21 魔力を理解できないです!
何故か20が2回上がってました、すみません!
その日の放課後。
『001』と書かれた寮の部屋で、ミカは考えていた。
「ねえ、セフィア」
「なんでしょうか、ミカ様」
「私、学年級と無学年級のどちらに出るべきかしら」
「無学年級で優勝するべきかと」
「……そう」
現在、ジェシカは外で鍛錬を行っている。
なので、この部屋にはミカとセフィアしかいない。
セフィアの扱いなのだが、アーリアが無理を言って、同室を許可したらしい。
その事については、ミカも素直に感謝した。
(セフィアがいないと、服の着方も分からないし…)
ミカは歳を重ねるごとに、ダメ人間になっていた。
ミカが悩んでいると、扉が開く音がした。
「ふぅ…」
ジェシカだ。
ジェシカは、金髪なのだが、縦ドリルではなかった。
ミカとしては、貴族口調で、金髪と来たら縦ドリルだと考えていたのだが、どうやらそうではなかったようだ。
しかし、それ以外は文句無しの美人なのである。
容姿も性格もいいとなると、ミカが勝てるところは実技ぐらいだが。
「ジェシカ先輩、実技の方はどのくらいなんですか?」
「そうね…まあ、上の中、くらいかしら?」
それでは参考にならない、とミカは思ってしまった。
具体的なものを聞きたかったのだ。
「そうですか」
「まあ、あなたの実力ならば、軽く優勝できると思いますわよ」
「私の実力、ですか?」
「ええ」
どうやら、ジェシカはミカとバティスタの模擬戦を見たようだった。
誰かが映像を上級生の教室まで回していたのだろうか。
(というか、映像を流せるんだったら、録画もできるわよね)
厳密に言うとそれは魔法ではないのだが、授業でその範囲にまだ入っていないミカは、魔法だと思っている。
ジェシカは、自身の武器、レイピアを撫でながら言う。
「私は、あそこまで強く『魔法の質』を上げることなんて出来ませんもの」
「『魔法の質?』」
ミカの中で魔法とは、魔力を一定量込めたら発動するもので、それ以上も以下もないと思っていた。
しかし、ジェシカの言い方では、どうもそれは違うようだ。
「ええ。どんな魔法でも、込める魔力の量が違えば、威力も違う。ただ、高度な魔法の方が、込める魔力の効率が良いというだけですわね」
「……」
(そういうことだった…って、ちょっと待って。
そうなると、私って魔力を理解したつもりでいただけで、魔法に込められるだけ魔力込めてたバカ!?)
ミカの言っていることを実際に行おうとすると、魔法を使う度に常人なら魔力が無くなり、いわばガス欠状態になる。
ミカがしていることは、ミカにしかできない事だった。
(でも、それを行える私の魔力の量っておかしいんじゃない?)
そこだけは、ミカも分かっているようだった。
(特になんの訓練もしてないんだけど…)
ミカの身に起きたおかしいことといえば、体の中には日本人という、この世界の住人ではない魂が入っている事ぐらいだ。
(まさか……違うよね?)
そもそも、日本人は魔法を使えない。
魔法を使える体の中に入り込んだだけで、こんなことにはならないだろう。
ということは。
(お母様がおかしいんだろうなぁ…)
ジェイナなら、変な魔法を使ってもおかしくない。
以前、セフィアにメイドの極意とやらを教えた際にも、『魔法を使って』なんて言っていた。
「そうですわね、私の実力が見たいのでしたら、私と模擬戦でもしませんこと?」
「ジェシカ先輩と、ですか?」
「ええ、私とですわ」
この提案、ミカの為を思って、ジェシカは模擬戦を提案している訳では無い。
ジェシカは、ミカのような、自身の魔力量に依存している相手とも経験を積んでおくべきだと判断したのだ。
そんなこととは露知らず、ミカは食いつく。
「ありがとうございます、ジェシカ先輩。ぜひお願いします!」
「ええ。それでは、いつやるか決めましょう」
この後話し合った結果、模擬戦は次の休みに行われることになった。
「それでは、私はシャワーをお借りしますわね」
「わかりました」
そして、ジェシカがシャワー室に入ったタイミングで、セフィアに聞く。
「次の休みっていつ?」
「3日後、です」
この世界での1年や、1月の日数は日本と変わらず、週も7日で構成されている。
ただ、休みが週に1日しかないという違い程度だが、それもミカにとっては誤差の範囲だ。
「3日後……」
(3日もあれば、ある程度魔力に関して分かるかもしれない)
思い立ったが吉日と言わんばかりに立ち上がり、ミカは外へ出ようとする。
「お嬢様、窓から出るのは……」
「……ダメかな」
「いえ、良いと思います」
窓から外に出たミカは、普通に外に出るよりも早く練習場に着いた。
「この服で動くのはあんまり好きじゃないけど、慣れたことには慣れたわね」
ミカの言う『この服』とは、以前作成した制服仕様の私服のことだ。
できるだけ動きやすいように手を加えてあるが、構造上の限界がある。
とはいえ、これ以外の服などないので(あったとしても純白のドレス)、今はこの服を着ている。
「魔力を感じる…ねえ、セフィア。セフィアは魔力を感じたりする?」
「魔力という目に見えないものを感じ取るというのは、並大抵のことでは出来ないと思います。なので、私には出来ません」
「そっか……」
確かに、とミカは思う。
(魔力って目に見えないものね。魔法とかを発動した時に、結果的に何かしら起きたりするけど)
ミカの『アクイバレント・エクスチェンジ』や、『アナライシス』のように、魔法を発動した時に外に出るのは珍しい。
(体の中にある魔力を、ただ打ち出すようなことが出来たらいいんだけど)
そしてミカは、打ち出せないか試みる。
イメージとしては、指先に集めて発射だ。
(体の中にあるなにか…やっぱりいまいちわかんないなぁ…)
ミカは、よくあるラノベの主人公が『体の中にある魔力……これか!』『君すごいわ!』みたいな流れをよく見てきたが、そんなことは実際には無理だということを痛感した。
「あんなの、想像の中の話だから出来るのよね」
「お嬢様、そろそろ戻らなければ時間が」
「あら、もうそんな時間なのね」
練習場から出て、少し早歩きで戻っていく2人。
開けっ放しの窓の外まできた2人は、一気に部屋までジャンプする。
「お嬢様、私は飛べません」
「あ、そうだったわね」
ミカ達の部屋は2階にあり、着地は出来たが、どうやら飛べはしないらしい。
仕方なくミカは一度降りて、セフィアを抱えて飛んだ。
その時のセフィアの顔は紅潮していたという。