27 負けたくないです!
すみません!
今日は2本になってしまうかもしれません…!
もしそうなったら、明日は4本上げます!
その後のミカは、順調に勝利を重ねて行った。
それと同時に、ジェシカも勝利し、勝ち上がっているようだった。
そして、準決勝に、ミカは出る。
「ふぅー…」
「お嬢様…」
ミカは、左腕を無意識に抑えていた。
人が少なくなり、試合から試合までの時間が短くなるにつれ、ミカのケガの具合は酷くなっていた。
それこそ、左腕で剣を振るどころか、今は、何も持てないだろう。
ミカは、無理矢理笑顔を作り、セフィアを安心させようとする。
「大丈夫大丈夫。今までも余裕で勝ってきたんだから」
「…で、ですが」
「それに、もうここまで来ちゃったんだもん。家のことも、多くの人に知られてる」
ミカの家はヴァルナ家であり、少し調べれば、かなりの力を持っていることなどすぐわかる。
ただ、それを今まで行使したことがないだけで。
しかし、ヴァルナ家ということは、アーリア・ヴァルナの娘であるということでもある。
即ち、最強の武術が常に身近にいるのだ。
誰もが、ミカ・ヴァルナがここまで来たのはまぐれでは無いとわかっている。
「……プレッシャーには、なってるんだけどね」
初戦は、実戦経験が殆どないに等しいミカが、いきなり戦った結果だ。
それ以外の試合は全て、完封しているといっても過言ではない。
「お嬢様…」
セフィアが何かを言おうとしたところで、対戦カードが、バティスタによって知らされた。
残り人数は4人。半分の確率で先になるか後になるか。
出来れば、ミカとしては先の方が良いのだが。
『対戦カードは、ミカ・ヴァルナと、キャスラル・ラウラ』
どうやら、ここはついていたらしい。
ミカは、深呼吸を1つして、フィールドへ向かう。
作戦は、『いつも通りに』。
「キャスラル・ラウラです」
「ミカ…ヴァルナ、です」
正直言って、ミカは対戦相手の名前を覚えていない。
正確に言うと、覚える余裕が無い。
痛みを堪えるだけで精一杯だ。
(名前を言えてるのは、これまで言ってきたから…あと日本人の魂のせい)
しかし、相手も準決勝を実力で上がってきた猛者だ。
油断は大敵。
戦闘開始のコールが鳴る。
それを聞いた瞬間、ミカは決まり切った動作を行う。
(まずは、『筋力上昇』と『アクイバレント・エクスチェンジ』!)
まずはも何も、他に魔法を唱える必要は無い。
それを唱えると、ミカは『コンバート』させていた剣を取り出す。
レイピアよりも、剣の方が今のところは慣れているようだった。
強化魔法を施されたミカを警戒したのか、キャスラルは出方を伺っているようだ。
それを好機とみたミカは、全力で突っ込む。
(さっさと終わらせる!)
痛みからか、ミカは全力を出しているつもりで、セーブしている。
でなければ、既にキャスラルごと壁に突っ込んで終わりだ。
ミカが前に出てくる、しかも想像よりも、実際に相対するとスピードがかなりあることに驚いたキャスラルは、反射的に右手に持つ剣を振ってしまう。
(もらった!)
この聖武祭。全員が武器を持つことを強制しているので、武器を破壊されるか、飛ばされるかで負けになる。
ミカの狙いは、そこにある。
(ケガをさせずに勝つ方法は、これだけ!)
キャスラルが振った剣に、ミカ自身の剣を全力で当てる。
すると、キャスラルが持っていた剣は跡形もなく砕け散った。
そこで、試合終了のコールが鳴り響いた。
「……破壊されないように、と警戒していたつもりだったんですが…ありがとうございました、ミカ・ヴァルナ」
「……」
キャスラルが握手を求めて手を差し出すが、ミカは地面を見たまま動かない。
それを見たキャスラルは、ミカの様子がおかしいことを見抜き、ミカの従者であるセフィアを呼ぶ。
「ヴァルナ殿の従者! ヴァルナ殿の様子がおかしい!」
「ミカ様!」
セフィアがミカの肩を掴む。
しかし、ミカの反応はない。
「……」
目は開いている。
だが、反応はない。なぜか。
「……」
肉体的な疲労ではない。
魔力的な疲労でもない。
精神的な疲労だ。
「ミカ様!」
「っ!……あ、セフィア…」
緊迫した試合をしたとは言えないだろう。
しかし、場の空気にあてられて緊張し、疲れる場合もある。
ミカはただでさえ、骨を折り、注目をされていた。
「……なんとか、勝てた…かな?」
「お嬢様、次は棄権致しましょう!」
セフィアが棄権を進めていると、1人の男が観客席から飛び降りて、ミカの元へと走ってきた。
アーリアだ。
「ミカ!」
「お、お父様?」
アーリアは駆け寄った勢いのまま、ミカに抱きつく。
「ミカ、大丈夫なのか!?」
「……う、うん大丈夫だから離れて欲しい…腕が痛い…」
「あ、あぁ、すまない」
そこで、ミカはそういえばと思い出す。
(そういえば、私が控え室にずっとこもってたから、それでお父様はずっと待機してたのかしら)
控え室には保護者は入ることが出来ない。
それを承知で、ミカは入り込んでいたのだが。
ミカは、まだ元気があると見せるために、右腕をぶんぶんと振り回す。
「大丈夫! 最後の試合も勝つよ!」
既にお嬢様口調はどこへ行ったのか。ミカはいつも通り喋るが、それを気にする人はここにはいない。
ミカのそんな様子を見たアーリアは、目を閉じて考え込むと、目を開いてミカの右肩に手を置く。
「……応援はする。だが無茶はするな」
「……うん」
アーリアはそれだけいうと、観客席へジャンプで戻って行った。
ミカは、先程までアーリアが触れていた肩に触れながら、アーリアを見ていた。
(観客席まで10mはあると思うんだけど)
そして、そんなミカの顔を見たセフィアは、集まった人を散らす。
2人は再び、控え室に入る。
「…!……!」
「お嬢様、もう少しの辛抱です」
メイドの極意の針治療といえど、万能ではない。
完治することは出来ずとも、動かせるようになるまで回復させられるのが特徴だが、度合いによって痛みも異なる。
ミカのケガを動かせるまで治療するには、激痛が伴っていた。
「はぁーっ…はぁーっ」
「お嬢様……」
汗をダラダラと流し、痛みに耐えるミカ。
鍼治療は既に終わったが、痛みがまだ残っているようだ。
セフィアはフィールドを見る。
現在、ジェシカと勝ち上がってきた誰かの2人が準決勝を行っている。
それが長引くかどうかで、決勝戦のミカの動きも変わるのだが…。
「大丈、夫。私がやることは変わらないから」
「……わかりました。もうお嬢様に何を言っても無駄でしょうね」
「……よく分かったわね」
左腕よ折れた箇所は既に痛ましい色に変色している。
この聖武祭が終わった後でちゃんと治るのか不安になる色だ。
そして、試合終了のコールが鳴り響く。
「お嬢様…」
「準備は、出来てるから」
決勝戦、ジェシカであろうが誰であろうが、勝ち上がってきた方と戦い、そして勝つだけ。
日本にいた時のスポーツとは形式が違うが、単純さは同じ。
「……大丈夫、やれる」
ミカは、『コンバート』していた剣を出し、右手で軽く振る。
気合いを新たに込めて、ミカは決勝戦に向かう。