだ7歳なのだが。
悪魔を消し去るほどの威力を誇るオリジナル魔法が使えることや、回復不可能と言われた動かない左腕の治療など、ミカは多才だ。
それに加えて、容姿も完璧ときた。
これはもう、スカウトしてイメージガールにするしかない、という魂胆だ。
それを知っているバティスタは、怪しいところに声をかけられる前に、自分で考えて欲しいと考えたのだ。
ただ、相手は7歳だが。
「いえ、特に決まっていませんが。とりあえずは、家でお母様のお手伝いでも出来ればと」
「うむ、それがいいだろう」
バティスタとしては、1番安心する答えだ。
ミカの力は強大すぎる。強すぎる力にはそれに比例した責任が伴う。
ミカはそれを理解しているが、他の大人が、理解していることを理解しているとは限らない。
正しく理解しているのは、ジェイナとセフィアぐらいだろう。
「未来は、君がゆっくりと決めてくれ。…話は以上だ」
「? 失礼しました」
話が終わると、ミカは部屋を出ていく。
バティスタは、これからどうなるのか、ストレスで胃を痛ませていた。
バティスタから呼び出された用件が終わったミカは、いつも通り昼寝のスポットへと向かう。
この知識でも、やはり1年を通してもあまり気温の変化はないようだった。
「さて」
いつもの昼寝スポット。
風通しがいい木の下で、ミカは本を読みながら寝落ちする、そんな生活を続けていた。
まさに自由に生きているミカだった。
しかし、そんなミカを見ても、他の生徒は『天使だ』としか言わないのだが。
「すぅ…」
「お嬢様…」
そして、ミカが寝ると、セフィアが隣に座る。
メイドとして、主人が寝る前までは、どんな時でも起きていなければいけない。
しかし、今は。
「すやぁ…」
「……」
セフィアは、いつもの通りミカの寝顔を少し眺めた後、セフィアも寝た。
いつも一緒にいる2人の絆は、一生離れることは無いだろう。
初等学院のイベントらしいイベントは、もう無い。
敢えて言うなら、年の切り替えで少し慌ただしくなるぐらいだろうか。
そして、まさに今がそうだった。
「お嬢様、こちらを」
「あ、ありがとう」
つい先程終業式を終え、それぞれ1月明けまで家に帰るなり、寮で過ごすなりして、2年生になる。
ミカは、自宅に帰るようだ。
セフィアからペンを受け取り、ミカはカバンに入れる。
そして、『コンバート』させる。
これでいつでも移動可能だ。
しかし、それより先にやることがある。
「この部屋の掃除ね」
「お嬢様、それぐらい私にお任せ下さい」
「いいから。私がやりたくてやるの」
「……わかりました。私もお手伝い致します」
そして、ミカとセフィアは自室の掃除を始める。
ちなみに、ジェシカは既に自宅に帰宅済みだ。
でなければ、ミカが掃除をするだなんて言い出すわけがない。
ベッドを一時的にコンバートし、床のゴミを掃いていく。
思ったよりも、簡単に綺麗になりそうだった。
「意外と綺麗なのね」
「私がいつも掃除をしていますから」
「さすがセフィア」
そんな感じの会話を続けながら、掃除をしていくミカとセフィア。
そして、掃除が全て終わると、ミカはベッドに寝転がる。
「ふぅ…疲れたわね」
「お茶をお飲みになりますか?」
「そうね…お願いするわ」
そう言いながら、ミカは起き上がる。
ミカにお願いされたセフィアは、慣れた手つきでお茶を入れ始める。
その間、ミカは考え事をする。
帰ってからの予定だ。
(まだ契約していない魔法は、青と黄。帰ってからでも契約は出来るだろうから、焦ってやる必要はないけど…あとは、魔力の調整をもっと上手く、かしら)
『マジック・アサインメント』のおかげでだいぶ魔力というものを理解したミカは、魔法を唱える際、パワーセーブをすることが可能となっていた。
今までは無意識に全力だったものをセーブできるようになったことで、ミカの魔力効率はかなり向上した。
そもそも、火属性の初級魔法を唱えたら上位の魔法に届くという時点で効率が悪い。
セフィアが入れたお茶を受け取り、ミカはさらに考えていく。
(魔力の調節を出来るようになったおかげで今ではこんなことも…)
ミカは立ち上がり、窓を開けて魔法を唱える。
「『イクス・マグナ・レイ』」
ミカが手を突き出して唱えると、手のひらから人間の顔サイズのレーザーが射出される。
これだけでも人間は簡単に殺せるだろうが、ミカとしてはだいぶ手加減した方だ。
「これはかなり便利そうなのよね…」
「お嬢様は、ダンジョンに潜るんですか?」
「ダンジョン?」
と、ミカの耳に聞きなれない、ある意味では聞き慣れていた単語が飛び込んできた。
セフィアが、ダンジョンの説明を始める。
「はい。ダンジョンとは、魔物が無数にいる塔のことです。最上階には、ボスというものが待ち受けており、そのボスを倒せば、強力な装備などが貰えるとの話です」
「へぇ…」
しかし、とセフィアは話を続ける。
「しかし、ダンジョンをクリアしたことがある人は右手で数えることが出来るほどに少ないです。それほど、難しいのです」
「なるほど…」
とはいえ、強力な装備と言われると、ミカの血が騒ぐのだ。
(これは…行くしかないんじゃない?)
幸い、ミカが今考えている魔法も実用段階へと進んでいる。
ミカは、帰省した後、ダンジョンへと向かおうと考えるのであった。