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29 後遺症です

予定通り、今日は4本上げます!

目が覚めると。


「……なんだ、知ってる天井か」


自室の天井だった。

それも、よく見なれた、ヴァルナ家のミカの自室の天井だ。


ミカは頭だけを動かし、辺りを見渡す。


そこには、ミカが初等学院に行く前と物の配置は変わっておらず、掃除だけはされているのかほこりはない。


そして、ミカが寝ているベッドの横で、誰かが寝ているのが見えた。


セフィアだ。


「…セフィア」


「はっ…お、お嬢様!」


ミカが何となく呟いたセフィアの名前に、セフィアは反応して飛び起きた。


そして、ミカの起きている姿を認めると、セフィアは涙を流し始めた。


セフィアがどうして泣いているのかわからず、ミカが動揺していると、セフィアが用意していたのであろう水をコップに入れて出してきた。


「喉がお渇きでしょう。お水をどうぞ」


そう言われると、確かに喉が異常に渇いている。


「ありがとう」


体を起こし水を受け取り、コップの水を一気に飲み干す。


いくぶんか、喉の調子は良くなった。


窓越しに外の様子を見る。

外は真っ暗だ。


「……」


ミカは、あの時何があったかを思い出す。


(確か、無我夢中で、レーザーみたいなのをイメージして、って所までは覚えてるんだけど…)


そこで、ミカは自分の左腕を見る。


色は既に元に戻っている。

しかし、力が入らないどころか、僅かに動かすのが精一杯だ。

ミカが不思議そうにしていると、セフィアが申し訳なさそうな顔で告げた。


「お嬢様。お嬢様にお伝えしなければいけないことがあります」


「私に?」


セフィアは、ミカの左腕に触れ、話を続ける。


「お嬢様の左腕は…現在の医療技術では治せないかもしれないほどの重症でした…」


「……」


「お嬢様があの悪魔を倒して数週間。全国の名医を呼び寄せましたが、判断はどれも変わらず…」


「……」


ミカは、セフィアの話をどこか他人事のように聞いていた。


(……セフィアの言っていることが、よく分からない。

現実感が無さすぎるの。何か、悪い夢でも見ているのかしら)


ミカは、無事な右手で左腕に触れる。

感覚はある。しかし、動きはしない。

どれだけ力を込めようが何をしようが、思い通りには動きはしない。


受け止められなかった現実が、徐々に浸透して行って。


「……うぅ…っ!」


涙が、流れた。


青眼から、涙が溢れていく。


「……」


セフィアは、何も言わずに部屋を出ていく。

ミカのことを誰よりも思っているのは、彼女なのだ。

アーリアよりも、ジェイナよりも思っている。


思っているが故の、優しさ。


「〜〜〜っ!」


被っていたタオルケットに顔をうずめ、ミカは泣いた。


あの場では、多くの人を救った。


例えアーリアがちゃんとした剣を持っていたとしても、あの悪魔を被害なしに倒せていたかどうかは分からない。

それを考えれば、被害を無しに抑えたミカの功績は賞賛に値するだろう。


しかし、そのために負った代償は、6歳の少女の体にはあまりにも重たいものだった。


もっと魔法を覚えていれば。他の属性の精霊と契約していれば。


後悔ばかりは、いくらでも浮かんできた。










涙も収まり、気持ちの整理がついた頃、セフィアが再び部屋に入ってきた。


セフィアが見たミカは、涙で目を腫らしていても、美少女だった。


「あら、さすがね…」


「お嬢様のことは、誰よりもわかっておりますから」


そして、セフィアは言う。


「下に、降りるのですよね?」


「ええ。……手伝ってくれる?」


「喜んで」


ミカがベッドから降りるのを、セフィアが体を支えて助ける。


数週間寝たきりのミカの体は思ったよりも衰弱しており、ミカは1人では立つことすら困難だった。


セフィアに寄りかかりながら、リビングへと向かうミカ。

リビングには、ジェイナがいた。


「……お母様」


「…ミカっ!」


ミカが、ジェイナの背中に声をかけると、ジェイナはミカの姿を認めるなり抱きついてきた。


その勢いに容易に負けるミカは、セフィアにしっかりと支えられる。


「ミカ…大丈夫なの?」


「ええ、大丈夫よ、お母様」


その言葉を聞いたジェイナは、ミカの、だらんと力無く下がっているミカの左腕を見て、面を伏せた。


「ごめんなさい……私のせいで……」


「何言ってるの、お母様。あの場でああしたのは、私の判断。責任は私にあるのよ」


ミカがそう言うと、ジェイナは優しくミカの頭を撫でた。


「強い子ね…」


「…私は弱いです」


ミカはそう言いながら、セフィアを見る。


「セフィアがいなければ、今頃どうなっていたか」


「お嬢様…」


ミカの言葉に、セフィアは少し笑顔を見せた。


(……私が湿っぽくなってちゃだめね)


ミカは、あえて明るく振る舞う。


「そんなことよりお母様、私お腹がへっちゃった!」


「………ふふ、そうね、準備するわ」


突然明るくなったミカの様子に面食らったようなジェイナだったが、優しい笑みを浮かべて、厨房へと向かった。


そんなジェイナを見ながら、ミカは椅子に座って考え事を始める。


(左腕は、完璧に動かないわけじゃない。私の予想が正しければ、まだ治る)


ミカの左腕が自由に動かないわけは、大怪我していた時にした、過剰な魔力放出が原因だと考えている。


この世界の人間とミカが元いた世界の人間の造りが違うかもしれない。

魔法を使えるということは、体の造りにも密接に関わっているはず。


(だったら、魔力の問題かもしれない。電気を大量に流してショートした機械みたいに)


この予想が正しいかどうかは、試してなければわからない。


そして、肝心の試す方法だが。


(……私はあの時、無我夢中で魔法を作った。だったら、他の魔法も作れるはず)


この世界で魔法を発動するには、イメージが必要。

ということは、強いイメージさえ出来れば、発動できる可能性が高い。


(というより…それに賭けるしかないんだけどね。出来なかった時のために、リハビリはしておこうかな)


実際、日本で大怪我をしたことがないので、リハビリなどしたことがないのだが、そこは勘だ。


「ミカ、出来たわよ」


「ありがとう、お母様」


ジェイナが暖かいスープを持ってきたので、ミカはそれに集中するため、一旦思考を辞める。


ジェイナが持ってきたスープは、ウインナーがメインのスープだ。


そのスープを食べ進めていると、ミカはアーリアがどこにもいないことに気が付き、ジェイナに訪ねる。


「お母様、お父様は…?」


「あの人なら…まあ、大丈夫よ」


「……?」


アーリアがこの時どこで何をしていたのか。

それは、ミカが学院に戻った時にわかることになる。


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