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28 聖武祭、決着の前に悪魔です!?

『それでは、決勝戦はこの2人で行う』


バティスタの声が響く。

結局、ミカと戦うのはジェシカなのか、それとも。


『決勝戦は、ミカ・ヴァルナと、マイ・ニーナ』


ジェシカの名前は聞こえてこない。


「…ジェシカ先輩は、負けちゃったのかな」


「以前お嬢様と模擬戦を行った時よりも強くなっていた印象でしたが、マイ・ニーナという方がそれを上回ったようです。しかし、どこか様子がおかしいとの噂も…」


「…そう。気をつけるわね」


決勝戦まで勝ち抜いてこれるほどの実力を持っていながら、見ている人に『おかしい』と評価される人物。


どんな人なのか、興味が出てきたミカだった。


ミカは、持っていた剣を再び『コンバート』し、フィールドに向かう。


「それじゃ、あとはよろしくね」


「はい、お嬢様」


一体何を『よろしく』するのか。

それは、ミカとセフィアの2人だけが知っている。











「くくっ…」


「……」


(あれが、マイ・ニーナ)


フィールドでミカと対峙したマイの容姿は、ミカが思っていた物とは少し異なっていた。


ブロンドのロングなのだが、頭に『生えている』2本のツノ。

これが、目立ちすぎていた。


(……なんで誰も何も言わないのかしら)


恐らく、人間ではない。

異世界に来たミカが初めて見た、亜人種と言うやつだろうか。


(でも、これだけ人間にしか合わないんだったら、亜人種は亜人種の国があるって考えた方が自然。なのにここに自然に溶け込んでる…何か魔法を使ってる?)


そう思い、ミカは『アナライシス』使う。


そしてミカがその眼から得た情報は、半分当たっていた。


(…『エンチャント』?『インビジブル』?)


『エンチャント』は、人間が使う魔法では効果が出ないものを、物に付与することでその効果を人間が得るといものだ。

本来は自身の武器に魔法を『エンチャント』し、属性を与える。


『インビジブル』は、英語の通り見えなくなる魔法なのだが、これも人間、というより生命体自らが使えることはない。

なので、何かしらの道具に『エンチャント』して、ツノを隠しているようだ。


(ともかく、怪しさ爆発ね)


ミカの限界も爆発寸前なのだが、目の前の存在が異質すぎて、自分のことは忘れてしまっている。


そして、試合開始のコールが鳴り響く。


マイの武器はムチのようだ。


マイはムチをしならせ、ミカを襲う。


「…くっ」


「ヒャァアハハ!」


マイは、まるで自分の手足のようにムチを動かして、ミカをあらゆる角度から攻撃する。

ミカはそれにまだ慣れておらず、苦戦している。


(まずいっ、強化魔法を忘れてた!)


ミカは慌てて『筋力上昇』を唱えるが、『アクイバレント・エクスチェンジ』は唱えられなかった。

それほどマイのムチは、ミカに隙を与えない。


「死んじゃえ! 死んじゃえ!」


「この聖武祭で殺したら、失格だってのに…っ!」


そして、ミカは焦り始めていた。

攻めるきっかけがない。


ムチを捌くのは慣れていた。

今では、あまり無駄な動きをせずに、次に打つ場所を予測した捌きが出来る。

しかし、それだけだ。


(相手の体力切れを待つのもありだけど、相手が人間じゃないなら体力も人間レベルじゃないはず…何か、ないのかしら…)


と、そこでミカは閃く。


『アクイバレント・エクスチェンジ』を使っていないのだ。


(なら……!)


ミカが唱えたのは、簡単な風属性魔法、『ウインド』。

これは風を起こす魔法だが、殺傷性は無いに等しい。

しかし、この時ばかりは有効だ。


「!」


「今!」


マイが驚きに目を見張る。

ムチが、マイの予想していた挙動とは別の動きをしたのだ。

風はマイの方まで流れていない。故に、風の流れを感覚で察知することが出来ないのだ。


これを好機とみたミカは、一気に距離を詰める。

『アクイバレント・エクスチェンジ』の教科はされていないが、『筋力上昇』で十分。


ミカは、逆袈裟斬りでマイのムチをはじき飛ばす。


「ガアッ!」


「はぁ…はぁ…ふぅ、なんとか、勝てた…」


試合終了のコールが鳴り響く。


優勝者はミカ・ヴァルナ。

それを、誰もが認識し、セフィアが控え室から飛び出そうとした時、ミカはその場から壁まで吹き飛ばされた。


「な……に……?」


壁に叩きつけられ、そのまま地面に崩れ落ちるミカ。

ミカを吹き飛ばしたのは、マイだった。


「ワタシハマダ、マケテナイ!」


目は真っ赤に染まり、背中からは真っ黒な翼が生えている。

先程までの身長は100cmだったというのに、今や10mはある。


その様子を見たアーリアは、模擬戦用の剣を持って対峙し、ジェイナはミカを針治療で少しでも動けるようにする。


「うっ…あぁっ!」


「ミカ、少し我慢して…!」


『筋力上昇』でカバーしきれなかった分がダメージとしてミカの体を傷つけたようだ。

しかし、どこも折れてはおらず、ひどい打撲程度で済んだようだ。


ミカが立ち上がり、ジェイナから説明を受ける。


「いい? 今すぐここから逃げて」


「そ、そんな、お母様、あれを倒せる自信があるというのですか…?」


「……私と、あの人でやってみるわ」


あの人、とは、言わずもがなアーリアのことだろう。

模擬戦の剣で10mの悪魔と戦ってるのだから、やれるのかもしれない。

しかし、如何せん剣の攻撃力が足りない。


「くそっ! 刃が削ぎ落とされてるから全く切れねぇ!」


アーリアはそう悪態つきながら、悪魔と化したマイの攻撃を捌く。


それを見てから、ミカは辺りを見渡す。

既に大多数が避難を完了しているようだった。


それを見て、満足気に頷いたミカは、セフィアに言う。


「セフィア…わかってるよね?」


「後のことは…『お任せ下さい』」


ミカとセフィアは既に、何をするのかお互いに分かっているようだった。


分かっていないのは、その場にいるジェイナで。


「な、何をしようとしているの、ミカ」


ジェイナが慌てて、立ち上がったミカの前に立つ。

しかし、ミカはジェイナを優しくどける。


まだ『筋力上昇』がかかっているミカの力なら、ジェイナをどけることなど簡単なのだ。


「ちょっと、片付けてくる」


それだけ言うと、ミカは剣を右手に、悪魔と戦っているアーリアの元へ走っていった。










「お父様!」


「ミカ!? お前、あいつの言う事聞かなかったのか!?」


アーリアが悪魔の攻撃を受け止めたタイミングで、ミカが悪魔の脇腹を切り裂く。


切り裂かれた部分から紫色の血が吹き出し、悪魔が苦しそうに後退する。


「ミカ、なんで来た!!」


「お父様、これを持って、お母様と一緒にいてください! 早く!!」


「……わかった」


ミカの見たことない希薄に押されて、アーリアはミカから受け取った剣を持って、ジェイナの元へ走る。


ミカは、悪魔を目の前にして、新しいことをやろうとしていた。


(私はまだ、風属性魔法としか契約していなくて、得意の強化魔法には直接攻撃できる魔法は無い。だったら!)


だったら。魔法を作るしかないじゃないか、と。


ミカは魔法を頭の中で組み立てていく。

イメージは、全てを貫くレーザーだ。


「いくぞぉぉぉぉおおおお!!」


「シネェェェェエ!!」


悪魔が、猛スピードで突進してくる。


しかし、ミカが唱える魔法の方が早い。


「『イクス・マグナ・レイ』!」


ミカがそう唱えると、突き出した両の手のひらにから魔法陣が出る。

その大きさは悪魔よりも大きく、3つの魔法陣が重なり合って、眩しく光る。

そして、その中心から、空間を切り裂くレーザーが出る。


「ガ、ァァァァアアアアア!?」


そのレーザーは、悪魔の体を貫き、空へと飛んで行った。

雲を吹き飛ばし、どこまでも飛んでいくレーザー。

とんでもない魔力濃度の塊が、飛んで行った。


「………や、ばい、かも」


いくら魔力量が他の人とは桁違いとはいえ、ミカでも限界らしい。

ミカは、両手を突き出したまま、その場に倒れ込んだ。


最後に聞こえたのは。


「お嬢様!」


セフィアの、声だった。

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