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3 異世界へと出発です!

今日中にもう1回ぐらい更新出来たらします!

「諸君には、ここでしばらく待機してもらう。異世界に移動する際に、適性があるのかどうかは不明だが、その際は学校に戻れないから、その心づもりでもしていてくれたまえ」


光は、それだけ言うと、扉へと歩いていき、そのままどこかへ行ってしまった。

その後ろ姿を見つめながら、美香は改めて思う。


(何か一言、私に声をかけてくれても...いいと思うんだけどな)


いくら接点が無かったからと言っても、父親だ。多少の思いはある。


「本当なら、今頃教室で自己紹介をしているかもしれなかったのかな」


「そうかもしれないね」


美香がそんな風にブルーになっていると、後ろから声をかけられた美香。


美香が後ろを振り向くと、そこには、体育座りで顔を伏せている女の子...がいた。

長い髪の毛で、しかも顔を伏せているため、顔はなおさら見えにくい。体育座りなので、胸周りを見られない。性別の判断は少し難しかったが、美香は声と髪の毛で判断したようだった。


美香も、その女子の隣に座る。


「よいしょっと...もしかして、君も友達作れなくて落ち込んでる感じ?」


「...逆」


「逆?」


美香が友達作りたい方針ならば、その逆は私に関わらないで方針だろうか。

美香がそう考えると、その女子は自分の名前を言った。


「小林みかん。私の名前」


「みかんちゃんか! 私美香!」


「...教えるべきじゃなかったかも」


このとき、みかんは、異世界に移動した際に、使える人物かどうかは別として何らかしらの人脈を持っていた方が良いと判断したためなのだが、この時の美香は、移動した後のことなんて何も考えていない。

無計画な人生を今まで歩んでいたのだ。


しかし、そんな将来のことなどまったく心配せずに、美香は話を続ける。


「美香とみかんって、なんだか似てるね!」


「え、そ、そうかな...」


未だに顔を伏せながら話すみかんと、みかんの方を見ずに、上の方を見ながら話す美香。コミュニケーションというものを初めてとったのかというぐらいに会話が下手である。


そこで、みかんが顔を上げる。

その動きに気づいた美香がそちらを向き、お互いに目が合う。


「...」


「...」


そして、お互いに何を思ったのかは知らないが、少しの間目を会わせ続け、美香が何かを言おうとした時、突然大声が鳴り響いた。


「おい、調子こいてんじゃねえぞ!」


「ひいぃ、ごめんなさぃ」


大声がした方を見ると、いかにもヤンキーの男が、細身の男の胸倉をつかんでいた。

その様子を遠巻きに見ている他の子供たちだが、大人はいないのだろうか。


「止めないと...」


「いって、どうするの?」


「で、でも!」


美香がそれを止めようと立ち上がると、服の端をみかんに掴まれその動きを止められた。

みかんは、表情の読み取り辛い顔で話を続ける。


「今止めに入ったところで、何の力もない美香は殴られておしまい。被害者が増えるだけ。ここが異世界ならまだ話は別かもしれないけど」


「...」


みかんの言うことはもっともだ。

あれを止められるだけの力が無い美香では、普通に返り討ちにあうだけだろう。


それならばと、美香は辺りを見渡す。

あのヤンキーよりも力のありそうな人を探すためだ。

子供じゃなくてもいい。大人でも誰でも。今この惨状を止めなくては、美香の気が済まない。


「いっぺん、その体にしみこませねえとねぁ!」


「ああぁぁぁぁ!?」


いよいよ、ヤンキーが細身の男に拳を振りおろそうとしていた。

美香はそれを見て、誰かに助けを求めるのは不可能と判断、すぐに走り出す。

しかし、美香とヤンキーまでの距離は約20m。ここからでは到底間に合わない。


(それでも、見過ごせない!)


美香が決死の表情で駆け出したその瞬間、先ほどのヤンキーの声よりも大きく、それでいて威厳にあふれた声が響いた。


「そこまでだ!」


美香が振り向くと、そこに立っていたのは、短く白の髪に、深く生えたひげ、緑色の軍服を身にまとった、美香の祖父、勝本剛毅だった。








剛毅がその場を収め、ようやく静かになったところで、美香は剛毅に駆け寄っていく。

その姿を剛毅が認めると、その顔はすぐに優しそうな顔になる。


「おお、美香。元気にしていたか?」


「うん、元気。...なんだけど、少しブルーかも」


「...ああ、そりゃあな。すまねえ」


「いや、おじいちゃんが気にすることはないよ」


美香がブルーだと伝えると、剛毅はとても悲しそうな顔をした。

異世界に行く側でもないのに、行く人よりも悲しそうな顔をしているので、美香は剛毅に謝ってしまった。


黒服に連れてこられた時にもつい謝っているが、これは癖なので、簡単に抜けるものではないだろう。


「だが、安心してくれ。美香はわしが責任もって送り届ける。特注のスーツもあるしの」


「あはは、ありがとね」


剛毅の美香に対する入れ込みに対し、その本人は苦笑いで対応するしかない。


美香の父親が美香に無関心すぎるなら、美香の祖父はその逆、関心を持ちすぎなのだ。

怪我をして、それが祖父の耳に入った場合、軍の医療スタッフを連れて家に突撃してきたこともある。

ちなみに、その時の怪我は包丁で指を少し切った程度のけがだ。


「...なんとか、美香はこっちに残れるようにしてみたんじゃが、無駄でなあ」


「ううん、そこまで私のためにしてくれる人なんて、おじいちゃんしかいないよ。ありがとう」


「うっ...くぅ...美香は可愛いのぉ...」


美香が素直な気持ちで感謝を伝えると、剛毅はその場で膝をついて泣き始めてしまった。

周りにはまだ人がいるというのに、どうして目立つ行為をするのだろうか。つい先ほどヤンキーの暴行を止めたばかりなのに、それを泣かせる美香のような構図になっている。


(やめて~!! 私のことが大好きなのはわかったから泣かないで~!)


と、美香が内心焦っていると、後ろから声がした。


「その人、知り合いなの...?」


みかんだ。


美香は後ろを振り向くと、みかんに剛毅の説明をしだす。


「この人は勝本剛毅。私の祖父で、本当の娘のように可愛がってくれるの」


「...そうなんだ」


美香の説明を聞いていたみかんだが、その顔はどこか悲しそうだった。


「...?」


「美香、この子は、美香の友達か?」


そして、剛毅からも質問が来る。


「うん、そうだよ」


「え、ちょ、ま」


「そうかそうか! ならば、わしの娘と同様、わしのことをおじいちゃんと呼んでくれてもよいのじゃぞ!」


美香が友達だと肯定すると、みかんはそれを「さっき話したばっかじゃん」と否定しようとしたのだが、コミュ症の弊害で上手く言葉に出来ず、剛毅が信じ切ってしまった。


しかし、その顔はまんざらでもなく。


「...考えときます」


「おお、おじいちゃんよかったね」


「うむ! みかんとやら、異世界に行って不安になったら、わしに通信するとよい。いつでも悩みを聞いてやろう」


それは普通にありがたかったので、みかんは素直に感謝しておくことにした。


腰を90度に曲げて、礼を口にするみかん。


「ありがとうございます、おじい様」


「おじい様!」


「みかん、そこまでしなくても...」


剛毅は、「おじいちゃん」ではなく、「おじい様」という言葉のパワーに衝撃を受け、美香はみかんの礼に対してツッコミをするのだった。










「ふむ、そろそろ時間かの」


「時間?」


ふと、剛毅が自身のひげをなでながら、そんなことを言い出した。

時間とは、まぎれもなく、移動する時間だろう。


「うむ。移動の時間じゃ」


(やっぱり)


美香は、自身の予想が合っていたことに喜ぶ暇もなく、剛毅に抱きつく。


「おじいちゃん、向こうでもよろしくね」


「...うむ、わしが傍におる」


それだけ言うと、美香は剛毅の傍から離れる。

その後ろでは、みかんが何かを言いたそうにもじもじしているが、その何かを言う前に、光の声が響いた。


「諸君、いよいよ移動する時間だ。職員の指示にしたがって、指定の場所に移動したまえ」


それだけ言うと、美香には一瞥もくれずにそのまま歩き出す。

そのあとを職員が数名ついていき、他の職員がここにいる子供たちに指示を出し始めている。


それを見た剛毅が、少し寂しそうな顔をして、美香を見る。


「すまんなぁ。わしの教育が間違っておったのかもしれん」


「ううん、気にしないで。昔からあんな感じだったから、私も気にしてない」


美香が言うことは嘘ではないが、嘘でもある。


昔からあんな感じだというのは本当だ。

しかし、学校の行事があるごとに、父親が来てくれるかもしれないと期待し、来なかったときのあの感覚。

母親が来てくれるだけでありがたいのは美香には理解できているのだが、どうしても、周りの子が父親に頭をなでられているのをみて、羨ましくおもったことは両手では数えきれない。


そんな美香の手を、みかんが握る。


「...何があったのかは知らないけど、大丈夫、だと思う」


みかんが少し恥ずかしそうに、顔を紅く染めながら言う。

その言葉で、美香は胸が軽くなったような気がした。









移動させられた場所は、少し薄暗い場所だった。

美香たちが指示された場所には、人が1人ぶん入れるカプセルのようなものがたくさん鎮座している場所で、ここに来た子供全員が、その場の雰囲気に呑まれている。


「さて、諸君にはそこのカプセルに入り込んでもらう」


光が言う。

美香はどこにいるのかと視線を巡らせるが、どこにいるのかはわからない。


「美香、これを」


「...これって」


そして、美香が祖父の剛毅が何かを手渡す。それは、先ほど言っていた、特性のスーツというものだった。


あえて説明するのならば、人型決戦兵器に乗るパイロットスーツのようなものとでもいえばいいのだろうか。

美香はそれを複雑な気持ちで眺めながら、剛毅に礼を言う。


「え、っと...ありがとう」


「おう!」


「...」


そんな美香と剛毅のやり取りを、みかんは冷めた目で見ていた。











「それでは、転移を開始する」


カプセルの中に入り、その蓋を閉じると、中のスピーカーから光の声が聞こえる。

いよいよ、異世界へと移動するのだろうか。


「...怖いなぁ」


美香の気持ちはしょうがないものだろう。

未知のものは誰しも怖いもので、それも高校生になりたての少女ならばなおさらのことだ。

というか、異世界に行って、この国は何をさせるつもりなのだろうか。


(まさかだけど、そっちに人を移す、とかじゃないよね)


美香が考えたそれも、可能性が無いわけではない。

日本が戦争を放棄しているのはこの世界だけの話であって、向こうでは話が別になるのかもしれない。

しかも、向こうと戦争をする場合、実際に戦争をするのは。


「私達、か...」


もしそのように行動するような命令が下ったとしても、どうせ大人たちはこちらには来れないのだ。

その場で実際に行動するのは美香だということも、美香は理解している。

だが、理解しているだけだ。


機械の音が大きくなっているのがわかる。カプセルの中が明るくなる。

それと同時に、着ているスーツも光っているのがわかった。


「...え、なんで光ってるの?」


その疑問が解決することなく、


「転移、開始します!」


女性のアナウンスの声が響き、


「っ!」


重たい衝撃が美香にかかったところで、美香の意識は途絶えた。


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