25 聖武祭、開催です!
多少怪我の描写がありますが、グロくはないです!
5月の下旬。
1番大きい練習場で、聖武祭が開催された。
「あれ、結構唐突…」
ミカは観客の席で座っている。
隣にはセフィアとジェシカがいる。
セリナはどうやら欠席するようだ。
成績に響く、と先生から忠告はあったようなのだが、『面倒』の一点張りで部屋から出なかったようだった。
いつしか見た、映像を出す技術の応用で、練習場の上空に映し出される。
やはりバティスタの顔だ。
『諸君。今日という日がついにやってきた。諸君には存分に実力を発揮してもらいたい』
(この聖武祭は、事前に対戦相手の情報を得ることがないように、対戦直前に相手が知らされるのよね)
以前、聖武祭当日の朝に貼りだしたのに、対戦相手に試合前に妨害をするという事件が発生した。
それからは、こういった形式が取られている。
(妙なところで現代の科学力と上回っているのよね…)
その割には、管理が行き届いていないようだ。
『さて、では1回戦の選手を紹介しよう』
そうして、聖武祭は始まった。
聖武祭開始から3時間。
未だにミカの名前は呼ばれていない。
(それどころか、ここにいないセリナの名前が呼ばれるってどういうこと?)
なぜかここに来てついていないミカだった。
そして、バティスタの声が響く。
『では、第一回戦の最後の試合を行おう』
(これ私ですやん……)
その後、予想通りミカは呼ばれた。
練習場のフィールドは広い。
サッカーコート1面分はあるだろう。
その中を、2人で戦う。
(場所無駄でしょ)
とミカは思っているが、案外そうでも無い。
仮にサッカーコート半面まで狭めると、範囲魔法で多えてしまうのだ。
魔法というものを真に理解するには、まず日本での常識を捨てなければいけないようだ。
「それじゃあ、やろうか」
「……」
そして、ミカの最初の相手はゴルドーだった。
既に完治しているはずの腹が痛んだような気がして、つい手を当てるミカ。
トラウマになっているようだ。
「あの時はすまない。が、今回は手加減はしないから、死ぬかもしれんぞ?」
「……」
あの時。強化魔法を使っていなかったミカを、全力だと勘違いしているゴルドーはかなり余裕そうだ。
それに対して、ミカは不安そうだ。
(わかってる。私が強化魔法を『ちゃんと』使えば、痛くもなんともない。それはわかってるんだけど…)
恐怖というものは、人間そう簡単に乗り越えられるものでは無い。
そして、無情にも試合開始のコールがかかる。
「行くぞ!」
「…っ!」
ゴルドーが大剣を構えながら突進してくるのに対し、ミカはつい反射で後ろに飛び退いてしまう。
「甘い!」
しかし、前に進むのと後ろに進むのでは、進む距離に差が出る。
あっという間にゴルドーはミカに追いつき、右手に持っている大剣を横に薙ぎ払った。
それを咄嗟に腕でガードしたミカだったが。
「ぐあぁっ!?」
ミカは、何かが折れる音を聞いた。
自分の腕だ。
いくら試合用に刃を落としていると言っても、強靭な威力を持つ。
常人が受けたならまだ分からなかったが、ミカの体はまだ6歳の体だ。
パニックになったミカは、自分自身でも分からないうちに強化魔法を唱える。
ミカの体が紅く光り出す。
『アクイバレント・エクスチェンジ』だ。
「む? …いや、このまま押し切る!」
ミカの体に起きた異変に対して、一瞬様子を見ようかと思ったゴルドーだったが、そのまま袈裟斬りに構える。
そして、ミカは。
「ぁぁぁぁあああああ!!」
『コンバート』を解除した剣を手に収め、全力で振り抜いた。
それは、ゴルドーが持っている剣を叩き割り、ゴルドーの腕を折り、そのまま体をぶっ飛ばした。
地面に2、3回跳ね、転がったところで止まるが、既にゴルドーは気絶していた。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ」
(なんだ…強化魔法はしっかりと機能するじゃない…)
ミカは、自身の強化魔法に改めて信頼を置き、勝利を収めた。
しかし、快勝とは言えない。
「……痛いぃ」
ゴルドーの横薙ぎを防御した左腕は折れてしまった。
見るからに変な方向に曲がったりはしていないが、ミカの指先は痛みで動かすことすら出来ない。
観客には、折れているとは伝わっていないだろう。
「お嬢様!」
「セフィア…治療をお願い」
痛みでフィールドから出られないミカの様子をいち早く察して走ってきたセフィアは、ミカに肩を貸し、その場から歩いていった。
そして、セリナは。
「んー……戦うの、好きじゃない」
セリナは、なぜかミカのベッドの上でゴロゴロしていた。
セリナが『アクセラレート』という魔法を覚えているのも、親がそういう指導をしたからで、今回の聖武祭にも結果を期待しているはずなのだが。
「すやぁ…」
どうやら、そういう指導のせいで反抗的になったようだった。